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悪玉コレステロール値が高いのは、お酒の飲み過ぎか
会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有り難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。このコラムでは、各種検査への臨み方や結果の見方、検査後の対応など、誤解交じりで語られやすい職場健診についてわかりやすく解説する。
Q:悪玉コレステロール値が高いのは、お酒を飲み過ぎたから?
A:いいえ。肉の脂身などの食べ過ぎが原因。お酒の飲み過ぎでは中性脂肪値が上がる。
「悪玉コレステロール」「善玉コレステロール」という呼び方がすっかりおなじみになったが、その正式名称をご存じだろうか。職場健診の検査項目では、脂質代謝検査の「LDLコレステロール」が悪玉、「HDLコレステロール」が善玉に当たる。
悪玉のLDLコレステロールは動脈硬化を引き起こす原因に。((c)Vitaliy Vodolazskyy-123RF)
脂質代謝検査は、動脈硬化につながる脂質異常症を見つけるために行うもので、LDL/HDLコレステロールのほかに、中性脂肪の値も見るのが基本だ。コレステロールや中性脂肪は脂質で水に溶けないため、水になじみやすいたんぱく質と結合し、「リポたんぱく」という粒子の形で血液中を流れている。脂質代謝検査では、血液検査でリポたんぱくに含まれるコレステロールや中性脂肪の量を調べる。それぞれの値が1つでも以下の基準を超えると、脂質異常症が疑われる。
140mg/
dL以上高LDLコレステロール血症 120~
139mg/dL境界域 高LDLコレステロール血症(高リスクの病態がないか検討し、治療の必要性を検討する)
40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
150mg/dL
以上高中性脂肪(高トリグリセライド)血症
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』(日本動脈硬化学会編)を基に編集部で一部改変
まずは、コレステロールと中性脂肪がどんなものかを確認しておこう。コレステロールは細胞膜やホルモン、胆汁などの材料になり、中性脂肪は体のエネルギー源になるもので、いずれも欠かせないものだ。コレステロールも中性脂肪も、体内で合成されるものと、食べ物から取り入れられるものがある。
冒頭では悪玉/善玉コレステロールという呼び方をしたが、「コレステロールに悪いもの、良いものがあるわけではありません」と話すのは、生活習慣病の予防・治療を専門とする岡部クリニック院長の岡部正氏だ。
「LDLコレステロールは、コレステロールを肝臓から末梢(まっしょう)の細胞に運ぶ働きをしています。LDLコレステロールが増えすぎると、血管壁にコレステロールが蓄積されてプラーク(脂肪の塊)となり、動脈硬化を引き起こすため、『悪玉』と呼ばれています。一方でHDLコレステロールは、末梢で余ったコレステロールを肝臓に回収する働きをするもので、動脈硬化を防ぐことから『善玉』と呼ばれています。コレステロール自体は同じものですが、行きと帰りで違う乗り物で運ばれており、乗り物の名称が異なると考えれば分かりやすいかもしれません」
■警戒すべきは、コレステロールそのものより「飽和脂肪酸」や「トランス脂肪酸」
悪玉のLDLコレステロール値の上昇には、食べ物が大きく関係している。一般には、卵や魚卵などコレステロールを多く含む食品の取り過ぎが、LDLコレステロール値を高めると思われることがあるが、「血液中のコレステロールのうち、食品の摂取によって腸から吸収されるコレステロールは2~3割程度で、7~8割のコレステロールは肝臓で合成されています。そのため、コレステロールそのものを含んでいる食べ物よりも、肝臓でコレステロールを合成する材料となる、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を含む食べ物の取り過ぎに、より注意が必要です」(岡部氏)
実際、米国ではこれまで、食生活の指針とするガイドラインでコレステロールを多く含む食品の摂取量の上限を示していたが、2015年版では、「食事から摂取するコレステロールと血中コレステロールの間に明確な関連を示す証拠がない」との理由からこれを撤廃した。一方で、飽和脂肪酸の摂取量については、より厳しい制限が求められている。
では、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を含む食べ物には、どんなものがあるのだろう。
■肉の脂身、菓子パンなどに要注意
「飽和脂肪酸は脂身の多い肉やバター、ラードなどの動物性脂肪に多く含まれています。肉を食べるなら、赤身の肉を選ぶといいでしょう。トランス脂肪酸は人工の脂肪で、マーガリンやショートニングに含まれています。米国では、トランス脂肪酸の使用が厳しく規制されていますが、日本では規制も表示義務もありません。そのため、マーガリンやショートニングを使って作る菓子パン、ケーキ、スナック菓子などにはトランス脂肪酸が含まれていると考え、控えたほうが無難です」(岡部氏)
一方、青魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸には、LDLコレステロール値を下げる作用があるという。
「LDLコレステロール値には、お酒の飲み過ぎは関係ないのか」と安心してはいけない。アルコールや、ブドウ糖や果糖となって吸収される炭水化物は、肝臓における中性脂肪の合成を促進するため、取り過ぎは中性脂肪値を高める原因になる(中性脂肪については、次回に詳しく説明する)。
岡部氏によれば、遺伝的な体質によって、コレステロールや中性脂肪を過剰に作りやすい人と、作りにくい人がいるという。すでにLDLコレステロール値が高い人は、過剰に作りやすい体質と考えて、食生活の改善を心がけたい。
(田村知子=フリーランスエディター)
Profile 岡部正(おかべ ただし)
岡部クリニック院長
1953年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業。亀田総合病院副院長を務めた後、オーダーメード医療を理想に、東京・銀座に岡部クリニックを設立。専門医として生活習慣病の予防と治療に尽力している。テレビ番組など各メディアでも活躍。『ズボラでも中性脂肪とコレステロールがみるみる下がる47の方法』(アスコム)など著書多数。日本病態栄養学会評議員、日本糖尿病学会認定専門医・指導医、日本肥満学会会員。
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