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仕事がデキる人ほど「教養」が深い?希望的観測や陰謀論で失敗する人々

仕事がデキる人ほど「教養」が深い?希望的観測や陰謀論で失敗する人々

 

 当サイトで連載「ビジネスのホント」を執筆している小林敬幸氏。毎回、独自の視点でビジネスを読み解いている小林氏だが、1月に新刊『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』(KADOKAWA/角川書店)を上梓した。

 現役の会社員でもある小林氏は、本書の中で30代のビジネスパーソン向けに、情報処理の「王道」について述べている。しかし、実際には高校生から50代まで広く読まれる内容となっており、話題を呼んでいる。

 そこで、今回は小林氏に

「情報処理の考え方」
「これからのビジネスパーソンに必要なこと」
「インテリジェンスを磨く方法」

 などについて聞いた。

–まず、本書を執筆された経緯をお聞かせください。

小林敬幸氏(以下、小林) 私の前著『ビジネスをつくる仕事』(講談社)を読んだ角川書店の編集者から連絡をいただき、執筆を依頼されました。現場のビジネスパーソン向けに本を書いてほしいという意図があり、現役の会社員である私にオファーがあったのです。テーマや構成は編集者と議論して固めていきましたが、ビジネス書にありがちな「こうすればうまくいく」という内容にはしたくなかったので、その点は編集者に了承してもらいました。また、現役の会社員という立場上、実際に経験した事例などにはあえて触れませんでした。

–執筆の材料は、どこから集めたのですか?

小林 学生時代に、政治学者で東京大学名誉教授の故・佐藤誠三郎先生のもとで、国家安全保障や情報の扱い方について学びました。それがきっかけで情報重視戦略やインテリジェンスへの関心が深まり、以後多くの書籍を読んだり、さまざまな場で知見を広めました。それらの経験は仕事で役に立つことが多かったので、若い人たちに伝えたいという思いで執筆したのです。

–想定読者を30歳前後のビジネスマンに設定した理由は、なんでしょうか?

小林 一般的に、30歳にもなれば一度は人事異動を経験していたり、ある程度のビジネス経験を積んでおり、自分を見つめ直して次のキャリアを考える時期です。どんな仕事も、基本的には情報を処理する能力が問われるので、その王道をじっくり考えてもらいたいという目的で、読者として30歳前後のビジネスマンを想定しました。しかし、実際、本書は40~50代の方にも読んでいただいています。

–読者からは、どんな反応がありましたか?

小林 うれしかったのは、50代の読者が「30代向けに書いたとあるが、50代が読んでも役に立ちます。高校生の息子に読ませても、おもしろいと言っていました」という感想を寄せてくれたことです。私の会社の副社長も50代ですが、やはり「おもしろかったよ」と声をかけてくれました。また、社外からは研究会などでの講義の依頼も入ってきています。

–装丁はビジネスノウハウ書のイメージですが、内容は単なるノウハウ本ではありません。

小林 本書は「一攫千金を狙う」「出世して社長になる」といった願望を満たす内容ではありません。本の中には実践編も書いていますが、その内容を実践することで、毎日の仕事が少しでもスムーズに進み、チームのパフォーマンスが上がるようになればいいと思っているので、そういう方向に活用してほしいです。●教養の深さが情報処理能力を飛躍させる

–中でも、3章の「ヘンな意見にだまされない12カ条」は本書の見どころではないかと思います。

小林 元外交官の故・岡崎久彦氏は、著書『戦略的思考とは何か』(中央公論新社)の中で、インテリジェンスの基本に(1)客観性、(2)柔軟性、(3)専門性、(4)歴史的視点、の4つを挙げています。この4つの基本を踏まえた上で、私は以下の12カ条を提示しました。

1条:希望的観測の排除
2条:「情報の政治化」を避ける
3条:ハロー効果で目くらましされない
4条:硬直的な視野狭窄に陥らない
5条:自分の性格を自覚する
6条:バイアスを修正して受け取る
7条:美しすぎるウソに用心する
8条:根本が雑で枝葉が緻密な、バランスの悪い論理は危ない
9条:「少数の法則」にだまされない
10条:多数の予言
11条:多数の結果
12条:あいまいな予言

 それぞれの内容については、本書の中に詳しく書いてあるので、ご参照いただければと思います。

–本書に「あらゆる情報は、コンテキスト(文脈)の中で位置づけてみないと、正確に意味がわからない」と書かれていますが、それには一般教養の有無もかかわってくると思います。欧米のエグゼクティブには、高度な一般教養が必須条件ともいわれていますが、日本ではいかがでしょうか?

小林 欧米のように必須条件といえるほどの土壌があるわけではないですが、教養の豊かなエグゼクティブは日本にもたくさんいます。例えば、ライフネット生命保険の出口治明会長兼CEOは読書家で知られていますが、特に歴史への造詣が深く、大変教養の豊かな方です。出口氏と話していると勉強になる上、とても楽しいです。教養の豊かな人はビジネススキルを持っているだけの人と違い、ストックされた教養によって情報を処理して思考を深めることができるので、どんどん新しい視点を持てるようになるのです。今は世の中の変化のスピードが速く、新しい事象が次々に発生するので、教養の力はますます大きくなっていくと思います。

–例えば、答えのない問題に対して最適解を見つける能力が求められるようになるのでしょうか?

小林 その通りです。その時、バックボーンとして教養が身についているかどうかが大きな差になるでしょう。

–情報収集・分析に関する専門書やノウハウ書は巷にあふれており、細かいテクニックを伝えるような書籍もあります。

小林 結局、ジャーナリストの池上彰氏や元外交官の佐藤優氏が言っているように、必要な情報の大半は公開されているものでカバーできるのです。その上で古典から学び、陰謀論を排除することがインテリジェンスを磨く基本だと思います。特殊な情報ルートを持っている場合、それを使うのもいいですが、普通は持っていません。さらに、そのルートに頼ると、情報の偏在化や情報操作の対象になってしまうといったリスクも伴います。やはり、基本に徹することがインテリジェンスを磨く一番の近道です。

–ありがとうございました。
(構成=編集部)

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