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アンタレス・ロケットの打ち上げ失敗とソ連からやってきたロケットエンジン (1) 5号機でつまづいたアンタレス・ロケット
2014年10月28日、国際宇宙ステーションへの補給物資を搭載したアンタレス・ロケットが打ち上げに失敗し、大爆発を起こした。その原因として、今から約40年前に製造された、ソ連製のロケットエンジンが疑われている。
本稿では、アンタレス・ロケットと、その第1段のソ連製ロケットエンジンの概要、現時点での原因の調査状況、そして今後の動きについて解説したい。
アンタレス、墜落
米オービタル・サイエンシズ社は米東部夏時間2014年10月28日18時22分(日本時間2014年10月29日7時22分)、無人のシグナス補給船を搭載したアンタレス・ロケットを、ヴァージニア州ウォロップス島にある中部太平洋地域宇宙港(MARS)から打ち上げた。シグナスの船内には、国際宇宙ステーション(ISS)に向けた補給物資として、約2,290kgもの水や食料、実験機器などが搭載されていた。
しかし、離昇から約6秒後にロケットの下部で爆発が起き、地上へ墜落して、さらに大爆発を起こした。アンタレスやシグナス、補給物資はすべて失われ、発射台の周囲は火の海となった。
事故後、真っ先に心配されたのはISSに滞在している宇宙飛行士のことであった。だが、ISSへの補給は、アンタレス/シグナス以外にも、スペースX社のファルコン9ロケット/ドラゴン補給船や、ロシアのソユーズ・ロケット/プログレス補給船、また日本のH-IIBロケット/「こうのとり」が存在する。実際に事故の約9時間後には、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から、ISSへの補給物資を搭載したプログレスM-25M補給船が打ち上げられ、6時間後に送り届けられている。やりくりに多少の変更は生じるかもしれないが、宇宙飛行士の生命にかかわるほどの問題にはならない。
むしろ不幸だったのは、実験機器や衛星を預けていた企業や大学、研究機関などだ。その中には日本の千葉工業大学・惑星探査研究センターも含まれている。保険は掛けられていただろうが、新たに代替機を造るには時間がかかり、また時間は保険では戻ってこない。
アンタレスが打ち上げられたのは今回が5機目だったが、皮肉なことに、多くのメディアがトップニュースとして報じたことで、過去4回の打ち上げよりも高く注目される結果となった。
アンタレス・ロケットが爆発した瞬間 (C)NASA
アンタレス墜落後の発射台周辺の様子 (C)NASA
アンタレス・ロケットとシグナス補給船
ギリシア神話において、英雄オリオンはあまりにも傲り高ぶったことから、生みの親であるガイアからサソリを送り込まれ、尾の毒針に刺され死んでしまう。彼を殺したサソリはその功績により、天へと上がり、「さそり座」が生まれたとされる。
そのさそり座の中でも、ひときわ明るくて赤く輝く星が「アンタレス」だ。アンタレスという名前は、ギリシア語で「火星に対抗するもの」を意味する。ギリシア神話で火星は「アレース」、それに対抗するもの(アンチ)というところから、アンタレスというわけだ。条件が整えば、赤い惑星としておなじみの火星とアンタレスとが並び、両者が赤さを競い合うように輝くことから、その名がつけられたとされる。
その名を冠するアンタレス・ロケット(正確にはアンタリーズと発音する)は、米国のオービタル・サイエンシズ社(以下オービタル社)によって開発された。オービタル社は1982年に設立された会社で、設立当初は小さなベンチャー企業ではあったが、現在では数多くのロケットや人工衛星を製造する、大手企業のひとつにまで成長した。
アレースはかつて、米航空宇宙局(NASA)の新型ロケット、エアリーズ(Ares)の名の由来となり、オリオンもまた、現在NASAが開発中の新型宇宙船オライオン(Orion)の名の由来となっている。オービタル社がロケットにアンタレスと名付けたことに、もちろん深い意味はないのだろうが、1980年代から官が支配する宇宙開発に挑戦し続けてきた同社の、強い対抗心が見えてくるようだ。
同社がアンタレスを開発した背景には、NASAが2006年に立ち上げたCOTS計画がある。これは民間の企業に、宇宙ステーションなどへの人や物資を輸送を担わせようとするものだ。
COTSとは「商業軌道輸送サービス」(Commercial Orbital TransportationServices)の頭文字から取られているが、より一般的な「商用オフザシェルフ」(Commercial Off-The-Shelf)という言葉の頭文字にも掛かっている。
