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ルネサス、200MHz動作を実現した32ビットフラッシュマイコンを製品化

ルネサス、200MHz動作を実現した32ビットフラッシュマイコンを製品化 

 ルネサス テクノロジは4月7日、ハイエンドのACサーボやFA機器などの産業用途や、ビル管理(エアコン、電力監視制御など)、および各種通信機器などに向けて動作周波数200MHzとイーサネット、USB2.0、CANなどのコネクティビティ通信機能、ならびに各種周辺機能を内蔵した32ビットフラッシュメモリ内蔵マイコン「SH7216」グループを製品化したことを発表した。

 「SH7216」のパッケージ写真(左と中央が176ピンLQFP、右が176ピンBGA)

 同グループは、各種用途のさまざまな要求に応じるため、フラッシュメモリ容量を512K/768K/1MBの3種類、FPUの有無、イーサネットの有無、パッケージLQFP/BGAのラインナップ合計12品種36型名をラインナップしており、2009年7月より順次サンプル出荷を開始する予定。サンプル価格はフラッシュメモリ512KB、FPU/イーサネット無しのLQFPパッケージ品「R5F72145BDFA」が、1万個ロット時で1,300円となっている。

 同グループは、従来品「SH7211」に対し、動作周波数1.25倍向上を実現しているほか、1サイクルでアクセス可能なRAMならびに独自のMONOS構造のフラッシュメモリを搭載することで、プログラムを格納して命令を実行する場合、同1.5倍となる480MIPSの処理性能を実現する。

 CPUコアには「SH-2A」に最大200MHzで動作するFPUを内蔵した「SH2A-FPU」コアを採用。倍精度の浮動小数点演算をSH7211比で最大約10倍の速度で処理することが可能だ。

 さらに、デッドタイムを生成可能なPWMタイマを2系統(「MTU2」「MTU2S」)を備えており、多軸モータの制御や高精度を要求するサーボモータの制御が可能なほか、1μs動作の12ビットAD変換器を内蔵することで、モータ制御などの精度向上を実現することが可能だ。このほかDMAC、DTC、データ格納用フラッシュメモリ(FLD)などを搭載している。このFLDは、プログラムの実行中でも、並行してデータの書き込みが可能なバックグラウンドオペレーション(BGO)機能を備えており、プログラムの実行速度を落とすことなくデータの書き込みができるのが特長となっている。

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Cypress、LED照明駆動用のPSoCマイコンを発売

Cypress、LED照明駆動用のPSoCマイコンを発売  

 米国の半導体ベンダCypress Semiconductorの日本法人である日本サイプレスは4月8日に東京で記者会見を開催し、照明用LEDの駆動用PSoCマイコン「PowerPSoC Intelligent LED Driver」の供給を開始したことを発表した。照明用LEDアレイのコントローラとドライバを1チップに集積した製品である。記者会見では、日本サイプレスで本部長 チャネル営業・営業支援を務める吉澤仁氏が説明にあたった。

 「PowerPSoC Intelligent LED Driver」のパッケージとブロック図(一部のみ)

 日本サイプレスで本部長 チャネル営業・営業支援 を務める吉澤仁氏

 PSoCマイコンは、8ビットのCPUコアに周辺回路のほか、アナログ基本回路ブロックのアレイとデジタル基本回路ブロックのアレイを内蔵したマイコン。ユーザーが開発ツールを使ってアナログ基本回路ブロックとデジタル基本回路ブロックを選択し、機能をカスタマイズできることを特長とする。マイコンと外付けのアナログ半導体およびデジタル半導体を組み合わせて目的のシステムを構成するよりも、部品点数とプリント基板占有面積を減らせる。量産規模が少ないシステムや仕様の一部を調整しながらを開発したいシステムなどに適する。Cypressは2003年にPSoCマイコンを開発して販売を始めてから、これまでに累計で5億個を超えるPSoCマイコンを販売してきた。

 PSoCマイコンの概要

 記者会見で紹介した新製品はLED駆動回路とPSoCマイコンを1チップのシリコン(ダイ)にまとめたもので、駆動チャネル数および内蔵MOS FET(LED駆動用FET)の仕様の違いによって6種類の品種がある。駆動チャンネル数は4あるいは3、内蔵MOS FETの仕様は電流1Aあるいは電流0.5A、なし(LED駆動用FETを内蔵しない)である。価格は公表していない。パッケージは56ピンのQFN。

