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【映画コラム】単なる昔話では終わらない『イミテーション・ゲーム~』と『博士と彼女のセオリー』
実話を基に映画化し、今年のアカデミー賞を争った『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』と『博士と彼女のセオリー』が、ともに13日から公開された。
『イミテーション・ゲーム~』は、第二次大戦時、解読不可能とされたドイツ軍の暗号“エニグマ”に挑んだ英国の数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)の姿を中心に描く。
戦争の早期終結と初期のコンピューターの開発に貢献しながら、チューリングの存在は英国政府によって“重大機密”として約半世紀にわたって隠蔽(いんぺい)されてきた。本作は、チューリングを取り巻く秘密とは、歴史の裏に一体何があったのか…を見どころとする上質のミステリー映画だ。
英国ミステリーの魅力は、陰湿と洗練を併せ持った独特の雰囲気と人間の心理の洞察にあるが、チューリングの数奇な人生の謎をひもとくことで展開していく本作もその系譜に連なる。
カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイらの名演、ノルウェー出身のモルテン・ティルドゥム監督の抑えた演出、優れた時代考証なども目を引く。
一方、『博士と彼女のセオリー』は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を病んだ英国の物理学者スティーブン・ホーキング博士(エディ・レッドメイン)と妻のジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)の出会いから、ユニークな夫婦生活、破綻、別れ、現在までを描く。
博士が普通に生活する若き日から、徐々に全身がまひしていくさま、そして老年までを演じ切ったレッドメインが、見事にオスカーを手にしたのは記憶に新しい。また、伝記映画によく見られるきれいごとの夫婦関係ではなく、二人の愛憎や欲望、心の揺れなどを正直に描いている点も新鮮だ。
そして、それまで語ってきた博士の人生を一気に巻き戻して見せるラストシーンは、映画ならではの“魔法”を感じてうれしくなるし、時間の概念にこだわった博士の人生を象徴するシーンとしても強く印象に残る。
両作は描かれた時代こそ違え、舞台は英国で実話を基にしている、主人公は天才的な才能を持ちながらコンプレックスや障害を抱えている、パートナーとなる女性もまた非常に個性的である、など共通点が多い。
さらに、過去の実話を描くことで浮かび上がる、偏見による差別や迫害、夫婦のあり方や男女の性差、病に対する取り組み方といった普遍的な問題を、今日的な視点を加えながら見詰め直しているところも共通する。そうした姿勢が、単なる昔話では終わらない“今の映画”として、両作の存在価値を高めたのだ。(田中雄二)