仕事で役立つ人気ビジネスアプリおすすめ!
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
複雑化するものづくり
良い「モノ」を作るための良いものづくりの在り方とは
2011年3月11日に発生した東日本大震災は産業界にも大きな打撃を与え、工場の復旧のみならず、サプライチェーンの寸断、人的被害など、現代日本のものづくり分野が抱える多くの課題を浮き彫りにした。また、グローバル化する世界経済における欧州の財政危機などを背景とする経済状況の軟化と急速な円高の進行により、日本の産業界は2重の苦難に直面することとなっている。
その一方、従来の製品よりも高機能かつ高性能な電気自動車(EV)やスマートフォン/タブレットなど、新たなカテゴリの製品が登場してきており、ものづくりの在り方も、グローバルな資材調達、パートナー連携によるグローバル市場への進出と、それに見合った製品管理と製造プロセスの構築など、それを取り巻く環境の複雑さが増すばかりである。これは何も、最終製品を販売する大企業だけに限ったことではない。初期iPodの鏡面外装を新潟県の燕市の職人が行っていたことは有名だが、地方の中小企業でも技術があると知れれば、海外からもビジネスの依頼が来るようになり、否応なくグローバル化に巻き込まれることとなってきているし、東日本大震災と長引く円高を契機に、利益が出にくい国内での工場の操業をあきらめ、海外へ活躍の場を移そうと検討する中小企業も出てきている。
こうした世界規模でのものづくりに対する変化は複雑さを増しつつ、止むことのないグローバル化により今後、さらに複雑なものへと変化していくだろう。こうした増大する”ものづくりに対する複雑化”にどう対応していくのか、その解としては「複雑性を管理する」と行為を行うことが挙げられる。それは何もすべてのパーツなどを集めて最終的に商品に仕立てる大企業が行うだけでは不適切で、その製品を生み出すために連携する大中小すべての企業が協調して行う必要がある。
複雑化するさまざまな要因の代表例(左)。持続可能性(サステナビリティ)の項目1つだけを見ても、対応する事柄は次々と増えていっている(右)(資料提供:シーメンスPLMソフトウェア)
また、複雑化とグローバル化の進展と並ぶ形で、単にモノを作れば売れるという時代は終わりを迎えており、そのモノを使うとユーザーはどのような価値を得られるのか、つまりそのモノを通してどのようなライフスタイルを生み出せるのか、ということを提案する力がよりビジネスの勝敗を決するようになってきている。デザイン、機能、UI、そして使っているときの心地よさ、ワクワク感。こうした定量的に示せないものを、複雑化が進みながらも、短TAT化が求められるものづくりの現場でどうやって提案していくのか。こうした商品の設計、製造、エンドユーザーからのフィードバックといった横の連携と下請け、孫受けなどとの縦の連携、そして複雑化を併せて管理できる答えの1つに「PLM(Product Lifecycle Management)」の活用がある。
ものづくりの始まりから終わりまでを見るPLM
PLMは大企業が、コンポーネントやソフトなどを組み合わせて、管理するのもだろうと思う方もいると思うが、残念ながら、それはPLMの1つの側面しか見ていないものの言い方である。
PLMは日本語に乱暴に訳せば、”製品の誕生(企画)から死ぬ(廃棄される)までの一生を知ること”に相当する。ユーザーの手に渡った後は、ユーザーが自由に使ってもらう。それは当然だが、だからと言って、売ったらお終い、というのはもはや現在のものづくりには通用しない。使い勝手が悪ければ、すぐにネット上でその製品のネガティブな話題であふれることになるし、それは強力な製品の改良ニーズとして設計、製造側に戻ってくる。
そして開発チームには、そのフィードバックを受けて、何が問題なのか、どうすれば改善できるのか、どの程度の速さでそれが実現できるのか、といった要求を突き付けられることとなる。センサやマイクの感度をもっと上げてもらいたい、キーのストロークを硬く(柔らかく)してもらいたい、ボタンの位置が使いづらいといったハード的なものから、UIが使いづらい、デザインが悪い、色が悪いといったようなソフト的なものまで、ありとあらゆる要求をユーザーは出してくる。
