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【うちの本棚】252回 五十子さんの日・倉多江美傑作集1/倉多江美
「うちの本棚」、今回は倉多江美の『五十子さんの日』(フラワーコミックス)を取り上げます。表題作に関しては以前紹介済みですので、収録されたその他の作品に注目していきます。
本書は、『ジョジョの詩』に次いで刊行された単行本で、本来ならもっと早く取り上げておくべきものだったが、表題作の『五十子さんの日』を以前、単独で取り上げてしまっていたため、今回は紹介を見送ろうと思っていた。が、単行本に収録されたその他の作品をそのまま流してしまうのももったいないので、ここで紹介することにした。
『五十子さんの日』は、祖父の財産相続の条件として女生徒として過ごすことを課せられた主人公のコメディ作品。 『雨の日は魔法』は倉多のデビュー作。かなり正統派のラブコメディといえる。 『おいしいジャム』も同じくラブコメ。扉イラストは内容とはあまり関係のない感じで描かれていて、コメディというよりラブロマンスを予感させるのだが…。 『ぼくの心はバイオリン』は完全なギャグ作品。『ぼさつ日記』のぼさつと裾野の元キャラクターが登場している。後にぼさつとなる渦等タマゴ、裾野になる護持等ウラメ、そしてもうひとり挫等ルナという女子三人のBFにされている留目の物語。倉多ギャグ作品の原点といってもいいだろう。 『パラノイア~偏執病~』はシリアスな作品で、後に『かくの如き…!!!』や『エスの解放』につながる精神世界をテーマにしたもの。 健常者の人たちも精神を病んでいると思われている人たちも、視点を変えれば同じように見えるという、視点のすり替えが初読当時新鮮だった。また「パラノイア」という言葉も本作発表以後、さまざまな媒体で耳にするようになったように思う。 『五月病』は「逸郎くんシリーズ」のような、シリアスとコメディの中間のような作品。希望の大学に入ったものの、進んだ学部とは違う分野に興味が出たりして、なにかと無気力になっている主人公。「大学なんて就職予備校みたいなもの」というのはすでに40年近く前から言われてたことであったと、いまさらながら気がついたりする(笑)。
こうして読み返してみると『パラノイア』がずいぶん異色だったという印象だ。実際倉多作品全体としてもギャグやコメディが多く、シリアスな作品は少ない。しかしそれだけにシリアス系作品のインパクトは大きく、記憶に残っているのかもしれない。
初出:五十子さんの日/小学館「JOTOMO」昭和51年7月号、8月号、雨の日は魔法/小学館「別冊少女コミック」昭和49年1月増刊号、おいしいジャム/小学館「別冊少女コミック」昭和49年4月号、ぼくの心はバイオリン/小学館「別冊少女コミック」昭和49年9月号、パラノイア/小学館「JOTOMO」昭和51年3月号、五月病/小学館「別冊少女コミック」昭和52年9月号
書 名/五十子さんの日 著者名/倉多江美 出版元/小学館 判 型/新書判 定 価/320円 シリーズ名/FLOWER COMICS(FC-351) 初版発行日/昭和53年2月20日 収録作品/五十子さんの日、雨の日は魔法、おいしいジャム、ぼくの心はバイオリン、パラノイア、五月病
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)