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兵庫県立大など、「酸素耐性膜結合型ヒドロゲナーゼ」の立体構造を確認
兵庫県立大学、茨城大学、理化学研究所の3者は10月17日、大型放射光施設「SPring-8」を利用して、酵素タンパク質の1つである「酸素耐性膜結合型[NiFe]ヒドロゲナーゼ」のX線結晶構造解析を実施し、る同タンパク質の立体構造を確認したことを共同で発表した。[NiFe]ヒドロゲナーゼとは、多くの微生物が持つ、水素の合成や分解を司る酵素のことで、Ni-Fe(ニッケル・鉄原子)が機能上重要な役割を担っている。兵庫県立大学大学院生命理学研究科の樋口教授、庄村助教らと茨城大学農学部の西原准教授らの研究グループによるもので、成果は「Nature」電子版2011年10月16日付(日本時間17日午前2時)の号に掲載された。
人類が燃料電池の原型を考案したのは19世紀半ばであるといわれているが、太古より多くの微生物は、水素から生育に必要なエネルギーを取り出したり、それとは逆に余剰なエネルギーを水素として放出したりするシステムを獲得して利用してきた。
ヒドロゲナーゼは、そのシステム中で中心的な役割を担うタンパク質で、1930年代にその存在が明らかになってから、燃料電池や水素合成への応用も含めてさまざまな視点から研究が進められてきた。
いくつかのタイプが知られているヒドロゲナーゼは、一般的に酸素がない場所で働いているものが多く、最もよく研究されてきた「標準型」と呼ばれるものは、酸素によって機能が損なわれるという大きな問題があった。
しかし、最近になって「膜結合型」と呼ばれるヒドロゲナーゼは、人が生活している環境のような高濃度の酸素存在下でも機能することがわかってきており、その仕組みを明らかにすることに大きな関心が寄せられているという状況である。
今回の研究では、酸素が存在する環境(好気的な環境)で水素を酸化し、生育するためのエネルギーを作り出す能力を持つ好気性水素酸化細菌の一種である「Hydrogenovibrio marinus」(ヒドロゲノビブリオ・マリナス)のヒドロゲナーゼの酸素耐性に着目し、X線構造解析が実施された。
研究グループは膜結合型ヒドロゲナーゼの結晶化に成功したことから、SPring-8の生体超分子複合体構造解析(大阪大学蛋白質研究所)ビームライン「BL44XU」および構造生物学Iビームライン「BL41XU」を用いて、X線結晶構造解析を実施(画像1)。なお、タンパク質のような小さな物質の機能や仕組みを明らかにするためには、X線結晶構造解析によって決定された立体構造は有用な情報となる。
画像1。膜結合型ヒドロゲナーゼの全体図。結晶構造解析の結果、膜結合型は2つのヒドロゲナーゼ分子が複合体を作っていることが判明した。左側の分子は黄色のみで示し、右側の分子は紫、青、水色で示している。それぞれの分子は、水素が分解される部位と3個の鉄-硫黄クラスタを持つ。水素はタンパク質内部で分解され、決まった通り道を経て、タンパク質外部へと移動する。酸素のある状態とない状態を比較して、特徴的な構造の違いが観測された部位(画像2参照)を赤色の点線で囲んだ円(*)で示してある
今回の酸素耐性ヒドロゲナーゼの立体構造解析は、それ自体が世界初の成果だが、研究グループではさらに膜結合型ヒドロゲナーゼが酸素にさらされる過程において、一部に特徴的な構造変化を起こすことを見出した(画像2)。この構造変化は、水素を分解する反応が起こる場所から少し離れており、水素から発生した電子が移動する経路の途中で起きたことが判明している。
画像2。特徴的な構造変化が見られた部分の拡大図(画像1の赤い円を拡大したもの)。オレンジ色は鉄、黄色は硫黄、青色は窒素、赤色は酸素、灰色は炭素のそれぞれの原子を示す。酸素がある状態では、AとBの2つの構造が、酸素がなく水素がある状態ではBのみが観測された
