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決着目前の大塚家具父娘戦争、どちらの戦略が「正解」なのか?双方に危惧される課題とは
大塚家具の創業者、大塚勝久会長とその娘、久美子社長がお互いの退任を求めるなど経営権をめぐる争いが続いていますが、その委任状争奪戦に決着がつく株主総会が27日に迫り、注目を集めています。しかし、この問題が「父・会長vs.娘・社長の大げんか」という視点で取り上げられていることを大変残念に思っています。なぜなら、経営を考える上で、これほど素晴らしい事例はないからです。革新的な経営手法で成長を遂げてきたものの、変わりゆく環境にどう対応すべきか。すべての企業が我が身に置き換え、真剣に検討すべきテーマであると言えるでしょう。
●勝久氏の言い分
3月6日付で大塚勝久事務局から発表された「新経営体制による企業価値向上策と株主提案へのご支援のお願い」では、大塚家具の企業価値の源泉として以下の4点が取り上げられています。
「三世代にわたるお客様の応援」
「広大な店舗・豊富な品ぞろえ」
「従業員の対面販売力」
「取引先との関係・効率的流通」
さらに、高付加価値販売戦略回帰のための施策として、以下3点が強調されています。
「三世代消費に対応できる販売」
「ご案内・対話重視の販売(ただし希望者は自由に入店)」
「『大塚家具で買うこと』自体を付加価値にできる販売」
●久美子氏の言い分
大塚家具の2月25日付「中期経営計画」では、同社に対する「受付や接客に抵抗を感じる」「価格が高そう」といった顧客のイメージを問題視し、今後の施策として以下の4点が強調されています。
「既存店改革(気軽に入れる・中価格帯・セットではなく単品買いの促進)」
「新規出店(未出店の大きな商圏へ大型店・ライフスタイルを意識した専門店)」
「地方百貨店との提携販売強化」
「BtoB事業強化」
●正解はどちらか
さて、それでは正解はどちらでしょう。
まず、勝久氏の戦略に対する筆者の印象は「現状維持」です。従来のやり方で利益が出にくくなってきているわけですから、現状維持的戦略が正しいとは言いにくいように思います。もちろん、従来の戦略を高いレベルで実践するということも大事なことかもしれませんが、「いかにして実現していくのか」が重要なポイントになるでしょう。
一方、久美子氏の戦略は「気軽に入れる店づくり」「中価格帯への注力」など、従来のやり方を否定し、新たな方向性を示しており、正しいように思えます。しかしながら裏を返せば、これまでの大塚家具の強みを否定することにもつながり、「どこでどのように他社との差をつくるのか」という点が大きな課題として残ります。
歴史を振り返れば、安売りで参入してきた小売店が時を経て、高付加価値化に注力し、脱安売りに転換している事例は数多く存在しています。身近な例では、100円均一ショップでも300円、500円といった商品が販売されていますし、低価格を売りにしてきたPB(プライベートブランド)商品においても、高価格なPBが誕生してきています。よって、今後、ニトリやIKEAが中価格帯に進出する可能性は十分にあると思います。また、「高級家具といえば大塚家具」というイメージの低下による既存顧客の離反など、「二兎追うものは一兎をも得ず」という結果にならないか危惧される面もあります。
筆者がいろいろな企業を訪問して感じることは、「何をするか」は大切ではあるものの、「いかにやり抜くか」の重要性です。ここ数年、取り組んでいる「高く売る戦略」に関する研究でも、トップのリーダーシップや全社的モチベーションの高さなどの重要性を痛切に感じています(詳細は拙書『「高く売る」戦略』<同文舘出版>参照)。
今回のような事態に陥ってしまった大塚家具において、こうした企業にとって重要な土台をいかに再構築するのかという点が、最も気になるポイントです。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)