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嫌いな刺激に馴れる仕組みを線虫で発見

嫌いな刺激に馴れる仕組みを線虫で発見 

 神経細胞が担う記憶の研究は難しいが、新しい手法と成果が登場した。線虫の記憶を迅速に数値化する装置を開発し、動物が生まれつき不快に感じる刺激に馴(な)れる際の仕組みの一端を、京都大学物質-細胞統合システム拠点の杉拓磨(すぎ たくま)助教らが解明した。線虫の実験だが、嫌いなものをときに好きになる不思議な馴化現象や、ヒトの認知機能の解明の手がかりになりそうだ。11月17日付の米科学アカデミー紀要に発表した。

 写真. 振動という物理的刺激に対する線虫の馴化学習・記憶現象(提供:京都大学)

 動物は、嫌いで逃げてしまうような刺激でも、さらされ続けると馴れてしまい、行動を変える。馴れるには、過去に体験した刺激を学習し、記憶する必要がある。このため、「馴れ」の現象は、脳神経科学で古くから、学習・記憶の仕組みを解析するモデルのひとつとされてきた。しかし、膨大な数の脳神経細胞から、「馴れ」に関わる神経細胞を見つけ出し、その細胞だけを特異的に分子レベルで解析することは難しく、研究は進んでいなかった。

 図. 線虫の物理的刺激の記憶を定量化する装置。上が装置の概略で、9枚の飼育シャーレをずらりと並べ、それぞれに振動を加えて、行動を計測する。下左が装置の実物写真、下右が線虫の飼育シャーレへの振動刺激の付与部分。(提供:京都大学)

 研究グループは、線虫でこの「馴れ」の研究に取り組んだ。線虫は体長1ミリほどの小さな動物だが、高等な動物と同様、体験した刺激を学習・記憶する能力がある。しかも体が透明で、302個の神経細胞しかなく、細胞ごとに遺伝子操作もできる。このため「究極のモデル生物」といわれる。その線虫は飼育シャーレを振動させると後ずさりするが、6時間ほど振動を繰り返して馴れさせると逃げなくなる。この馴化学習・記憶現象に着目し、馴れる前と後の行動をカメラで計測して、行動の量から記憶を数値化できる自動装置を考案し作った。

 また、記憶保持の目印分子CREBのリン酸化を神経細胞1個ずつ阻害する方法を使い、振動という嫌いな刺激に馴れる際の記憶に関わる2個の神経細胞を突き止めた。それぞれの神経細胞を1個だけ阻害しても、振動の刺激は記憶され、同時に2個を阻害して初めて記憶は失われた。2個の神経細胞が記憶に関わることによって、片方の神経細胞がたとえ働かなくなっても、記憶が安定して維持されるという神経細胞の冗長性や頑強性がうかがえた。

 研究した杉拓磨さんは「振動という物理刺激の記憶に関わる神経細胞を2個に絞り込めた。次は、これらの神経細胞で何が起きているかを遺伝子操作で詳しく調べたい。われわれが開発した、線虫の行動の自動計測装置は記憶研究を進めるのに役立つだろう。刺激の種類が違えば、記憶に関わる神経細胞の組み合わせも異なってくる可能性はある。線虫の遺伝子の約40%はヒトの遺伝子と同じで、ヒトの認知機能を探る手がかりになる」と話している。

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