水素が分解される場所はタンパク質の奥深い内部にあり(画像1)、標準型ではそこに酸素がつくことによって機能が損なわれると考えられてきた。今回研究グループが観測した膜結合型の構造変化を考慮すれば、ついた酸素が速やかに水に分解されるという説をうまく説明することができ、この現象は膜結合型が酸素のある環境でも機能する仕組みと深く関係していると考えられている。
ヒドロゲナーゼが触媒する水素分解や水素合成のメカニズムについてはまだ不明な点が多く、その巧妙な仕組みを理解できれば、より効率的な水素エネルギー利用に関する研究・開発に重要な情報を提供するという。特に今回の成果は、ヒドロゲナーゼの酸素による機能の損失を克服するための重要な知見であるとともに、この情報を基にした新たな合成触媒などの開発につながり、水素をエネルギーとして利用するための研究ブレークスルーとなることも期待されているとした。
繊維の街 大阪・船場で、ロボットのファッションコンテストが開催
10月9日、繊維の街として栄えてきた大阪市船場(せんば)で「第2回ロボットファッションコンテスト」が開催された。ホビーロボットビルダーとデザイナーの卵がコラボレーションする珍しい試みのコンテストで、総勢15体のロボットが出場。総合優勝は、クレオパトラをイメージした美女ロボットを制作した「クレオパトラゴールドチーム(上田安子服飾専門学校)」が獲得した(画像1)。
画像1。総合優勝に輝いたクレオパトラゴールドチームのロボット。チーム名の通り、クレオパトラをイメージした美女ロボット
ファッションコンテストだけあって、普通のロボットコンテストとは真逆の、圧倒的に女子の参加者が多いことが特徴だ(画像2)。それもオシャレで可愛い女の子ばかりなのである(画像3)。筆者は東西各地のロボットコンテストを多数観戦しているが、明らかに参加者のキャラクタが違う。
画像2。コンテスト前にロボットと参加者で記念撮影。ロボットコンテストとは思えない女子率
画像3。ロボットのパフォーマンスをステージ横で心配そうに見守るフィナンシェチーム(大阪文化服装学院)
参加者を見た瞬間、「ドレスはともかく、ロボットは誰が作ったの?」という疑問は誰もが持つだろう。そもそも、なぜ彼女たちがロボットでファッションコンテストをしているのか?
コンテストを実施した船場は、大阪のほぼ中央に位置し繊維問屋が集積し古くから繊維の街として栄えてきた。歴史ある街・船場をアピールする「船場まつり」を企画した際に、世界中のどこでもやっていないことをやろうじゃないか! と発案されたのが、「船場ロボットファッションコンテスト」だ。新しいモノ好きでおもろいモノ好きな大阪らしい、ユニークな着眼点だ。
第1回から審査員を務めるファッションデザイナーのコシノヒロコ氏は、最初に構想を聞いた時は「ロボットに服を着せてどうするの?」と怪訝な反応だったそうだ。それが、実際に目の前でロボットが動くのを見た瞬間「面白い!」と目を輝かせたという。
そこで、ファッション専門学校の学生たちがデザインを担当し、ホビーロボットユーザーが素体を提供する異色のコンテストが実現したわけだ。もちろん、個人で参加しているホビーロボットビルダーもいる。
コンテストは1分間のショー形式で行われ、曲に合わせてパフォーマンスを行う。規定演技はないので、歌、踊り、曲芸、手品など、何を披露しても自由だ。
コンテストの審査はステージ上のショーと、審査員がドレスを間近で見て、衣装のデザインや仕上がりなど詳しく審査する近接審査の2点で行われ、ロボットの性能とデザイン両面で総合グランプリを決定する(画像4)。
画像4。ロボットの構造やドレスを1体1体間近で審査する吉川真史氏(コシノ事務所執行役クリエイティブディレクター)と松原仁氏(公立はこだて未来大学システム情報科学部教授)
