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プロフェッショナル巧の格言 笑福亭鶴笑(落語家) “パペット落語”が国際問題を解決「お笑いの可能性は世界共通」(3)
ボランティアなら、芸能活動という性格上、日本国内でもその目的は達成されそうな気がする。ではなぜ、鶴笑は紛争地へ向かったのか?
「紛争地で取材活動する知人の話を聞いているうちに『平和をうたって活動している以上、紛争地域の実態から逃げてはいかん』と思たからです。『あんなとこ行って何になんねん』という人もいますけどね。何かにはなるんです。やっぱり行って、この目で確かめんことには本当のことはわからないんじゃないでしょうか」
アフガンではタリバンらしき一団につきまとわれ、命の危険を感じた。イラクでは政府軍と反政府勢力がにらみ合い、そして空にはアメリカ軍の無人偵察機という三すくみ状態の中、難民キャンプの子供たちにパペット落語を披露した。その時に現地で聞いた「来てくれて嬉しい。あなたの来訪がニュースになれば、それで我々のことを思い出してくれる人が増えるだろうから。我々には死ぬことより忘れ去られることの方がつらいんです」という言葉が、今も胸に沁みるという。
そんな鶴笑の今いちばんの気がかりが、イスラム系過激派組織『IS(イスラム国)』の問題だ。
「僕らが行ったイラク北部の難民キャンプ。あの頃はまだ安全やったんですが、今はイスラム国の支配下に入り、キャンプもなくなっています。パペット落語で笑ってくれた子供たちは今、どうしているんでしょうか。無事やったらいいんですが…。なんてことを考えると、ほんまに言葉がありません」
いつの間にか声が震えている。イスラム国を巡る情勢の変化は、ボランティアの状況をも一変させた。
「それまで日本人と言えば、イラクの紛争地域にあっても、紛争の当事者ではないということで、一応は護ってもらえたんです。でも今は日本人も『敵や!』と言われて当事者扱い。こうなると正直、命が危ない。いくら自分はどうなってもと思っても、コトがここまで国際的になったら無責任には動けません。でも、行けるもんならまた行って、紛争地の人らに笑ってもらいたいですね。人間は、笑うことによって人間性を取り戻すと思いますから。僕は相手がタリバンでも笑わせる自信がありまっせ(笑)」
現在は大阪を拠点に、パペット落語と講演のボランティアで、全国を忙しく飛び回る。
「世界各国の子供たちにパペット落語を披露し、つくづく思たんは、子供は笑って育たなあかんということ。怯え、震えながら育った子供は、やっぱり怖い大人になりますよ。しかし笑って育った子供は、必ずやさしい大人になるんです。これは自信を持って言えますね。そういう思いがあるからこそ、今、僕はちっちゃい子供たちを笑わせる仕事に生きがいを感じているんです」
そして最後にこう言った。
「この世界に笑いに飢えている人、笑いを求めている人がいる限り、僕はどこへでも行きまっせ」
そのためにも、我々はどこへでも安心して行ける平和な世界を作らねばならない。
【文・福原一緒】
しょうふくてい・かくしょう
1960年、兵庫県出身。’84年、6代目笑福亭松鶴に入門。新人の頃、パペット落語を考案。’00年シンガポールなど、拠点を海外へ移す。’08年より活動拠点を日本に戻し、パペット落語を中心にさまざまな場に出演中。