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「『イスラム国』が核を持ったら簡単に使用する。世界は今そういう危険な状態にある」 鈴木宗男×佐藤優 東京大地塾レポート

「『イスラム国』が核を持ったら簡単に使用する。世界は今そういう危険な状態にある」 鈴木宗男×佐藤優 東京大地塾レポート

 

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。

今回のテーマは、ウクライナ停戦協定から見えたアメリカの外交力低下と、それが引き起こす中東の大混乱。その混乱に乗じて「イスラム国」が核兵器を手に入れることまで想定しなければならない事態を世界は迎えようとしている。

(前編の記事⇒http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/06/44536/
中編⇒http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/12/44888/)

***

鈴木 ところで、アメリカの外交力は、なぜこんなにも落ちたんでしょうか?

佐藤 ブッシュ時代から戦争をやりすぎて疲れているのはあると思います。しかし、現状はアメリカが持っている実力以上に外交力が弱っている。これはオバマ大統領の性格に起因していると思います。そのきっかけとなった失敗はシリアでした。

鈴木 どんな失敗ですか?

佐藤 オバマはシリアのアサド大統領に「毒ガス兵器を自国民に使ったら軍事制裁を加える」と通告した。しかし、実際に毒ガス兵器を使ってもロシアやヨーロッパ諸国が空爆すべきでないと言ってきたのでやめてしまった。それまでアメリカは単純な外交をやっていました。有言実行です。これ以上やったら叩くと宣言して、空爆などの軍事行動を起こしていた。それをシリア相手にはできなかった。

その結果、イランは核兵器開発を進めても大丈夫だなと、アメリカを見くびるようになった。そこでイランに対して強硬姿勢を見せようと思ったら、今度は「イスラム国」が出てきたので、イランに対して譲歩するようになった。今までのアメリカは、ダメなものは絶対にダメという取引不可能な国だったのが、今はゲームのルールが崩れて、取引可能な国に見えているわけです。

つまり、アメリカはひとつひとつの局面で線引きして、取引しなければならなくなった。これが外交力が削(そが)れた原因ですね。

鈴木 アメリカの外交力が落ちてキープレイヤーでなくなったとなると、これは大変なことですね。

佐藤 外交力が低下したことによって、一番危なくなるのは中東です。「イスラム国」はスンニ派で、シーア派の皆殺しを目標に掲げています。現にイラクのシーア派を殺し始め、次はイランに行こうとしている。

そこでイランのイスラム革命防衛隊は「イスラム国」を潰(つぶ)すためにイラク、シリア国内の「イスラム国」の拠点を空爆した。アメリカはこれに関して、イランと話はしていないと言っていますが、これは嘘だと思う。きちんと調整しないと、イラン空軍機は国籍不明機として米軍機に撃墜されてしまいますから。

つまり、この状況で核開発を諦めていないイランとアメリカが手を握る姿勢を見せているわけです。となると、イスラエルはアメリカがイランの核開発を黙認したと不安になる。一方、アメリカの共和党もオバマがイランと手を握ろうとしていると危惧して、3月3日にイスラエルのネタニヤフ首相を議会に呼び、演説してもらうことにした。

ところが、この演説はホワイトハウスには寝耳に水で、オバマも米政府高官もネタニヤフ首相に会わないことを決めた。「イスラム国」との戦いの最中に、アメリカが中東での最重要同盟国イスラエルのトップと会わない。今、アメリカとイスラエルの間には不信の嵐が吹いており、この関係が悪くなると、アメリカの中東への影響力はさらに衰えるというわけです。

鈴木 そうなると世界情勢は激変しますね。

佐藤 はい。「イスラム国」はヨルダンを倒せばアラビア半島全域を支配できると思ってます。そのヨルダンはアラブの春の影響で相当弱っている。国民の7割がパレスチナ人ですから。しかも、ヨルダン王室はイスラエルと外交関係を持っていて、イスラエルのサポートがないと今の体制を維持できない特殊な国なんです。

アラブ諸国でイスラエルと外交関係があるのはエジプトとヨルダンだけで、「イスラム国」はまさに今、この2国を標的にしているわけです。ヨルダンは同時にアメリカとの関係も良好ですから、ヨルダンの政権が倒れると、アメリカの中東における影響力がかなり削がれます。そうなった場合、サウジアラビアだってどうなるかわからない。

そんな時にイランが核開発に成功したら、サウジはパキスタンから核弾頭を手に入れるでしょう。パキスタンの核開発のスポンサーはサウジなので断れません。サウジが核を持ったら、UAEもオマーンもカタールもパキスタンから核兵器を買うでしょう。でも、世界は今、そういう非常に危険な状態にある。

そんな状態で、サウジの王政が倒れて大混乱となれば、その隙間に「イスラム国」が入ってくる。その核を奪取するというシナリオはまったくないとはいえません。これを阻止するにはイランに核開発をやらせないようにしないといけないんですが、アメリカの外交力が弱ってますからね。

そして、「イスラム国」が核を持った場合、彼らは簡単に核を使うでしょう。そうなると核抑止力理論が崩れます。世界は今、そういう非常に危険な状態にあるということです。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)
1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)
1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?
毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は3月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページにて

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