賞金15万円の総合グランプリに輝いたのは、前述の通りクレオパトラゴールドチーム。コンセプトは「現代的なスフインクス」。クレオパトラをイメージした美女ロボットが、氷川きよしの「虹色のバイヨン」のイントロにあわせて踊るという無国籍風が見事に調和していた。
実は、出場したロボットのほとんどが、音楽に合わせてダンスを踊るものの、事前にBGMの編集ができておらず曲の途中で、ロボットをオペレータが停止してパフォーマンスを終了していた。せっかくショー形式を取っているのに、キメポーズがないままのダンスはしまらない。「おぉっ」と思わせるものがあるのに、最後が決まらないと拍手も盛り上がらないのだ。
そうした中で、クレオパトラゴールドはドレスもロボットのダンスも曲も、十分に練りこんだパフォーマンスで観客を魅了した。このチームの完成度が高い理由は、デザイナーとロボット製作者のコラボレーションがぴたりとハマったからだろう。
ロボット製作者の舞鈴堂さんは、第1回目のコンテストが終了後すぐに、新作ロボット「音叉(おんさ)」の設計を開始。今年の7月にデザイナーとコラボチームを組む時点では、まだロボットは完成していなかったため設計図と、前回出場ロボットの剣姫を持参してミーティングに挑んだそうだ。
一方デザイナーの舩登美帆さんは、昨年のコンテストを観客席から見ていた。ミーティングで剣姫を見た時、「去年、1番気に入ったロボット!」とチームを組むことを申し出たという。
舞鈴堂さんは「自分のイメージで作るとロボットのキャラクタが固定されてしまう」と、デザインやコンセプトは舩登さんに一任。彼女の要望に応じて、モーション作りやBGMの編集に専念したそうだ。
こうて役割分担の徹底と互いの専門分野をうまくジョイントできた結果、見事なパフォーマンスが生まれたわけだ(画像5~7)。
画像5。上半身をしなやかにそらし音楽に乗って優雅に踊る「音叉」
画像6。ロボットのメイクも舩登さんが担当した。ロボットの名前「音叉」は、オートマターとのダブル・ミーニング
画像7。ドレスの細かな装飾が美しい。背中の編み上げ紐や、腕のバンドでドレスのシルエットを調えている。制作材料費は、5000円
それでは、コンテストに出場したロボットたちを紹介。ファッションコンテストなので、正統派ともいえる人形型ロボットが多かった(画像8~12)。
画像8。atelier シルクハットチームは、ビスクドールのような雰囲気のロボットに、ロリータ風ドレスを着せた。いまにも野原に向かって駆け出していきそうな演出だった(上田安子服飾専門学校)
画像9。エントリー名「ヴァニラ」のテーマは不調和音。ブライスのような大きな目が独特の可愛らしさをかもし出している。これは、オリジナルロボットにサイズが合う市販ドレスを着せている
画像10。ブラッティナッキィーチーム(上田安子服飾専門学校)は白鳥の湖の黒鳥をモチーフにバレリーナロボットを制作。ダークでサイバーなプリマドンナが、オープニングで見事な180度開脚の姿勢から垂直に立ち上がった
画像11。M-ROBチーム(マロニエファッションデザイン専門学校)は近未来の芸者をテーマにした。和服をモチーフにした衣装は、LEDと違和感がないように素材やカラーを厳選したという。青色LEDが儚く美しい印象を与える
画像12。jewelry fishチーム(マロニエファッションデザイン専門学校)は、あえてパンツに透ける素材を用い、ロボットの金属フレームもファッションに取り入れた
素体がロボットなだけに、モデルが人間型をしているとは限らない。ユニークな発想のモデルロボットたちもいた(画像13~16)。
画像13・14。レオパードチーム(上田安子服飾専門学校)は、「ロボットにも、人間のような感情がある」と衣装で表現。真っ白い清純なドレスの内側は、濃い紫の花がびっしりと縫いとめられている。心の奥ヒダに込められた、彼氏(?)に捨てられたロボットの悲しみを音楽に合わせて表現した
画像15。兎角(とかく)チームのコンセプトはレインボー。両サイドと中央部分のラインと、色の配置でロボットがスリムに見えるように工夫している