もともとNASAでは、1980年代に、小型ロケットと小型衛星の開発や打ち上げに関して、民間に委託する計画を始めていた。実際に補助金も出され、多くの起業家が挑戦した。その中で成功し、生き残った企業こそ、こんにちのオービタル社でもあった。
まずNASAは、ISSに貨物を輸送する無人補給船と、それを打ち上げるロケットの開発、運用を民間に委託することにした。そして2006年に、新興のスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)社と、同じく新興のロケットプレーン・キスラー社に契約を与えた。だがロケットプレーン・キスラー社はその後経営難に陥ったため契約は破棄され、それに代わって2008年に選び直されたのがオービタル社だった。
スペースX社とオービタル社はともにNASAからの資金援助を受けつつ、ロケットと無人補給船の開発をはじめた。だが、両社が開発したロケットには大きな違いがある。
スペースX社のファルコン9ロケットとドラゴン補給船は、ともに同社内で設計、製造された。もちろん米国の厚い宇宙産業の下地があってこそ可能だったことだが、ともかく開発はすべて自社内で完結している。
それに対してオービタル社のアンタレス・ロケットは、ほとんどが他社で開発、製造されれたものを組み合わせて造られている。例えば第1段のタンクはウクライナのユージュノイェ社から購入しており、またその設計はウクライナのゼニート・ロケットのものを短くしたものだ。そこにロシアで約40年間保管されていたロケットエンジンを装着する。そして第2段には米国のアライアント・テックシステムズ(ATK)社が製造する固体ロケット・モーターを装備している。この第2段はもともと大陸間弾道ミサイルのLGM-118ピースキーパーで使われていたもので、その後アジーナIIやトーラスXLなどのロケットにも使用されたキャスター120というロケットモーターからさらに派生したものだ。
またシグナス補給船も、貨物を搭載する部分はスペースシャトルで使われていた多目的補給モジュール(MPLM)が基になっており、製造もMPLMと同じくフランスのタレス・アレーニア・スペース社が手がけている。バッテリーや太陽電池、スラスターなどが載るサーヴィス・モジュールも、多くが既製品を流用して構成されている。
対照的な両社ではあるが、一概にどちらが優れているかといえることではない。単純にアプローチが違うというだけで、既製品をまとめあげるというのも大変な技術が必要なものだ。
組み立て中のアンタレス (C)NASA
アンタレス1号機の打ち上げ (C)NASA
アンタレスの1号機は米東部夏時間2013年4月21日17時ちょうど(日本時間2014年4月22日6時ちょうど)に打ち上げられた。この1号機は純粋にロケットの性能を確かめることを目的としており、頭の部分にはシグナス補給船と同じ質量を持つダミーのペイロードと、4機の超小型衛星が搭載されたのみであった。ロケットは順調に飛行し、打ち上げは完璧な成功に終わった。
続く2号機は同年9月18日に打ち上げられた。この2号機ではシグナスの試験機を搭載しており、ロケットからの分離後、ISSへと飛行し、結合、物資の補給、そして大気圏への再突入までを予定通りこなした。
3号機は2014年1月10日に打ち上げられた。この号からシグナスの実運用機を搭載し、NASAとの契約に基づいたISSへの商業補給ミッションを担うことになる。アンタレスもシグナスも問題なく飛行し、ミッションをこなした。また、第2段には性能を向上させた新しい固体ロケットが搭載され、従来型がアンタレス110、この3号機からはアンタレス120と呼ばれている。同年7月13日には4号機が打ち上げられ、こちらも成功している。
今回の打ち上げは、アンタレスにとって5機目、シグナスにとっては4機目であった。また第2段がさらに強化されたアンタレス130の初打ち上げでもあった。これまで順風満帆な歩みを続けてきたアンタレスだが、ここにきてついに最初のつまづきを経験することになった。
(次回は11月21日に掲載します)
参考
・http://www.orbital.com/NewsInfo/MissionUpdates/Orb-3/
・http://www.orbital.com/NewsInfo/release.asp?prid=1918
・http://www.nasaspaceflight.com/2014/10/antares-fails-shortly-after-launch/
・http://www.spaceflight101.com/cygnus-orb-3-mission-updates.html
・http://www.nasaspaceflight.com/2014/10/antares-fails-shortly-after-launch/
40年前に生産されたソ連製ロケットエンジンNK-33