 4チャネルのLED駆動用FETを内蔵し、FETの駆動電流が最大1Aの「CY8CLED04D01」の場合、LEDの駆動用に定格電圧が32VのローサイドnチャネルMOS FETを内蔵する。32Vの定格だと、直列接続で最大7個のLEDを駆動できるとする。MOS FETのオン抵抗は0.5Ω(電流1A)。16ビットと高分解能のPWM調光回路を内蔵しており、異なる発色のLEDチャンネルを組み合わせることで微妙な色合いを調整できるという。例えばダウンライトへの応用例を示していた。赤色LED、緑色LED、青色LED、琥珀色LEDを組み合わせて色温度を2500K~10000Kの範囲で調整する。

 「PowerPSoC Intelligent LED Driver」の内部ブロックと概要。PSoC側はブロックフラッシュメモリを内蔵したフラッシュマイコンで、パワー側(ブロック図の下側)は4チャネルの16ビットPWM方式LEDドライバ

 「PowerPSoC Intelligent LED Driver」を利用したLED照明システムの回路例(外付けのAC/DCコンバータによって直流32Vの電源を生成し、LEDのバイアス電源とする。黄色い領域がPowerPSocの回路部分。内蔵のDC/DCコンバータによって外部電源の32Vを内部電源の5Vに変換している)

 ダウンライトへの応用例。赤色(RED)LED、緑色(GREEN)LED、青色(BLUE)LED、琥珀色(AMBER)LEDを組み合わせて色温度を2500K~10000Kまで調整する

 記者会見ではこのほか、開発キット2品種と開発ツールソフトウェア「PSoC Designer」を使って開発作業の一部を披露してみせた。異なる発色のLEDを組み合わせて色合いを変化させ、CIE色度図における設定値を決める工程である。LEDの発色を微調整し、所望の発色が得られたところで設定値を格納する。

 開発キット2品種の概要(上はスターターキットの「CY3268」。入門用である。価格は60ドル。下は本格的な開発キット「CY3267」。価格は175ドル)

 スターターキット「CY3268」を動かしたところ(キットの説明にあたったのは日本サイプレス技術部の松添信宏氏)

 開発キット「CY3267」の実物(コントローラ搭載のメインボードと、LED搭載のサブボードに分かれている)

NIMSなど、銅酸化物高温超伝導体と似た状態を持つ新物質を発見

NIMSなど、銅酸化物高温超伝導体と似た状態を持つ新物質を発見 

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで構成される研究グループは、J-PARCミュオン科学実験施設(MUSE)において、新物質のイリジウム酸化物Ba2IrO4が銅酸化物高温超伝導体の母物質によく似た性質を持つことを明らかにした。

 同成果は物質・材料研究機構(NIMS)の岡部博孝研究員、磯部雅朗グループリーダー、青山学院大学の秋光純教授、およびKEK物質構造科学研究所の門野良典教授、三宅康博教授らによるもので、米国科学誌「Physical Review B」(オンライン版)に掲載された。

 高温超伝導は、銅酸化物や鉄系物質など、新しい物質で発現することが確認されており、超伝導が発現する温度は最も高いもので約マイナス110℃(160K)まできている。しかし超伝導の活用には、さらなる高温での実現が求められており、物質研究が各所で進められている。同研究グループは、新しい超伝導体の開発とその発現メカニズムの解明に取り組み、今回、6万気圧という高圧下で合成された新物質Ba2IrO4を、ミュオンスピン回転法(μSR)を用いて、その磁気状態を観測した。

 Ba2IrO4の結晶構造。(出所:KEK Webサイト。画像:物質・材料研究機構 強相関物質探索グループ)

 Ba2IrO4は、代表的な銅酸化物超伝導体La2CuO4と結晶構造が一致しているのみならず、電子のスピンと軌道の相互作用による新しい絶縁体状態を形成していると考えられている。

 物質の局所磁場を測定できるμSRで詳しく調べた結果、Ba2IrO4はマイナス33℃(240K)以下でスピンの向きが互い違いに秩序よく並ぶ反強磁性相が出現することが確認された。