画像16。ペコチームは、大空を華麗に飛びたいと夢をみるカラフルみのむしをテーマにした。ドレスの立体的な装飾が女の子らしく、演技も可愛かった
ファッションには、時代の空気が反映されるものだが、ドレスをまとうのがロボットであっても、その点は同じだ。
COCOROチーム(大阪文化服装学院)は、東日本大震災以降感じることが増えた「人の心」をロボットにも持たせたいという願いを込めて、ドレスをデザインしたという。ステージに登場した時、全身をすっぽりと白いマントに包んでいるロボットが、マントを脱ぎ捨てると燃えるように赤いドレスで登場する。燃えたぎる命の炎を表す赤は、「心」の字を描いている(画像17)。
JSKチーム(大阪文化服装学院)は、本来は戦闘に使われた鎧を和洋融合させることで世界との繋がりと調和を表現した。震災後、海外からたくさんの支援を受けた思いを込めたそうだ(画像18)。
画像17。COCOROチームのテーマは、ずばり「心」。スリムなボディを活かしたミニドレスが可愛いらしい
画像18。JSKチームは、西洋と東洋の鎧をミックスさせた動きやすい次世代鎧をデザインした。キレのあるパフォーマンスがカッコよかった
参加者にコンテストの感想を求めると、「異業種間のコラボレーションの難しさ」を指摘する声が多かった。
単に業界の違いだけではなく、年齢差のギャップもあったようだ。というのは、ドレス制作を担当するのが、ファッションデザイナーの卵である学生たちであるのに対し、ロボット製作者はほぼ全員が社会人だからだ。学生と社会人のコラボは、生活ペースが違うため、連絡を密に取るのも難しかったという。
ロボット製作者からは、「学生ロボットビルダーが参加して彼女たちとコラボレーションしたら、もっと面白いショーになる」という意見もあった。
女子と共同でロボット作りを楽しめる面白い企画だと思うのだが、どうだろうか? 来年、若手ロボットビルダーの参加が増え、コンテストがいっそう盛り上がることを期待したい。
画像19。受賞者記念撮影。ファッション部門優秀賞(コシノヒロコ賞)はフィナンシェチーム(大阪文化服装学院)、ロボット部門優秀賞はM-ROB(マロニエファッションデザイン専門学校)が受賞した
理研、遺伝子の「使用禁止マーク」を外すタンパク質の構造と仕組みを解明
理化学研究所(理研)の研究グループは、遺伝子に付けられた「使用禁止マーク」を外すタンパク質「UTX」の立体構造を解明し、UTXが他の機能を意味するマークと厳密に区別して、「使用禁止マーク」だけを外す仕組みを解明した。同成果は、理研生命分子システム基盤研究領域の横山茂之領域長と仙石徹研究員によるもので、米国の科学雑誌「Genes & Development」(11月1日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版にて掲載された。
ヒトを含む多細胞生物は、異なった働きを持つ多くの細胞で構成されているが、個々の細胞はほぼ共通のDNA配列を持っていながら、異なった種類の遺伝子をオンにすることで異なった機能を発揮している。これらの生物には、DNA塩基配列そのものは変化させずに、遺伝子やタンパク質にさまざまな化学的マークをつけることでその働きを制御する仕組みが備わっており、「エピジェネティクス」と呼ばれる学問分野として注目を集めている。化学的マークには、DNAを構成する4つの塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)のうち、シトシン塩基に付けられるメチル基(メチル化)などDNAに直接付けられるものや、DNAが密接に巻きついた「ヒストン」と呼ばれるタンパク質に付けられるものなど、さまざまな種類が存在していることが知られている。
