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「正社員」の悲哀 デフレ下の居酒屋チェーンは、彼らがいたから成り立った
前回、ワタミ過労自殺の背景として「慢性的な人手不足により正社員にしわ寄せがくるため、長時間労働が避けられない」と書きました。これを読むと、社外の人は「それなら店の従業員の数を何らかの方法で増やせばいいのに」と思うかもしれません。
しかし経験者からすると、それは居酒屋チェーンのビジネスモデルからして困難です。人を増やせば人件費が増え、店として利益が出せなくなります。利益を出すために単純に商品の価格を上げれば、きっとお客様も来なくなるでしょう。(文:ナイン)
■時給より「安定的な雇用」を優先してサビ残してくれる
ここで現状のビジネスモデルを振り返ってみます。ここ十年ほど、ほとんどのチェーン居酒屋のビジネスモデルは「薄利多売」でした。安価な商品を提供し、多くのお客様を呼び込んで売り上げを確保するのです。
この背景にはデフレ経済という事業環境がありました。本来は、適切な商品価格で利益を確保しなければ社員に十分な給与を支払うことはできません。しかしお客様はデフレで絶対的に安い方に流れるため、徹底したコストダウンを図るしか道はありません。
とはいえ原価を削れば味は落ち、お客様は離反するでしょう。そこで目をつけたのが、従業員の賃金です。アルバイトを店の主力にすれば、賃金が安く抑えられます。正社員なら最低賃金ギリギリというわけにもいきませんし、給与の他に社会保険などにも入らなければなりません。
ただしアルバイトが外食の要だったのは、何十年も前から同じこと。デフレ下でワタミが新たに目をつけたのは、従来は高コストと考えられていた正社員でした。正社員なら細かな時給よりも安定的な雇用を優先して働くので、サービス残業をさせやすい。
さらに正社員に店の利益に対する責任も負わせれば、タダ働きして利益を出すようになります。あわせて、「君たちへの報酬は『ありがとう』だから」という洗脳も行います。このようなしくみによって、お客様は安い値段でそれなりに美味しいものが食べられたというわけです。
■「安くこきつかうから儲かる」モデルは終わった
このようなしくみが世の中に知れわたると、外食産業に正社員として就職したいという人が減っていきます。少子化もあいまって、「時給を上げてもアルバイトが集まらない」状況も増えました。
バブル崩壊後とはいえ、豊かな時代に生まれ育った若者たちには、「仕事がキツそう」「クレームが多そう」というイメージがある外食で、わざわざ働きたいとは思いません。…