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先祖返りするパナソニック、世界に背を向け「内向き」鮮明か 過去の成功体験への回帰

先祖返りするパナソニック、世界に背を向け「内向き」鮮明か 過去の成功体験への回帰

 

 本連載の2月7日付前回記事『本流社長・V字回復パナソニック=勝ち組、傍流社長・不振深刻ソニー=負け組、は正しいか』で、ソニーとパナソニックの組織改革、組織マネジメント、組織体質などについて論じたので、今回と次回は両社の事業展開についての論考を行いたい。

 ソニーは2月4日、2015年3月期連結決算見通しで、営業損益が従来の赤字予想から一転して200億円の黒字になると発表した。これを受けて株価は11年3月以来となる3000円台まで回復し、時価総額は3.59兆円と、3.20兆円のパナソニックを1年半ぶりに逆転した。よって、「ソニーは負け組、パナソニックは勝ち組」という単純な構図ではもはやないと受け止められるかもしれない。

 しかし、ときに過剰期待をもって反応するのが株式市場であり、投資先を無理にでも探さなければならない世界的な超金融緩和の状況を考えると、この時価総額の逆転をもってこの構図は崩れたと断ずるのも表層的であり、早計ともいえる。

 今回は、「企業の脱皮」という革新を起こせる可能性はどちらが高いかについて考えてみたい。

 まず、両社の事業を見てみよう。パナソニックは赤字部門の見直しとして家電事業を整理する一方で、軸足を旧松下電工の事業ドメインである住宅関連事業と、津賀一宏社長が事業部門のトップを最初に務めたカーエレクトロニクス部門を核とする自動車関連事業というBtoB事業へと大きくシフトした。これが、今回の津賀改革の中での大きな評価ポイントであろう。特に、本家の屋台骨であったデジタル家電を切り、旧松下電工の住宅関連事業へとシフトするのは、本家が分家の養子になったようなものであり、保守的なパナソニックとしては、相当な決断といえよう。ちなみに、同社はテレビをはじめとするデジタル・AVC関連機器を切り捨てたが、白物家電はベースロードビジネスとして残すのではないかと筆者は考えている。

 しかし、事業の将来性と強みを見てみると、まず、ベースロードとしての白物家電と住宅関連事業に強みはあるが、その将来性はどうだろうか。どちらも基本的には国内市場を向いた事業であり、今後急速に進む人口減少と超高齢化、中間層の衰退、日本社会全体の貧困化を踏まえると、国内市場は急速に縮小していかざるを得ないであろう。日本での住宅事業も例外ではなく、右肩下がりになるのは免れないであろう。14年4月の消費増税前に発生した駆け込み需要の反動もあるが、同年は89.2万戸と90万戸を切っている。

●自動車関連事業の将来性

 もう一方の自動車関連事業について見てみよう。売上高1兆円を超える同事業は、大きく分けて3つの分野からなる。一つはカーナビを主力とする快適分野、車載電池を主とする環境分野、そしてセンサーなど先進運転支援システムが主力の安全分野である。この中で、半分の売り上げを占めるのが快適分野である。18年の売上高計画では、事業部全体の売上高を2兆円とし、うち快適分野の売り上げを8800億円とするなど順調に伸びるとしている。しかし同市場は、自動車のネットワーク化が進めば、グーグルなどのICT(情報通信技術)をてことした異業種企業によって代替えされる可能性の最も高い分野であろう。もはや、ハードの時代ではない。 

 車載電池に関しては、HV/PHEV(ハイブリッド車/プラグインハイブリッド車)とEV(電気自動車)向けの市場であり、13年の市場規模は3800億円程度といわれる。現在、EVはまだ市場が立ち上がっていないと表現できる状況なので、この車載電池市場とはトヨタ自動車が主導権を握るHV/PHEV向けであり、パナソニックはトヨタと合弁でプライムアースEVエナジーを設立している。トヨタ向けにニッケル水素電池を供給しており、現状では車載電池市場においては非常に強い立場にある。ちなみに、出資比率はパナソニックが19.5%、トヨタが80.5%であり、どちらが主導権を握っているかは明白である。

