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<一人で複数世代を演じる香川照之の独壇場>最終回直前!TBSドラマ「流星ワゴン」は香川照之を乗せてどこへ行く?
水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]
* * *
「あなたには、過去をやり直したいと思ったことがありますか?」
TBS日曜劇場「流星ワゴン」は、重松清の同名のベストセラー小説のドラマ化。「家庭とは?親子とは?」を問うファンタジードラマである。
チーフ演出はジャイさんこと福澤克雄。脚本が八津弘幸、プロデューサーが伊與田英徳、とくれば、「半沢直樹(2013)」や「ルーズヴェルト・ゲーム(2014)」を生み出した、TBSが誇るドラマ制作チームである。TBSのこのクールの目玉と言ってよいだろう。
まじめだが妻子とのすれ違いで家庭崩壊の危機に瀕し死まで覚悟する会社員・永田一雄(西島秀俊)の前に、破天荒な父・チュウさんこと永田忠雄(香川照之)が現れる。それも息子の自分と同世代の男として。父は息子のことを、親友という意味の「朋輩(ホウバイ)」と呼ぶ。
二人は事故死した「橋本さん親子」の幽霊が運転する不思議なワゴンに乗せられる。前席にはワゴンのドライバー橋本さん(吉岡秀隆)、助手席には息子の健太(高木星来)、後部座席にはチュウさんと一雄が乗り、4人による過去への旅が始まった。
芝居はチュウさんを演じる香川照之の独壇場だ。一人でも他を圧倒できるのに、若き日、壮年期、晩年と1人複数世代役(とでもいうのだろうか)をこなす。これを超えるのは、日本生命のCMの岡田准一くらいだろう。
香川の演技は、過剰だ。ワゴンに乗り込んだチュウさんは、ハイウエストで締めたベルトに太めのズボン、薄辛子色とでもいうような微妙な色の長袖ポロシャツ、その走りは妙に歩幅が小さい、他人の目を気にしない時代遅れの頑固者。どの世代でも、チュウさんは、家族や他人の言うことを聞かず、物ごとを独断専行で進める。
実に濃い。これは他の役者とのバランスを崩していないだろうか。香川照之ショーになってはいまいか-。
もちろん、答えはノーだ。これはトリックスターの物語だからだ。
「トリックスター (trickster)」 とは、神話や民話の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きなキャラクターのこと。社会の秩序を引っ掻き回して去っていくが、その後に人々の心の中に何かを残す。いろんな問題をかかえながら現状を打破できずにいた人たちの何かが変わる。
チュウさんは実の息子や孫を救うだけでなく、幽霊親子までひっかきまわす。成仏を目指している幽霊としてはありがた迷惑もいいところだ。…