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<日本のお笑いの原点「落語」を英語で>落語を今に生きた芸能として海外にも積極的に届けよう
齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]
* * *
昨今では春風亭一之輔が春風亭ぴっかりをつれて果敢に落語欧州公演を実施していたが、それ以前から落語も世界進出をぼちぼちしている。今までは主に在外法人向けのごく普通の落語会を単に現地でやるというものだったようだ。
仕事の都合で海外赴任した夫とその妻が、異国での落語会のあと1か月は夫婦間の会話がそれでもつ、というそれこそ笑い話のような話からすると、日本の伝統芸能としては相撲や歌舞伎といういかにも日本的なビジュアルの派手な芸能と違い、生活に根付く形で定着していく芸能という面があるのではないだろうか。
たとえば柔道やアニメのように、実際に道場ができて競技人口が増え現地での大会が開催されたり、アニメや漫画を描き始める人が出てきて裾野が広がるように。
そう感じたのは、国際交流や異文化コミュニケーションの一環で落語を語っている大学教授の「英語落語」なるものが、意外なことに面白かったせいである。
「英語落語ねえ、どうせ際物じゃないの?」と思いつつ現地のライブ録音を聞いたところ、これが実に、普通に、落語として面白い。またちょっとした解説と立川志の輔との対談が書籍には掲載されており、その苦労話も含蓄がある。
なるほど、英訳する際には言葉遊び的な下げや、あまりにも説明の必要な個所はもたつくため改変しなければならないから、現代の観客に向けて古典落語を語る際と同じ苦労がある。
また、同じCDに立川志の輔の英語版「時そば」が収録されているが、こちらはまだまだ不慣れな雰囲気。素人ではあるが、異文化に詳しく海外の観客慣れした大学教授の女性のほうが達者な高座となっており、それもまた興味深い。
海外の観客は会話に参加したがり、舞台の演者に平気で話しかけるので、(欧米のスタンダップコメディの演者は、相方ではなく観客に話しかけている)寄席での掛け声や野次、はたまた携帯電話の着信音に切り返す以上に、当意即妙の会話術も必要なようだし、演者と話したがる観客の「参加したい」という欲求も満足させなければならず、工夫が必要だという。
落語を始める前のちょっとしたガイダンスも、それだけでも落語の本質をとらえており楽しめる。また解説をまくらのように使い、本編の落語の中で登場人物に再度言わせるなどのお約束の遊びまである。まさに、この先生は落語がわかって演じている。
そしてもっとも大事な部分、それが、ナンセンスや登場人物の行き違いがなんともいえないおかしみを醸し出す、笑いという万国共通のものをツールとしたセンスのある芸能が落語なのだという点だろう。…