 パナソニックが車載電池に最も注力するのは当然であろう。パナソニックには、EVエナジーのほかに旧三洋電機の電池部門であるオートモーティブ&インダストリアルシステムズがあり、ホンダや独フォルクスワーゲン(VW)にニッケル水素電池を供給している。18年の計画では車載電池事業の売上高を6800億円と現在の倍以上を見込んでいる。

 しかし今後、過渡的製品といわれるHV/PHEVから本流のEVに市場が移行していく可能性を考えると、トヨタと一心同体に近いパナソニックの現在の強みをどうとらえるかは難しい。パナソニックは昨年7月、EVの寵児と呼ばれる米テスラ・モーターズと大規模電池工場建設で協力することを発表し、テスラにリチウムイオン電池セルの供給を行うとしている。パナソニックとしては当然の保険であろう。しかし、テスラの未来は不確定であり、最近ではアップルによる買収も取り沙汰されている。

 では、3番目の、センサーなど先進運転支援システムが主力の安全分野はどうか。この売上高計画も4400億円と倍増以上を見込む。この市場のカギは、2つある。一つは、モジュールを製造できるかどうかという点であろう。自動車産業がガソリン車からEVへ移行すれば、一台当たりの部品点数は現在の万単位から百単位に減るといわれている。つまり、モジュールを握れないと勝者にはなれない。現在のパナソニックは、この安全分野で先進支援運転システムをモジュールとして完成車メーカーに提供できる地位にはない。強いといわれる車載電池を見ても、テスラとの合意が示すように、車載電池モジュールをつくるのはテスラである。

●失敗に終わった半導体事業

 もう一つのカギは、モジュールを握れなくても、部品としてオンリーワンに近い圧倒的な強さを持っているかどうかであろう。津賀改革の中で、半導体部門を大きく整理縮小した経緯を考えるに、おそらくパナソニックの半導体関連のセンサーには、部品としての圧倒的な強みはないのではないか。詳細は次稿で考察するが、ソニーのCMOSセンサーの地位とは大きく異なる。

 かつてパナソニックは、半導体事業でUniPhier(ユニフィエ)というCPUとビデオコーデック等を内蔵したシステムLSIと、OSとミドルウェア等から成るソフトウェアプラットフォームで構成されるデジタル家電用の統合プラットフォームを推進していた。半導体事業とUniPhierはデジタル家電の売り上げと軌を一にして成長するが、08年以降、デジタル家電の不振とともに急速に売り上げを落としていく。内製向けであったためだ。結果、パナソニックは半導体事業を13年の暮れに、イスラエルのタワージャズに売却する。

 そして、パナソニックはUniPhierをはじめとするシステムLSI事業を切り出し、富士通とともに新会社であるソシオネクストを設立した。今月3月2日から、LSI設計と開発に特化するかたちで事業を開始している。富士通が40%、日本政策投資銀行が40%、パナソニックが20%という出資比率を見ても、パナソニックは同事業での主導権を放棄しており、UniPhierが今後どうなるのか明確な指針は示されていない。現状では、UniPhierは事実上失敗であったといわざるを得ないであろう。これが、パナソニックの半導体事業の現状である。

●戦後の成功体験への回帰

 このようにパナソニックの津賀改革を見るに、基本的にはグローバルな展開を念頭に置いているというよりも、国内市場と日本企業に目を向けて、寡占化した競争環境か馴染みの競合相手と差別化をしながら激しく競争をしていくという、不確実性の低い環境での日本的な事業永続を志向しているといえるのではないか。もっとも、不確実性が低い事業環境を選ぶこと自体は、成長できるかできないかは別にして、必ずしも間違った経営判断ではない。

 言い換えればパナソニックの戦略は、戦後の多くの日本企業が持つ成功体験への回帰であり、ICTと融合した現在のネオグローバリゼーションがもたらす不確実性の高さ(非連続かつ加速的変化)への適応を通しての変革と成長ではないので、企業の脱皮とは異なるといえよう。同社が昨年7月に発表した、グローバル化への対応とされる成果重視と資格ではなく役割重視の賃金制度見直しの中で、日本的組織の代名詞ともいえる「部長」「課長」の呼称を復活させたのは興味深い。

 次回は、ソニーの事業展開を考察していきたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

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