例えば、ヒストンH3はいくつかの場所でメチル化され、それぞれ違った機能を発揮しるが、27番目のリジン残基(リジン27)がメチル化すると、「この遺伝子を働かせてはいけない」という「使用禁止マーク」になる。ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞では、多くの遺伝子がこの使用禁止マーク、つまりリジン27がメチル化されているため、遺伝子はオフの状態になっている。
ただし細胞が分化を始めると、適切な時期に、決まった細胞の、働くべき遺伝子が巻きついたヒストンH3のリジン27のメチル基が外れ、その結果、遺伝子はオンになり、細胞が決まった機能を発揮する仕組みとなっている。。ゲノム上における使用禁止マークのパターンは厳密に制御されており、一度異常が起こって制御が不能になると、発生異常や細胞のがん化が引き起こされることとなる。
図1 UTXは遺伝子をオフ状態からオン状態にする。メチル化されたヒストンH3のリジン27は遺伝子の使用禁止マークとして働く。UTXは「リジン27のメチル基を外す機能」を持っており、遺伝子が特定の細胞で適切な時期に働くように作用する
このため、他の役割を持つマークが誤って外れると、細胞にとって悪影響が出てしまうが、マークの周辺を見ただけではそれが外すべきマークかどうか区別することが困難な場合があった。これまでの研究で、リジン27のメチル基を外してその遺伝子をオンにする働きを持つタンパク質「UTX」の存在は明らかにされていたが、使用禁止マークを他の機能を意味するマークと区別できる仕組みはまったく分かっておらず、謎のままであった。
今回、研究グループは、UTXがリジン27を含むヒストンH3断片と結合した状態の結晶を作製し、大型放射光施設SPring-8のBL41XUビームラインを用いてX線結晶構造解析を行った。その結果、UTXが触媒ドメインやUTX固有のドメインを持っていることが明らかとなった。
触媒ドメインは、メチル基をリジン27から外す化学反応を引き起こすドメインで、その立体構造はこれまでに報告されていた別のマークを外すタンパク質とよく似ていたという。一方、固有ドメインは、これまでに構造解析されたどのタンパク質とも似つかないものであることが確認された。
図2UTXとヒストンH3が結合した立体構造(90度回転した2方向の図)。左は赤点線で示した2カ所でUTXとヒストンH3が結合している。右はメチル化されたリジン27(赤点線)が触媒ドメインに結合しており、ここでメチル基を外す反応が進行する構造
ヒストンH3は、リジン27を含んだ25番目から32番目までのアミノ酸配列が触媒ドメインと結合しており、メチル化されたリジン27は触媒ドメインの中央の穴の奥深くに埋め込まれ、ここでメチル基を外す反応が進行する一方、固有ドメインは、少し離れた17番目から22番目までのアミノ酸配列と結合していることも確認された。
図3UTXとヒストンH3との結合の模式図。触媒ドメイン(青)と固有ドメイン(緑)はともに、「鍵と鍵穴」の関係のようにヒストンH3(黄)とフィットする形をしている。ヘリカルドメイン(ピンク)と呼ばれるドメインは触媒ドメインと固有ドメインをつなげている
次に、解析した立体構造を基に生化学的解析を行い、ヒストンH3との結合に重要な場所に変異を導入したUTXを作製しその活性を調べたところ、触媒ドメインの変異だけでなく、固有ドメインの変異もメチル基を外す活性を低下させることが分かった。また同様に、触媒ドメインや固有ドメインと結合する部分に変異を導入したヒストンH3でも、UTXがメチル基を外す活性が低下することも見いだされた。これはすなわち、両方のドメインによる結合が、UTXのメチル基を外す活性に重要であることを意味すると研究グループでは説明している。