 Ba2IrO4の温度変化による内部磁場の大きさの変化。240K以下で一様な内部磁場が現れる。これは、低温で、物質内のスピンが互い違いに並んでいること(反強磁性、左下図)を示している。(出所:KEK Webサイト、画像:物質・材料研究機構 強相関物質探索グループ)

 さらに詳細な解析を行ったところ、個々のイリジウム原子が持つ磁気モーメント(磁石の強さ)が、理論値よりもかなり小さいことが判明。これらの現象は、高温超伝導体の母物質の銅酸化物でよく観測されている現象であることから、Ba2IrO4でも高温超伝導につながる可能性があることが示唆されたと研究グループでは説明している。

ST、航空宇宙産業向けにQML-V規格認定のアナログICラインアップを拡充

ST、航空宇宙産業向けにQML-V規格認定のアナログICラインアップを拡充 

 STMicroelectronicsは、放射線耐性を強化した欧州の航空宇宙産業向け製品(Rad-Hard製品)ポートフォリオとして、米国DSCC機関のAmerican QML-V規格による製品認可を取得した4種類のオペアンプを追加したことを発表した。これらの製品を活用することで、宇宙空間のような極限環境下における機器の耐用年数を長期化することができると同社では説明している。

 米国衛星工業会(Satellite Industry Association)の調査では、世界の衛星業界は順調に成長を続けており、2010年には全世界での合計売上規模は1681億ドルに達し、過去5年間の業界の年間平均成長率は11.2%だという。特に、エンタテインメント、ナビゲーション、通信などの日常生活における多くの活動が衛星に依存するようになってきており、それらが正しく機能し、より高い信頼性を備えるためには、宇宙空間に存在する高レベルの放射線への耐性が電子部品に不可欠となる。

 そうした状況の中、同社は低線量率の放射線を含む300krad(Si)の電離放射線に対する標準強度(トータルドーズ耐性:TID)を確立しており、航空宇宙業界における1つの基準となっているほか、放射線耐性保証(Radiation Hardness Assurance:RHA)認定製品として最初に低線量率増感フリー(ELDRSフリー)ICを提供したサプライヤとなっている。

 今回発表された4製品はいずれも同社のBiCMOS技術を用いて設計されており、宇宙用認定を取得した時点で欧州推奨部品リスト(EPPL:European Product Part List)に追加されている。

 「RHF484」は、同社が従来提供してきた「RHF43B」の4チャネル品で、業界標準品の代替となるもの。Flat-14Wパッケージに搭載され、2011年8月にQML V認定を取得している。

 また「RHF310/330」は、広範囲の信号コンディショニング・アプリケーション向け5Vオペアンプで、120MHz製品および1.0GHz製品は、既にQML V認定を取得済みで、550MHzの「RHF350」は、2011年第4四半期に認定を取得する予定となっている。

 なお、これらの製品は、シングル・イベント過渡に特に配慮した設計となっており、小振幅、短期間グリッチという完全な特性が保証されているという。

 業界標準品の代替となる「RHF484」と、その適用イメージ

理研ら、大視野・高分解能な「走査型コヒーレントX線回折顕微法」を開発

理研ら、大視野・高分解能な「走査型コヒーレントX線回折顕微法」を開発 

 理化学研究所(理研)、大阪大学、名古屋大学は9月28日、物質中の電子密度分布および特定元素の分布を大視野かつ高空間分解能で観察することのできる「走査型コヒーレントX線回折顕微法」を開発したことを共同で発表した。理化学研究所播磨研究所放射光科学総合研究センターの石川哲也主任研究員、大阪大学大学院工学研究科の高橋幸生准教授、名古屋大学大学院工学研究科の是津信行准教授らのグループによる研究で、成果は米科学雑誌「Applied Physics Letters」のオンライン版に、アメリカ東部時間9月28日に掲載。

 近年、電子顕微鏡やプローブ顕微鏡の発展が目覚ましいが、これらの顕微鏡では10μm以上の広い領域にわたって100nmル以上の厚さを持つ試料の内部を10nmより優れた分解能で非破壊観察することは難しいとされている。

 一方、X線をプローブとした顕微鏡は、X線の高い透過性を利用することで厚い試料の観察を行うことが可能だ。しかし、レンズの作製が難しく、空間分解能の点で他の方式の顕微鏡に大きな後れを取ってきたという経緯がある。