こうしたニーズのすべてに対応することは難しい。だが、それをしなければ製品競争に負け、その市場からの撤退を余儀なくされるというジレンマは良くある。市場で勝つためには先行者利益の獲得を目指した開発の短TAT化と製品の立ち上げの早期化、そして製造終了までの期間をできる限り長くすることが求められる。もう1つ、そうして得たノウハウを次の製品開発に向けて蓄積していく必要もある。
製品の立ち上げ時期を早め、利益を得る期間を出来る限り長くし、製品の販売寿命を伸ばすためには、様々な部門や分野の企業が連携していく必要がある(資料提供:シーメンスPLMソフトウェア)
こうしたものづくりのすべて領域をカバーしようというのがPLMの大きな趣旨である。この表層だけ見ると上述した最終製品を販売するメーカーが活用するようなイメージとなるが、実際にコンポーネントやバルブ、ネジ1つまで考えるとすべてを商品の販売メーカーで製造しているわけではなく、下請け、孫請けといった中小企業がそれを担当している。真のPLMは、そうした企業まで含めた複雑性の管理を目指すものと言えるだろう。
最適化はものづくりのチェーン全体で行わなければ歪みが生まれ、やがてそこが再びボトルネックとなる。複雑に絡み合う様々な要因をどう全体で最適化を実現するのか。力技では到底無理であり、そこにITの力を、ということになるが、ものづくりにおける代表的なものがPLMの活用ということになる(資料提供:シーメンスPLMソフトウェア)
国立天文台など、M33銀河の分子ガス雲と星間塵の精密な広域分布地図を完成
国立天文台と上越教育大学は、「さんかく座銀河M33」(画像1・2)において、「星のゆりかご」となる物質の広域かつ精密な地図を完成させたと発表した。研究は国立天文台の小麥真也助教と上越教育大学の濤崎智佳准教授を中心とする研究グループによるもので、成果は「日本天文学会欧文研究報告(PASJ)」10月25日および12月25日発行号に掲載された。
画像1。今回の研究で得られたM33の画像。赤が銀河に分布する若い星、青が星の材料となるガス、緑がガスの生産工場の塵を表している
画像2。すばる望遠鏡による可視光で見たM33の画像
今回の観測のターゲットであるM33は、我々の天の川銀河からの距離はアンドロメダ銀河に次いで近く、いわば「お隣さん」の銀河の1つ。その距離は約270万光年で、しかもほぼ正面を向いているため、銀河の渦巻き構造などを見渡せるのが特徴である。よって、分子雲などの星間物質を精密に調べるのに適した銀河といえる。
しかし、その一方で近距離にあるため、見かけのサイズがとても大きくなるという観測が難しい銀河でもある。M33の見かけのサイズは満月約2個に相当しており、これまでの電波観測では、高い精度で巨大分子雲などの細かい構造を分解しつつ、同時にその全体像を把握するということが困難だった。
今回の研究は、長野県の「野辺山45m電波望遠鏡」(画像3)と、南米チリ・アタカマ砂漠の「ASTE(Atacama Submillimeter Telescope Experiment:アタカマサブミリ波望遠鏡実験)望遠鏡」(画像4)を用いて、合計1000時間以上の観測が行われた。なお、ASTE望遠鏡は、稼働を開始した「ALMA望遠鏡」(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)から10kmほど離れた場所に設置された南半球初の10mクラスサブミリ波望遠鏡である(ALMA望遠鏡の66台のパラボラアンテナ群とは別の望遠鏡)。
画像3。野辺山45m電波望遠鏡。ミリ波の波長で観測を行う望遠鏡としては世界最大の口径を持つ
画像4。ASTE望遠鏡。南半球初の10mクラスサブミリ波望遠鏡で、波長0.1mmから1nmで観測できる。国立天文台と、上越教育大学など複数の大学で運営している
野辺山望遠鏡の特徴は、ミリ波の波長で観測を行う望遠鏡としては世界最大級の口径を持つこと。さらにそこに搭載されている「BEARS受信機」(The 25-BEam Array Receiver System)は1度に25点の観測を行え、広い領域での高感度観測を効率的に実行することが可能だ。