タンパク質が特定の分子を区別して働く仕組みは、よく「鍵と鍵穴」の例えで説明される。タンパク質は決まった形(鍵穴)を持っており、それが働く相手(鍵)の形とぴったりフィットするときにだけ働くと考えられている。今回の成果は、UTXは触媒ドメインと固有ドメインという2つの鍵穴を持つことで、双方の鍵がそろったときに初めてリジン27を区別し、メチル基を外すという仕組みを解明したもので、この結果は、UTXが細胞分化プロセスを制御する仕組みの詳細な解明につながるほか、立体構造が明らかになったことで、UTXの阻害剤をデザインする試みも可能になり、今後は、そうした阻害剤を細胞分化の制御ツールとして活用することが可能になることが期待されるほか、iPS細胞などの多能性幹細胞の利用を通じた再生医学研究への貢献にも期待できると研究グループでは説明している。
京大、パターン解析手法を活用した多発性硬化症関連疾患の鑑別方法を開発
京都大学(京大)の研究グループは、脳脊髄液プロテオミクスパターン解析手法を用い、多発性硬化症関連疾患を鑑別することに成功したことを発表した。同成果は近藤誉之 同大医学部臨床教授、小森美華 同医学研究科研究生、池川雅哉 京都府立医科大学准教授らによるもので、米国神経学会発行の学術誌「Annals of Neurology」に掲載された。
神経難病である多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)および類縁疾患は、中枢神経系を主座とする炎症性の自己免疫疾患と考えられている。これらの疾患においては、類似した臨床経過であっても、病態が異なることがあり、治療反応性も異なるため、MSに有効なインターフェロンβ製剤が、類縁疾患の1つである視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica:NMO)では、有害に働く場合があることも報告をされている。
また近年、日本においては、MSとされてきた患者の一部に、NMOの病態に強く関与するバイオマーカーである抗アクアポリン-4(AQP4)抗体が存在することが明らかになり、これにより抗AQP4抗体陽性であれば、NMOの診断基準を満たさなくても共通の病態が存在すると推察されるようになってきており、抗AQP4抗体の有無は治療方針の決定に重要な要素となってきている。一方、NMOと変わらない臨床像を呈しながら、抗AQP4抗体が陰性の場合もあるほか、視神経や脊髄に病変がなく、抗AQP4抗体陰性でもインターフェロンβ製剤の無効あるいは増悪例も存在しており、神経内科専門医においても、臨床所見、現状の検査所見のみで鑑別が難しく治療方針に苦慮する場合が見受けられていた。
そこで研究グループは、質量分析法とバイオインフォマティクスを有効に組み合わせたプロテオミクスアプローチに着目。これまで、MS患者の脳脊髄液の生化学的な特徴については報告があったものの、今回の研究では、米Bruker Daltonicsと共同で、マトリックス支援レーザー脱離型飛行時間質量分析計(MALDI-TOF)と磁性ビーズを組み合わせたプロテオミクス解析手法(クリンプロット法)を用いて、MS関連疾患を鑑別しうるような、疾患バイオマーカーの探索を試みた。
MSと関連疾患を対象とした脳脊髄液プロテオミクスパターン解析法の流れ
解析対象の患者はMS、抗AQP4自己抗体陽性NMO(SP-NMO)、抗体陰性NMO(SN-NMO)、一次進行型多発性硬化症(PPMS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、他の炎症性神経疾患(OIND)群を含む107例。5μlの脳脊髄液を磁性ビーズと共存させ、マグネットに付着したビーズの表面を洗浄し、ビーズ表面に付着したタンパク質やペプチドを精製、溶出し、質量分析計を用いて解析を行った結果、SP-NMO群は、特に再発期に、MS群と90%以上の確率で鑑別が可能であった。
分類には性差、年齢、再発部位は関連がなかった。S:脊髄、O:視神経、B:脳
