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<東京大空襲>「惨劇」米国人も伝える 日本語で小説刊行
約10万人が犠牲になった東京大空襲から10日で70年を迎える。神奈川県小田原市で英会話教室を経営する米国人ブレット・フィスクさん(42)が、この空襲を生き延びた親子を主人公とする日本語の小説を刊行した。「歴史から謙虚に学ばなければ、同じような悲劇を繰り返す」。日本で悲惨な記憶が薄れつつある今、爆撃した側である米国の戦後世代が東京大空襲を語り継ごうとしている。
作品は「紅蓮(ぐれん)の街」で、現代思潮新社(東京)から1月に刊行された。
爆風にたたきつけられた衝撃で血が人影のように残った壁。子を守ろうとして炎に包まれた父親。障害のある子を家に残し逃げざるを得なかった母親。高熱で骨は灰となり、遺体から溶け出た脂が橋に黒いシミを残していた−−。小説に出てくる描写は、体験者の証言や手記を参考にしたという。「物語はフィクションだが、細部は歴史的な事実にこだわった」と話す。
1972年ユタ州生まれ。誕生日は「真珠湾攻撃の日」である12月7日(米時間)だ。幼いころから「パールハーバー」の話を聞かされ、日米史に関心を持つようになった。
92年に来日し、独学で日本語を習得。太平洋戦争を調べるうちに東京大空襲を知った。古本屋で買った「東京空襲を記録する会」の体験集の悲惨さにショックを受け、米国人としての葛藤から眠れぬ夜も過ごした。
米国人は広島、長崎への原爆投下は知っていても、東京大空襲は知らない。知っていても「戦争の早期終結のためにやむを得なかった」という受け止めが一般的だ。
その悲惨さを米国でも知らせようと、2010年に米国の研究者とともに日米両国の資料を集めたサイト「日本空襲デジタルアーカイブ」(http://www.japanairraids.org/)を設立した。
物語の終盤、空襲で母を亡くした日本人女性が、米国人青年に訴える。「アメリカ人に忘れられるかと思うと、悲しいどころか、たまらなく怖いんです。しかも、わたしがそう思うのは、あなたたちにとって空爆は<正しい戦争>だったからこそです!」
「無差別爆撃は日本の侵略戦争を終わらせるのに必要だった」と主張する青年に、女性は言う。「<必要悪>でも、悪は悪ですわ。あなたの国は特にそれを忘れてはなりません」
フィスクさんは「各世代で戦争について知り、語り、伝えていかなければ忘れられてしまう。若い世代や米国人にも読んでほしい」と話す。以前から交流があり、東京大空襲で父と姉を亡くした清岡美知子さん(91)=東京都練馬区=は「空襲のことをよく調べていて驚いた。読んだ人にはいかに戦争が愚かしいものか伝わると思う」と話している。【戸上文恵】