また今回、「On-The-Fly」(OTF)法と呼ばれる、広い範囲のデータを効率的に取得できる方法も開発され、野辺山45m電波望遠鏡に実装された。これらの相乗効果による観測性能の向上により、高い精度で分子ガス雲の広域画像を得ることが可能となったわけである。
星間塵の観測は、ASTE望遠鏡とそれに搭載されたカメラ「AzTEC」(Astronomical Thermal Emission Camera)によって行われた。アタカマ砂漠の電波観測に適した気象条件に加え、空の100カ所以上の場所を一挙に観測できるという威力を持つAzTECカメラと、広い範囲を効率的に観測するためのOTF法、さらに再帰的主成分解析「FRUIT」と呼ばれる広い範囲の観測データに特化した解析手法を新たに開発して用いたことで、広域の星間塵の高精度な地図を得ることができたのである。
星間物質の1つである分子雲は、主成分である水素が分子として存在し、1cm3あたり100個程度の水素分子を含んだ比較的密度の高いガス雲だ。水素分子のほかに一酸化炭素分子などさまざまな分子も含んでおり、その温度は~10K(~-263℃)と低いために可視光で光ることができないが、分子雲中に存在するさまざまな分子の放射する輝線を電波の波長域で観測することは可能だ。
分子ガスの形成は、希薄な水素の原子同士が衝突することで形成されるが、通常の宇宙空間では、3次元的な広がりがあるためにその衝突の頻度が小さすぎて効率的に分子ガスを作ることができない。しかし、星間塵の表面は2次元の面になっているために水素原子同士が衝突しやすく、分子ガスはそこで作られると考えられている。また、星間塵の温度も表面上での反応効率に大きく影響すると考えられており、特に摂氏マイナス250℃程度の「冷たい」星間塵は分子雲の形成において密接に関係していると推測されるという。
しかし、冷たい塵が銀河の中にどのように分布しているのか、その温度は場所によってどう変化するのか、また温度を決めているのは何なのかといった情報は分子雲の形成、星の形成を知る上で貴重な情報だが、これまではその分布を広範囲に高い解像度で観測することは技術的に困難だったというわけである。
また、冷たい塵を観測するために必要なサブミリ波は、地球の大気によって吸収されてしまうために観測可能な場所が限られてしまうという問題点も存在している。今回の成果は、アタカマ砂漠の希有な気象条件、高性能のサブミリ波望遠鏡、新しい装置と観測手法が組み合わさって初めて得られたものだという。
なお今回の観測では、銀河全面にわたって星間塵が検出された。しかも、M33の「冷たい」塵が観測されたのは世界で初めてのことであり、M33では塵も星と同様に渦を巻いており、塵の発見された場所のほとんどで、活発に星が形成されていた(画像5)。
さらに人工衛星からの赤外線データを組み合わせて塵の温度を測定したところ、温度がとても緩やかに銀河中心から外に向かって低下していることが確認された。中心部はマイナス250℃で、2万3000光年離れた銀河の外側ではマイナス260℃だったという(画像6)。この緩やかな変化は、東京・ニューヨーク間に換算すると20兆分の1度にしかならず、このような温度勾配が発見されたことも初めてたという。
画像5。M33の星間塵地図(左)とその温度地図(右)。塵は渦を巻いている様子が見て取れる。温度は、赤いほど温度が高く(摂氏-250℃)、青いほど低い(摂氏-260℃)
画像6。M33に分布する星間塵の、銀河中心からの距離に対する温度変化のグラフ
そして、冷たい塵の温度を決定している原因についても判明。これまで、塵は周辺の明るい大質量星からの光で加熱されていると考えられてきた。しかし、そうした大きな星は数が少なくまばらにしか存在しないため、銀河の温度地図を描けば場所によって激しく温度が変化すると予想されたが、実際には前述したように滑らかで緩やかに温度変化しており、予想と明らかに矛盾した結果が観測されたのである。そこから導き出された結論が、冷たい塵を暖めているのは、同じように銀河の中心から滑らかに数を変化させている、太陽のような一般的な小さな星の光だったというわけだ。
ちなみに、希薄な水素原子のガス雲から形成された分子ガス雲は、さらに凝縮することで星を作る密度の高い塊を作る。このような分子ガス雲が銀河のどこにどれくらい分布しているのかを知ることは、星がどのように作られるかを知る上で重要な情報となる。
