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石炭火力発電推進、GDP増と雇用増に有効 バカ高いLNG輸入、日本経済に悪影響
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、火力発電の燃料であるLNG(液化天然ガス)の輸入が急増し、貿易赤字の主因となっている。この背景には、日本がLNGを「ジャパンプレミアム」と呼ばれる高値で購入していることがある。事実、原発事故前は3兆円台だったLNG輸入額が13年以降は7兆円を超えている。
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こうした中、日本のLNG輸入価格に影響を与える可能性があるのが、米国のシェールガス革命である。近年、米国では天然ガスへのシフトが進行している。硬い頁岩(けつがん)中のガスや石油を採取できる技術により生産量が飛躍的に伸びており、米国シェールガス価格は100万BTU(英熱量単位)当たり3.4ドル程度に対して、日本が輸入しているLNGは4倍以上の約15ドルもする。
一方、アジアのLNG価格は原油価格に連動する仕組みとなっており、原油高につられて上昇するが、震災以降はその関係が崩れている。特に現状の日本は、火力発電に頼らざるを得ない状況のため、生産国からジャパンプレミアムという高値買いを強いられることは必至だ。
しかし、米国で増産が進むシェールガスの存在からLNGの価格が下がる期待があり、価格面でも注目すべき材料となろう。将来、日本が北米等から直接買い付けることができれば、シェールガスの生産急増により化石燃料全体の価格を抑制する効果が期待される。さらに世界レベルで見て十分な供給があれば、原子力発電所の停止によって高い価格でLNGを買わざるを得ないジャパンプレミアムのような事態も解消されやすくなる。
●日本は世界トップレベルの石炭発電効率
一方、日本の最先端技術によって脚光を浴びているのが、石炭火力発電である。石炭は北米や欧州など政情安定国を中心に世界中に広く分布しており、安価で安定的に入手可能なことから、いまだに世界全体の発電量の4割を占めている。また、日本の石炭火力発電効率は平均4割以上であるのに対して、新興国等では3割を下回っている国もある。こうした世界トップレベルにある日本の技術と共に、安定供給で安価なこともあり、日本経済の成長力に貢献することが期待されている。将来、日本が電気料金を安く抑えることができれば、電気代や安くなった分を他の投資に回すことにより経済成長につながる効果が期待される。さらに、石炭はさまざまな地域から調達できることも、日本にとってはメリットが大きいといえよう。
現状、日本では1キロワットの発電をする場合、石炭では5円程度かかるが、それでも現在のLNG燃料単価の約13円に比べて6割ほど安く済む。石炭は世界全体で産出でき、安定調達しやすいため、コストの高い原油に代わって常時稼動する主力電源として期待されている。
●問題解決の糸口
日本でLNG価格を引き下げるには、LNGの輸入源と調達方法を多様化する必要があろう。現状、日本がシェールガスを輸入する場合、ガスを液化する費用や関税がかかるが、それでも現在のLNG価格に比べて2~4割ほど安く済む。
一方、日本で燃料費を抑制する策の一つとして、石炭火力発電の推進も有効といえる。石炭火力の新増設が可能となれば、LNG火力への集中を避けることができ、貿易収支の改善にもつながることは確かである。
事実、LNG価格が欧州並みになると仮定すると、理論上の年間発電コストは1.6兆円程度抑制される計算になる。また、わが国の発電構成比における石油分(13%)をすべて石炭にシフトすると、理論上の年間発電コストは9000億円程度抑制される計算になる。そこで、これがマクロ経済に及ぼす影響を試算すれば、実質GDPが3年後に+3.2兆円程度拡大すると試算される。つまり、仮にLNGの輸入価格を欧州並みに下げ、発電構成比の13%分の石油を石炭火力にシフトすることができれば、3年後の実質GDPは+0.6%程度押し上げられ、約+10.8万人の就業者数の拡大に結びつくことになる。
さらに、国際収支上は輸入金額の減少に結びつくため、燃料費減少は経常黒字を拡大させる要因となり、その効果はやがて産業の空洞化を抑制し、これによって国内での雇用機会が拡大すれば、日本経済はさらなる復活の道が期待されることになる。
なお、年間の発電コストが約1.7兆円減少すると、経常黒字が+2.5兆円以上拡大すると試算される。一方、経常黒字の拡大を通じて円がドルに対して+11.5円程度増価圧力がかかり、これがさらに輸入コストの減少につながると予想される。このように、発電コストの減少が最終的に経常黒字を拡大させることにつながれば、財政、金利、為替など、経常黒字を通じた日本の経済システム全体を大きく変えることになる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)