 「干渉性(コヒーレント)X線散乱」と「位相回復計算」という特殊な計算を利用する「コヒーレントX線回折顕微法」は、レンズを使わない顕微法なので前述した技術的な問題を回避でき、近年、第3世代放射光施設を中心に盛んに研究されている次第だ。

 これまで、研究グループでは大型放射光施設「SPring-8」の理研物理学科Iビームライン「BL29XUL」において、「X線集光ミラー」を駆使した高分解能コヒーレントX線回折顕微法を開発し、10nmより優れた空間分解能を達成してきた。しかし、コヒーレントX線回折顕微法で空間分解能が向上した反面、観察対象とする試料サイズは小さくなり、200nm以下の孤立物体に限定されるという、また新たな問題が生じていたのである。しかし、その観察領域が制限されるという問題の解決策もすでに開発済みで、それが「走査型コヒーレントX線回折顕微法」(通称、X線タイコグラフィ)だ。

 ただし、X線タイコグラフィにも問題点がないわけではない。X線照射領域が重なるように試料を2次元的に走査し、各点からのコヒーレント解析パターンを測定する仕組みなのだが、試料上の正確な位置にX線を照射しないと、再構成像の空間分解能が低下してしまうのである。

 そこで、研究グループでは高輝度光科学研究センターの大橋治彦副主席研究員、仙波泰徳研究員らと共同で、BL29XULの実験ハッチ内にX線タイコグラフィ測定用の「恒温化システム」を構築。「温度ドリフト」によるX線照射位置エラーを軽減させてきた。それに加え、X線照射位置を修正する技術開発にも成功し、10μm以上の視野を10nm以下の空間分解能で観察可能なX線タイコグラフィ法を開発・実証したのである。

 さらに研究グループは今回、X線のエネルギーが内殻電子の結合エネルギーに近い状態の「吸収端近傍」で共鳴効果によって生じる元素の「X線異常散乱」を利用することで、これまでX線タイコグラフィで観察可能であった試料電子密度分布に加え、特定元素の分布の可視化も行った次第だ。

 今回の開発の観察資料には、「金/銀ナノボックス粒子」を利用。金/銀ナノボックス粒子の合成は、「ポリオール還元法」によって合成された銀ナノ立方体粒子を「塩化金酸溶液」中に浸し、銀と塩化金イオン間の「ガルバニ置換反応」によって行った。

 コヒーレントX線回折パターンの測定は、前出のSPring-8のビームラインBL29XULにて実施。X線エネルギーを金元素の「L3吸収端」(11.920keV)よりわずかに低い11.910keV、11.700keVに合わせ、各エネルギーのX線を集光ミラーによって約600nmのスポットに集光した。

 そして窒化ケイ素膜で指示した金/銀ナノボックス粒子に集光X線を照射し、試料を500nmステップで光軸垂直方向に2次元的に走査し、各エネルギー、各資料位置において、前方方向に観察される散乱X線強度をX線CCD検出器で測定した(画像1)。

 画像1。元素識別X線タイコグラフィの概念図。画像の左下にある集光ミラーによって放射光X線を数100nmのスポットに集光し、その焦点面に試料の金/銀ナノボックス粒子を配置。そして試料を2次元的に走査し、各点で前方に弾性散乱するX線強度の分布(コヒーレント回折パターン)をX線CCD検出器で測定する。なお、X線エネルギーを特定元素の吸収端下の2つのエネルギーに合わせ、それぞれのX線エネルギーで、コヒーレント回折パターンの測定を行う。そして、コヒーレント回折パターンに位相回復計算を実行し、試料の電子密度分布増を導き出す。さらに、2つのエネルギーの電子密度分布増の差分を計算することで、吸収端に選んだ元素分布増を抽出するという流れである

 この時、測定装置は、恒温室内に設置し、温度変化が0.01℃以下になるまで安定化させている。さらに、試料中の孤立ナノ粒子を位置基準とすることで、各点での測定後にドリフトによるX線照射位置のずれを修正し、毎回、正確な位置へX線照射を行った。