今回の研究で精密に測定された分子ガス雲の分布から、M33における分子ガス雲は希薄で滑らかに分布する成分はほとんどなく、大部分が太陽の数十万倍の質量を持つ巨大分子雲のような塊で存在していることが判明した。それらの分子ガス雲の塊は、活発にたくさんの星を形成しているものがある一方で、ほとんど星を作っていないものもあり、星を作っているかどうかという意味では大きな多様性を示していることも確認された。
また今回得られた分子ガス雲の地図を利用することで、研究グループはM33における水素ガス雲全体の中での密度の高い分子ガス雲がどのくらいの割合を占めているか、という「分子ガス雲比率地図」の作成にも成功した(画像7)。さしわたし5万光年以上にもおよぶ銀河全体にわたって、100光年という小さなスケールでの比率地図を得たのは、天の川銀河以外では初めてのことである。この結果、銀河の内側の領域では外側よりも分子ガス雲の比率が高くなっていること、さらに全体の水素ガス雲の量が同じでも、銀河の中心に近い内側の領域の方が分子ガス雲比率が高くなっていることが明らかになった(画像8)。これは、銀河の内側では、銀河の外側よりも効率よく希薄な原子ガス雲から分子ガス雲が形成されていることを示しており、この効率の良さには、銀河の内側では分子ガスの形成を促す作用を持つ「重い元素」の量が多いこと、ガス円盤の厚みが内側では外側と比較してより薄くなっていることなどが関係していると考えられるという。
画像7。M33の分子雲地図(左)と分子雲比率地図(右)。太陽の10万~100万倍の質量を持つ分子雲の塊が多数存在し、銀河の内側では分子雲比率が高くなっているのがわかる
画像8。水素ガス雲全体の量に対する分子ガス雲比率。水素ガス雲の量が同じでも、銀河の中心に近い内側の領域の方が分子ガス雲比率が高くなっている。これは、単純に銀河のどこでも同じ割合で分子ガス雲が作られているわけではなく、銀河の内側で分子ガス雲の形成効率が高くなっていることを示している
それから、今回の研究の最も重要な意義として研究グループが挙げるのが、天の川銀河以外の銀河に対して精密な分子ガスと塵の地図を作製したことだ。星は宇宙で最も基本的な要素であり、星が形成されるプロセスとその環境を知ることは、現代天文学の重要な課題の1つである。今回得られた分子ガスと塵の地図は、星を作る材料とその材料を作る「工場」の分布を示しており、星間物質から星の形成へ一連のプロセスを理解するための重要な手がかりとなることが期待されているとしている。
なお、今回の研究で明らかになった分子ガス雲と星間塵の地図から、分子ガス雲の形成や星間塵の性質などに関するさまざまな知見を得ることができたが、未解明の部分もある。その1つが、これらの分子雲や星間塵の中で具体的にどのようなプロセスで星が形成されていくのかという点だ。研究チームでは今後、ASTE望遠鏡を用いて星が形成される直前の密度の高い分子雲の観測、さらにはALMA望遠鏡を用いて巨大分子雲内部の構造を分解する観測などを行い、星間物質から星が作られるまでの統一的な描像を明らかにすることを目指すとしている。
JNC、汚染水を対象としたセシウム(安定同位体)の除去・回収技術を開発
JNCは、海水を含むセシウム汚染水を対象とした、ラボスケールにおけるセシウム(安定同位体)の除去・回収の技術開発に成功したことを発表した。同技術は、東日本大震災により発生した放射能汚染水に含有される放射性セシウムの除去・回収にも利用可能だという。
今回同社が開発した技術は、セシウム汚染水に水溶性のフェロシアン化物を加えセシウム結合体とした後、セシウム結合体に磁性体原料となる塩化鉄を加えて反応させ、アルカリ水溶液を用いて磁性を持つセシウム結合体とし、磁石を用いてセシウム結合体を磁気分離することで、汚染水からセシウムを除去・回収するというもの。
ゼオライトなどの固形吸着剤を使用する場合と比較して、短い処理時間で高いセシウムの除去率が得られ、廃棄物量の低減が期待できるという。また、磁気分離法を用いるため、迅速な分離操作の実現と密閉環境や遠隔操作による処理が可能だとするほか、使用するものも、工業的に入手が容易で安価な材料のみであり、セシウム除去費用の削減も期待できるという。