また、得られたピークのうち、いくつかは、MS群からSP-NMO群を、鑑別スコア0.95以上の確率で群別することができたほか、再現、追加解析として、各種疾患群を含む84例の患者の脳脊髄液に対し同様の解析を行った結果、最初に得られた解析結果をほぼ再現し、解析法によっては、再発期のSP-NMO群は、MS群とより信頼度の高い確率で鑑別できることが確認されたという。
また、SN-NMO群についてはその病態の多様性が示唆されたほか、パターンマッチング法を応用することで、質量分析によって得られた各疾患群のスペクトラムから疾患の樹形図を作成、その結果、PPMS群の脳脊髄液プロテオミクスパターンは、変性疾患であるALSにより近い結果であることが確認されたという。
脳脊髄液プロテオミクスパターン解析による神経疾患の樹形図
これらの研究結果から、脳脊髄液プロテオミクスパターン解析は、MSとNMOの鑑別に有効であることや、脳脊髄液プロテオミクスパターンから神経疾患の診断パネルを構築できる可能性が示された。そのため、研究グループでは、今後、今回の研究結果をもとに、さらなる解析を進めることで、MS関連疾患をより鋭敏に、より正確に診断し、治療への反応性なども含めた治療方針の決定につなげられるものとの期待を示している。
NEC、従来の2倍の寿命を持つマンガン系リチウムイオン2次電池を開発
NECは10月17日、電解液に従来の市販品を利用した電池との比較で、寿命を2倍以上に向上させるマンガン系リチウムイオン2次電池技術を開発したことを発表した。
同技術は、新開発の添加剤を電解液に加え、従来のマンガン系正極/炭素負極の電極と組み合わせるというもの。同技術を利用して容量3.7Ahの積層ラミネート電池(65Wh/kg)を試作し、一般的な家庭のエネルギー消費パターンに基づいて寿命予測を実施したところ、充電可能な容量が初期の70%に低下するまでの年数が、従来の約5年から約13年、同50%では約33年となり、2倍以上の長寿命化を実現したというわけだ。
これまでの研究で、高い耐久性が要求される定置用の蓄電池にマンガン系正極を用いた場合、繰り返し放電を行うことで、電解液の溶媒が分解されて負極状に被膜が形成されたり、正極のマンガンが徐々に電解液へ溶出したりするなどにより、電池の抵抗が高くなって容量が低下するという課題が確認されていた。
これまでも、マンガン系正極/炭素負極の電池において、電解液に添加剤を用いて耐久性の改善が行われてきたが、十分な特性を得られなかったという。今回開発された技術は、添加剤に独自の有機硫黄化合物を用いることで、1回の充放電で電極上へ強固な保護膜を形成し、溶媒の分解を抑制することが可能になっている点がポイントだ。開発した電解液の基礎評価を行ったところ、抵抗上昇を従来比1/2以下、サイクル寿命を従来比1.5~3倍とし、繰り返し充放電による容量の低下を抑えたというわけである。
また、前述の試作電池を用いて耐久性評価実験を行ったところ、2万3500サイクル(連続4年以上)の充放電を行い、初期容量の83%(25℃)を維持することを実証した。なお、耐久性評価実験の内容は、25℃、45℃、55℃での、1時間でフル充電と1時間で振る放電のサイクル試験による容量維持率および抵抗上昇と、同温度での保存試験(充電状態、SOC:60%)による容量、抵抗上昇などを総合的に評価したものだ。
また、今回の電池技術は、平成23年度7月より開始している、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「安全・低コスト大規模蓄電システム技術開発(大規模蓄電システムを想定したMn系リチウムイオン電池の安全・長寿命か基板技術開発)」に利用する予定であることも発表された。
なお、今回の電池技術は、家庭やビルへの設置だけでなく、より高い耐久性が要求される電力系統の安定化を目的とした大規模蓄電システムへの利用にも適しているとしている。
画像1。今回の技術を利用して試作されたリチウムイオン2次電池