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有効な減災対策「早期避難」 ── 実現する方法は「避難訓練」/矢守克也・京都大学防災研究所教授

 有効な減災対策「早期避難」 ── 実現する方法は「避難訓練」/矢守克也・京都大学防災研究所教授

 

 [写真]高知県四万十町興津地区の全景

  3.11から4年を迎えるのを前に、津波防災に対する関心が高まっている。「もっとも基本的だが、同時にもっとも有効な減災対策」として、国の想定にも位置づけられているのが、早期の避難である。そして、早期避難を実現するための定番的な方法が、避難訓練である。

避難訓練「応用問題」の重要性

  避難訓練が大切であることは言うまでもないが、その効果を高めるためにも、今回は、あえて、基本問題ではなく応用問題の重要性について考えてみよう。
 
  ここで基本問題と言っているのは、たとえば、地域コミュニティや学校の避難訓練で標準的にとられているスタイル、すなわち、明るい昼間、みなが教室などから一斉に逃げ出すようなスタイルである。さらに加えれば、雨天だと訓練を中止する場合もあるので、訓練は晴れの日が多いという傾向もあるだろう。
 
  それに対して、応用問題とは、周囲の見え方が昼間とは歴然とちがう夜間に行う訓練、あるいは、ある子どもはまだ家庭に、多くの子は通学路上、そして何人かは学校に到着済といった時間帯に地震が発生した場合を想定して行う登校時の訓練などを指す。
 
  地震による土砂くずれと津波など、複数の災害が重なった場合を念頭に置いた訓練など、他にも応用問題はたくさん考えることができる。

四万十町で実施した夜間訓練はこんな形で

  ここでは、筆者がここ数年来、津波防災対策のお手伝いをしている高知県四万十町興津地区で実施された夜間訓練のケースについて紹介しよう。 
 
  興津地区は、仮に南海トラフの地震が発生すると、最悪の場合、20メートルを超える津波が最短で15~20分程度で押し寄せるとされている地域である(写真参照)。夜間訓練は、昨年12月に実施された。まずはじめに、いきなり夜間訓練が実施されたわけではないことを明記しておこう。この地区では、それまで、繰り返し、昼間の避難訓練が実施されてきた。地域の住民組織や町役場が、その蓄積の上に立って安全性などにも配慮することで、ようやく夜間訓練が実現したのである。その意味で、夜間訓練は、まさに応用問題である。
 
  その日の訓練には、町の住民の3分の1もの方が参加した。筆者自身も参加した。手押し車(シルバーカー)を利用して歩く、ある高齢の女性の避難に付き添いながらの参加であった。寒いから防寒具を着る、靴を履く、手押し車と懐中電灯を準備する・・・地震による停電までは再現できなかったので、家の灯りはついているのだが、それでも、自宅を出るまでに一定の時間がかかる。
 
  路上に出る。人口千人を切る小さな集落である。散在する家々の電灯は灯っていても、ほぼ「真っ暗」である。この地区には、太陽光や風力で蓄えた電気で点灯する避難誘導灯が多数設置されている。しかし、これらは避難場所への方向を示す機能としては十分だが、光力としてはそれほどでもない。だから、暗い。夜だから暗いのは当然だが、あらためてそう実感する。

体感してわかること、訓練の意義

  そして、暗いと、具体的に何が起きるのかを体感できるのが、実際に訓練してみることの意義だ。たとえば、昼間なら無意識のうちに避けられていた小石や、側溝の蓋にあいた小さな持ち手穴に、手押し車の車輪をとられて女性が立ち往生する場面が数回あった。転倒してケガでもしたら、こうした女性の体力と津波までの猶予時間を考えると、それが致命傷となるかもしれない。
 
  結局、この女性は30分近くを要して、近くの高台まで避難することができた。これは、その日訓練に参加した人の中でもっとも長い時間であった。ただし、後日、筆者らの研究室で作成しているシステムを使って、この女性の動き(GPS発信器をつけて避難してもらっている)と津波浸水シミュレーションとを重ねてみると、訓練通りに避難できれば、何とか津波から逃げ切れていることもわかった。
 
  避難途上の坂道で、何人かの近隣住民が、女性と筆者を追い越していった。その際、「おばあちゃん、がんばって、もう少しやき」と声をかけてくれた。こうした言葉が、女性には大きな支えになっているのが、筆者にもよくわかった。
 
  この地区の訓練は、各人のタイムトライアル(所要時間計測)を兼ねているので、この日は声かけだけだったが、実際の津波来襲時には、この方々は、もちろんおばあちゃんの手を引いて逃げてくださるだろう。
 
 地図URL:http://map.yahoo.co.jp/maps?lat=33.21166184000001&lon=133.13705780999996&z=11

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