実際に海水を混合したセシウム濃度10ppm程度の水溶液を用いたラボスケールの試験では、磁性を持つセシウム結合体を生成させる反応時間と磁気分離時間を合わせた処理操作は10分以内で完了し、1回の操作で99.5%のセシウムを除去できたという。
なお、同技術は幅広く応用が可能であり、放射能汚染された土壌の洗浄水からセシウムを除去する方法として用いることも考えられることから、同社では現在、大量の汚染水処理を目的とした工業的なセシウム除去プロセスの確立を目指し、ベンチスケールの技術開発を進めているとのことで、早期に技術を完成させたいとしている。
今回開発されたセシウム(安定同位体)除去・回収技術の概要
NIMS、シリコン表面のインジウム原子一層が超伝導性を発現することを確認
物質・材料研究機構(NIMS)は11月2日、シリコン表面の金属原子一層の物質が電気抵抗ゼロとなる超伝導特性を発現することを発見したと発表した。NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の内橋隆MANA研究者と中山知信主任研究者らの研究グループによる発見で、成果は米物理学会雑誌「Physical Review Letters」にEditor’s Suggestion(注目論文)として近日中に掲載される予定だ。
集積回路の微細化・高速化に従って、情報処理能力は1年半で2倍になるという驚異的なペースで増えてきているのはご存じの方も多いはず。しかし、半導体素子では電流を流すことに伴う発熱の問題があり、合計すると膨大なエネルギー消費になることから、情報処理に必要な消費電力はすでに無視できない量となっている。二酸化炭素の排出やエネルギー資源不足の問題に深刻な影響を与え始めているというわけだ。
しかし、現代の高度情報化社会において、盗聴などの危険性を常にはらむインターネット上で安全に情報をやり取りすることもまた重要で、通信の安全性を保つために暗号システムが一般に用いられているが、これを解読するための情報処理能力も飛躍的に向上している。今後も現在の暗号システムが安全であるという保証はなく、そのためにより安全な情報通信技術の開発が求められている次第だ。
これらの課題を解決すると期待されているのが、電気抵抗ゼロの状態である超伝導を利用した「単一磁束粒子素子」であり、「超伝導単一光子検出器」を用いた「量子暗号通信」である。
単一磁束粒子素子とは、超伝導体で作った素子の中にとららえた磁束(磁場)の出し入れによって動作する演算素子の一種で、従来の半導体素子に比べて非常に高速でいて、同時に何桁も低い消費電力で動作するのが特徴だ。集積回路として動作することもすでに実証されているため、次世代のコンピュータチップとしての応用が期待されている技術である。
そして超伝導単一光子検出器は、超伝導体をナノスケールに加工して作製した細線や薄膜では光によってその超伝導の性質が破壊され、通常の電気抵抗のある状態に戻るという仕組みを利用した光検出器だ。非常に高い感度があり、光の粒子としての最小単位である光子1個分を検出することが可能である。量子暗号通信の基礎となるのが単一光子の検出であり、それを実現するためのデバイスというわけだ。
また量子暗号通信とは、光の持つ量子力学的性質を利用して、暗号を送る情報通信技術のことである。万が一盗聴されてもその痕跡が通信者に知られるため、盗聴されていない情報のみを送ることができる、このため原理的に完全な安全性を保って通信することが可能になるという仕組みだ。量子暗号通信は個々の光子に情報を担わせることから、その実現には単一光子を検出する技術が重要になる。
これらの技術の実用化に向けた課題としては、単一磁束粒子素子については半導体素子に匹敵するレベルの微細化・集積化であり、超伝導単一光子検出器については高効率化・高速化だ。いずれの場合も、使用されている超伝導材料の薄膜化・微細化が重要だが、超伝導は非常に多数の電子の協調現象であるため、一般に素子をある一定のサイズよりも微細化するのは難しいと考えられてきた。
また、微細化に伴って材料の欠陥の影響が顕著になってくるという問題もある。例え、原子一層まで超伝導体を薄くできたとしても、そこに実用的な大きさの超伝導電流を流すことは不可能と予測されてもいた。これらは超伝導素子にとっての原理的な制約と考えられていたのである。