 ただし、金/銀ナノボックス粒子から散乱されたX線による回折パターンは、試料背面の波動場のフーリエ変換の大きさの2乗に比例し、ナノ粒子の微細構造にとても敏感だ。だが、この回折パターンには散乱X線の位相情報が含まれていないため、「逆フーリエ変換」しても粒子の像を得ることはできない。そこで、位相回復計算という特殊な処理を行うことで、試料像を再構成するのである。

 この位相回復計算という特殊な計算が通常の顕微鏡のレンズの役割を担っており、1つのエネルギーの測定で得られる複数の回折パターンから得られる像は、試料をX線入射方向から見た投影像に相当する(画像2・左)。この投影像は、走査型電子顕微鏡像(画像2・右)で得られるコントラストとは異なり、粒子によるX線の位相変化(電子密度分布)を反映している形だ。

 画像2。金/銀ナノボックス粒子のX線タイコグラフィ像および走査型電子顕微鏡像。X線タイコグラフィでは、数100個の金/銀ナノボックス粒子およびナノロッド内部の中空構造を鮮明に観察することができ、位相シフト量(電子密度分布)が定量化される。X線タイコグラフィ像のピクセルサイズは8.4nm。一方、走査型電子顕微鏡像では、表面のみの情報で内部の構造を観察することが不可能

 このX線タイコグラフィ像のピクセル分解能は、8.4nmで観察領域は5μm四方以上ある。数100個のナノ粒子と、1つのナノロッドが再構成されており、走査型電子顕微鏡では観察できない各粒子内の中空構造も鮮明に捉えることが可能だ。この像では、ナノロッドが部分的にチューブ構造を有していることが確認できるというわけだ。

 さらに、2つのX線エネルギーの再構成像の差分を計算すると、金元素のみの再構成像が導き出される(画像3)。これは、選択した2つのX線エネルギーにおいて金元素のX線異常分散項の実部の値が大きく異なるからだ。金元素を反映したこの差分像を見ると、粒子の表面に金元素が局在していることがわかる。

 画像3。X線エネルギーが11.70keVおよび11.91keVの際の金/銀ナノボックス粒子のX線タイコグラフィ像およびその差分像(元素識別X線タイコグラフィ像)と1つの粒子の断面プロファイル。金元素のL3吸収端(11.920keV)の下のエネルギーで金の異常分散項の実部が大きく異なる2つのエネルギーで測定を行うと、X線タイコグラフィ像の差分像が金元素のコントラストとなる。各粒子の表面に金が局在していることがわかる

 また粒子1つの断面から粒子の壁の幅を調べたところ、表面から20nm程度の領域までは金が多く含まれていることも確認された。従来の研究では、同様の金属ナノ粒子で、単相の金-銀合金の存在が示唆されていたが、今回の結果から、銀が多く含まれる領域と金が多く含まれる領域とに層が分かれている可能性があることが判明している。

 走査型コヒーレントX線回折顕微法はnmからμmに及ぶ広い空間スケールをカバーできることから、さまざまな試料観察への応用が期待されているという。例えば、超微細粒金属材料の特異な力学特性や脳神経細胞のネットワーク構造など、マルチスケールでの構造がその機能性と密接に関係している金属材料および生体物質の構造・物性研究などだ。

 現状の問題点としては、コヒーレントX線の強度が十分でないため、回折パターンを取得するのに10時間程度を要してしまうことが挙げられる。しかし、現在検討されているSPring-8の次期計画で実現する高性能放射光源により、測定時間の短縮が可能となる模様だ。その高性能化により、100μmのサイズの細胞1つを10nmの分解能で3次元観察することも不可能ではないとする。

 また、SPring-8での測定では、観察の空間分解能は、究極的には試料損傷によって制限されてしまう。しかし、SPring-8内にあるX線自由電子レーザー施設「SACLA」を用いたシングルショットイメージングを用いれば、試料が壊れる前の測定が可能となり、試料損傷による限界を大きく凌駕する分解能が得られると期待されている。この場合、細胞の観察を例に挙げると、細胞内小器官1つひとつのサブナノメートルイメージングおよびダイナミクスの研究が実現するという。

 SPring-8とSACLAの相補利用により観察対象の空間スケールの幅を広げ、さらに時間スケールも広げることで、マルチスケールでの時空間イメージングが実現することが期待されている。

HN:
上原健二
性別:
非公開
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