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下請け企業、苦渋の賃上げ 「トヨタ城下町」人材奪い合い激化
自動車や電機大手で昨年を大きく上回るベースアップ(ベア)が見込まれる2015年春闘では、政府が目指す「経済の好循環」実現に向け、雇用の7割の受け皿とされる中小・零細企業の賃上げの動きも焦点となっている。トヨタ自動車の下請け企業が多く集まる愛知県西三河地区の現場を訪ねると、余裕がなくても賃上げに踏み切らざるを得ない中小・零細企業の苦渋が浮かび上がってきた。
◆「カイゼン」で原資
「もうかったから給料を多くするのではなく、将来に期待して出すことにした」
トヨタ系列でエンジン部品などを製造する西尾市の2次下請け企業。48歳の経営者は2年連続で賃上げに踏み切る理由をこう説明した。従業員は約50人。売上高は08年秋のリーマン・ショック前と比べて85%程度にとどまり、原材料価格の高騰も利益を圧迫している。それでも月1%程度の賃上げを決断した。
背中を押したのは「人材確保の難しさ」だ。大手の業績回復に伴って仕事量が増え、2年ほど前からこれまでに6人を採用したが、働き手の奪い合いは激しくなる一方。採用した半数が他企業に移ってしまうという。
刈谷市の部品メーカーも今春、2年連続の賃上げを実施する方針だ。経営者は「従業員のモチベーションを維持するため」と話す。だが、業績は上向いているとは言い難く「日々の『カイゼン』で原資をつくるしかない」と話す。
海外販売の好調や円安で業績好調なトヨタなど自動車大手各社は、今春闘で2年連続のベアを実施する方針だ。ただ、自動車部品メーカーの6割程度は国内の拠点だけで事業を営んでおり、円安の恩恵どころか、むしろ海外からの部品調達コストの増加などで負担が積み重なる。
豊田市の研磨会社の経営者は「10年、20年続く仕事が入れば設備や人に投資をしたいのだが…」と賃上げには消極的だ。円安で自動車生産が国内回帰の動きを見せ、新しい仕事の依頼も舞い込むが「為替が変動すれば、いつまた海外に移されるか分からない」と、不安を拭うことができない。
◆業界全体に波及せず
昨年の春闘で大手企業は幅広い業種がベアに踏み切ったが、経済産業省の調査では中小企業でベアを実施したのは約2割。賃金の格差は広がった。
自動車総連は中堅・中小企業の賃金の底上げを強く意識し、今春闘で「月額6000円以上」のベアを統一要求に掲げた。その結果、加盟1060組合の平均要求額は昨年の約2倍に当たる5904円の高水準となった。
トヨタは下請けメーカーに年2回行ってきた値下げ要求を14年度下期に続き、15年度上期も見送った。好業績の恩恵を中小の取引先にも波及させ賃上げなどの原資に充ててもらう狙いがある。
賃上げを決めた西尾市の経営者は「値下げ額は年間で100万円程度になるので、見送りにホッとした」と胸をなで下ろす。ただ、値下げ要求の見送りは他の自動車大手には広がっておらず、「トヨタだけでは意味がない」(愛知県の3次下請けの経営者)との声も少なくない。
大手の春闘交渉が大詰めを迎えた12日には、菅義偉(すが・よしひで)官房長官が「昨年12月の政労使会議で、政府として、企業収益が賃金や下請けの設備投資に結びつくようにしてほしいとお願いしている」と強調し、大企業と中小・零細企業間で広がる格差の是正を改めて促した。
「小さなネジが一本なくても良い車はできない」(中小企業の組合幹部)とされる自動車業界。今春闘が「人への投資」を業界の裾野にまで広めるきっかけとなるのか。日本の製造業が競争力の強化に前進できるかどうかを占う春闘になりそうだ。(松岡朋枝)