研究グループでは、究極的に薄い超伝導体を実現するために、半導体素子で使われるシリコンの表面にインジウム金属が一層だけ配列した特殊な物質「固体表面物質」に着目した。固体表面物質とは、半導体などの固体の表面に一層程度の金属原子などが配列してできた特殊な物質のことを指す。通常のバルク材料に使われる物質とはまったく異なる性質を示すことが多いという特徴がある。
中国の研究グループが昨年、固体表面物質を用いて低温で超伝導固有の性質を観測したという報告がなされた。しかし、応用上最も重要な特性である電気抵抗を測定していなかったことから、実際に電気抵抗がゼロになるのか、またそうなるとしたらどの程度の大きさの電流を抵抗ゼロのままで流すことができるのかは不明のままだったのである。そこで研究グループでは、今回、固体表面物質に電極を取り付けて測定し、2.8K(約-270℃)の低温で電気抵抗がゼロになることを世界で初めて観測した(画像1)。
画像1。左はシリコン表面にインジウム原子が一層だけ配列した固体表面物質の走査トンネル顕微鏡写真。右は同じ物質の原子モデル。原子ステップを超えて、超伝導電流が流れる様子を模式的に示している
また、この物質に流す電流値を増やしていき、どこで超伝導性が破壊されるかを詳細に調べた結果、電流密度に換算して最高で6.1×109A/平方メートルという大きな電流を流すことができることが判明(画像2)。この値は、バルク材料でできた超電導磁石における典型的な値の1010A/平方メートルと同程度の大きさだ。
画像2。左は、インジウム原子一層からなる固体表面物質に電極を取り付けて測定した電気抵抗(Zero Bias Resistance)の温度変化。挿入図はより広い温度領域での変化を示す。温度(Temperature)が2.8Kで抵抗値がゼロに変化する。右は、温度を変えながら測定した電流(Bias Current)-電圧(Voltage)特性。電流が臨界電流値(Ic)に達したときに、超伝導が破壊されて、通常の抵抗をもつ状態にスイッチする。挿入図は、Icとそれから求められた臨界電流密度(J3D,c)を温度の関数でプロットしたもの
このような大きな超伝導電流がたった一層の原子層に流れることは、これまでの予想を覆すものである。同時に、流すことのできる超伝導電流の大きさは、固体平面上に自然にできた原子1つほどの段差である「原子ステップ」で制限されていることが示唆された。原子ステップがない平坦な領域には、さらに大きな超伝導電流を流すことが期待されている(ただし、現実には、どんな固体の表面にも原子ステップは必ず存在している)。
今回の発見によって、超伝導材料を原子レベルの極限まで薄くできることが実証された。これにより、超伝導演算素子を微細化・高集積化して半導体素子の置き換えを目指す研究が加速するものと考えられると研究グループは推測。また、超伝導単一光子検出器についても、素子のサイズを小型化することで検出を高効率化し、量子情報通信の速度を上げられることを期待しているという。どちらの場合でも、大きな超伝導電流を流せる点は、素子の低ノイズ性、高信頼性、高速性を追求する上で大きな利点になる。さらに、今回の研究ではシリコンを材料として用いているため、従来のデバイス作製プロセスも援用できるとした。
研究グループは、今回の物質を保護化してさまざまなデバイス作製プロセスに耐えられるようにすることと、よりデバイス動作を容易にするために超伝導転移温度を上げることを今後の課題としている。
NIMS、フラーレンナノウィスカの超伝導化に成功
物質・材料研究機構(NIMS)は12月27日、フラーレンナノウィスカの超伝導化に成功したことを発表した。同成果は、同ナノフロンティア材料グループの高野義彦グループリーダー、竹屋浩幸主席研究員、フラーレン工学グループの宮澤薫一グループリーダーらによるもので、2012年1月5日からNIMSにて開催される特定領域研究会議で発表される予定。
フラーレンナノウィスカは、ナノサイズのカーボン素材で、軽くて細長いファイバ形状をしている。従来の超伝導物質、特に超伝導転移温度の比較的高いものは主として金属間化合物やセラミックスであり、重量が大きく硬い材料が多かった。
フラーレンC60は、1970年に大澤映二氏が存在の可能性を理論的に予言し、1985年ハロルド・クロトー氏、リチャード・スモーリー氏、ロバート・カール氏らにより発見された。1990年にクレッチマー氏、ハフマン氏が抵抗加熱法による大量合成法の開発と単離同定に成功して以降、化学的性質・物理的性質が各所で研究されるようになり、1991年、ベル研究所の研究者らにより、カリウムなどの元素を少量添加することによって超伝導状態になることが発見され、超伝導体としての研究がはじまった。
C60の超伝導転移温度(Tc)は添加元素や量によって変化し、カリウム(K)添加フラーレンK3C60(Tc=19.0K)、ルビジウム(Rb)セシウム(Cs)添加フラーレンRbCs2C60(Tc=33K)、セシウム(Cs)添加フラーレンCs3C60(Tc=38K・高圧力下) など一連のアルカリ金属添加フラーレン超伝導体が知られており、分子性結晶のTc としては最も高い部類に属している。また、炭素は軽元素物質であるため、新しい応用が可能な「軽い超伝導材料」の実用化が期待されてきたが、これまで一般に用いられているアルカリ金属の直接反応法では、フラーレン原料のうち超伝導になる体積分率が1日の熱処理で1%以下、3週間でも35%と超伝導相の収量が低く、その応用には至っていなかった。
今回の研究は、フラーレンから合成できるナノサイズの糸状物質であるフラーレンナノウィスカにカリウムを添加し、熱処理を施すことにより、超伝導を発現させることに成功したというもの。フラーレンナノウィスカは、フラーレンを原料にした糸状の結晶で、さまざまな長さのものを作製することが可能であり、今回の研究では、宮澤グループリーダーらが、フラーレンの良溶媒飽和溶液にフラーレンの貧溶媒を重層する液-液界面析出法(LLIP法)により作成した平均長さ4.4μm、平均直径0.5μmのものを用いて実験が行われた。
糸状になったフラーレンナノウィスカの光学顕微鏡像
具体的には、まず、フラーレンナノウィスカのC601当量に対して約3当量のカリウムを石英管に真空封入し、カリウムの蒸気を利用した添加実験を200℃で行った。その結果、約24時間の熱処理で、超伝導相の収量がほぼ100%になる試料が得られたという。
フラーレンナノウィスカの走査電子顕微鏡像(写真は横幅で約6μm)
同ナノウィスカは、カリウムを添加しても結晶が崩れることは無く、細長いファイバ状の構造を保っており、磁化測定より求めた臨界電流密度は、5Tの磁場中においても105A/cm2以上と高く、磁場の増加に伴い減少が少ないことが確認された。
フラーレンナノウィスカ超伝導体の臨界電流密度(5K)。磁場の強さが変化しても臨界電流密度は一定を保つ範囲が広く、優れた超伝導特性を有していることが分かる
このフラーレンナノウィスカの超伝導転移温度はTc=17 Kであり、同時に同温度・同時間の実験を行った従来のフラーレンを用いたカリウム添加での超伝導相収量は1%に満たなかったという。今回用られたフラーレンナノウィスカによる超伝導相収量が高い理由は、LLIP法による生成過程で内部に生じたナノサイズの空隙が、カリウムの拡散を促進し短時間で超伝導相が形成されたものと考えられると研究グループでは説明しているほか、ルビジウムやセシウムなどのアルカリ金属を用いることで、さらに超伝導転移温度の上昇が期待されるとも説明している。
これまで、フラーレンは全体を超伝導体にすることが難しく、バルク体超伝導材料としての応用は考えられてこなかった。しかし、LLIP法を用いることで、フラーレンナノウィスカのみならず、それを束ねた糸状、布状など多様な形状の素材・材料を得ることが可能であり、MgB2などのように超伝導転移温度の高い材料が硬く脆いものが多く、電線などの線状に加工するのに高度な技術が必要であったのに対し、最初から軽く細長いファイバ形状で超伝導化することなどにより、応用研究が促進される可能性が出てきたことを意味する。
また、ありふれた元素でできた軽くてしなやかな炭素材料が主原料であり、同超伝導体は束ねて糸状、さらには布状など、多様な形状に容易に加工することもできることから、従来の超伝導体の概念とは異なる「軽くてフレキシブルな超伝導材料」を実現可能な超伝導素材の実現に向けた道が開かれたと研究グループでは説明している。