仕事で役立つ人気ビジネスアプリおすすめ!
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
東北大、超高速光通信に最適な光パルス「光ナイキストパルス」を発明
東北大学(東北大)は、「光ナイキストパルス」と名付けた新たな光パルスを発明し、超高速光通信の伝送効率を向上させることに成功したと発表した。
同成果は、同大 電気通信研究所の中沢正隆教授らによるもの。詳細は、米国光学学会ならびに光ファイバ通信国際会議において報告された。
高精細画像の動画配信をはじめとするブロードバンドサービスの急速な普及に伴い、国内の情報量は年率約40%の勢いで増加を続けている。このような情報量の増加に対応するため、基幹光伝送網の大容量化に向けた取り組みが加速している。現在実用化されている波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送システムにおいては、1波長あたり10~40Gbpsのビットレートで、40~100波の信号を波長多重することにより、1Tbpsを超える伝送容量が実現されている。今後は、1波長あたりのビットレートを100Gbps以上に高速化しつつ、限られた帯域の中でできるだけ多くのWDM信号を高密度に収容することで、伝送容量をさらに拡大することが重要な課題となっている。
光通信において、ビットレートを高速化するには、信号間隔を短くし出来るだけ多くのパルスを詰め込む必要がある。同技術は、時分割多重(TDM:Time Division Multiplexing)技術と呼ばれている。多重化を光領域で行う方法は光時分割多重(OTDM)と言い、電子回路を用いずに光回路だけで光パルスを時間多重するため、電子回路の速度限界を超える伝送速度を実現することができる。例えば、光パルス1ピコ秒間隔で配置すれば、1波長で1Tbpsの超高速光通信も実現できるという。
一般に光通信に用いられる光パルスには、ガウス型とSech(セカントハイパボリック)型がある。これらの光パルスでは、裾野の僅かな部分でも隣り合うパルスと重なってしまうと、互いのパルスの干渉により各ビットの情報が識別できなくなり誤りが発生する。このため、ビットレートを高速化する(単位時間に詰め込むパルスの数を増大させる)ためにはできるだけ狭いパルスを用いてパルス間隔を空ける必要がある。例えば、1Tbpsのビットレートを実現するには、300~400フェムト秒の超短パルスが必要となる。このような超短パルス伝送は、光ファイバ伝送中に波形の歪みを受けやすいため、数100kmのような長距離にわたって情報を正確に伝送することは難しい。
図1 従来の光通信に用いられる光パルス
今回の「光ナイキストパルス」は、パルスの重なりを利用する新たな光伝送技術で、パルス幅が広くても高速伝送を実現できることから、ファイバ伝送中も歪みを受けにくい点が特徴となっている。高速通信にはできるだけ幅の狭いパルスが必須であるというこれまでの光通信の常識を覆す新たな技術とコメントしている。
ポイントは大きく4つ。1つ目は、光ナイキストパルスによる高速・高効率伝送方式の提案。
図2 光ナイキストパルスの形状
光ナイキストパルスの形状はH. Nyquist氏によって1928年に電気信号処理技術として導出されたもので、無線通信では「ナイキストフィルタ」と呼ばれる帯域通過フィルタのインパルス応答関数として知られている。インパルス応答とは、インパルスという鋭い信号(幅が無限に狭く波高が無限に高いパルス)をフィルタに入力したときの出力信号を意味する。ナイキストフィルタのインパルス応答は「ナイキストパルス」の名で呼ばれているが、インパルス応答とはあくまでも抽象的な概念であり、実際にこのような形状のパルスを生成した例はこれまでなかった。
今回、光ナイキストパルスの形状を持つ光のナイキストパルスをパルスレーザとそのスペクトル制御により、実際に発生させることに成功し、さらにこれをOTDMにより多重化して送信する新たな超高速光通信方式を提案した。図2のナイキストパルスは、裾野が周期的に振動しながら徐々に減衰し、ある一定間隔Tごとにその強度が必ずゼロになるという特徴を持つ。従って、次のパルスが時間Tをおいて隣に存在しても、図3に示すように隣り合うパルス同士が重なってしまうにも関わらず、各シンボル点では両者の干渉が生じない。その結果、この方式により信号パルスを従来よりも高密度に詰め込むことが可能となり、伝送効率が向上できるという。
図3 ナイキストパルスを時分割多重した様子。隣り合うパルス同時が重なっているにも関わらず、青線で示すように各シンボル点では隣からの干渉が無く、情報が識別できる
2つ目は、パルスシェーパーによる光ナイキストパルスの発生。通常、高速なパルスレーザから出力される光パルスは、ガウス型あるいはSech型の形状である。従って、光ナイキストパルスを発生させるためには、パルス波形をガウス型およびSech型から図2の形状に整形するための光スペクトル制御回路(パルスシェーパー)が必要となる。そこで、LCoS(Liquid Crystal on Silicon)素子を用いたパルスシェーパーにより、高い分解能で波形整形を行い、光ナイキストパルスを生成することに成功した。生成した光ナイキストパルスの波形を図4に示す。
図4 パルスシェーパーを用いて発生させた光ナイキストパルスの波形。黒線は図2の波形を2乗したもの。右上の拡大図に示すように、裾野の振動が高い精度で実現できていることがわかる
光パルスの波形は、その強度(振幅の2乗)でしか測定できないため、同図に示す波形は図2の波形を2乗したものに対応している(同図の黒線が、図2の波形を2乗したもの)。見ると、ナイキストパルスの特徴である裾野の振動が実現できていることがわかる。さらに、このパルスをOTDMにより6.25ピコ秒間隔に詰め込み、160Gbpsの超高速光信号を発生させた。
図5 図4の光ナイキストパルスを6.25ピコ秒間隔で多重化した超高速光信号波形。青い点は各シンボル点を表している
商用の基幹回線の速度は10Gbpsのため、その16倍の伝送速度に対応することになる。図4のパルスは幅が5.2ピコ秒と広いため、6.25ピコ秒間隔に並べると隣接パルス同士が重なり合い、相互の干渉の結果、信号波形は一見複雑な形状に見える。しかし、図5の青い点で示すように、各シンボル点では信号強度は常に1を保っている。このことは、パルス同士の複雑な干渉にも関わらず、各パルスが有する情報が完全に保持されていることを意味している。一方、従来のガウス型パルスを6.25ピコ秒間隔に並べようとすると、干渉を避け各シンボルの情報を保持するためには、パルス幅はパルス間隔の30~40%(現在は少なくとも2.5ピコ秒以下)であることが要求される。従って、ナイキストパルスを使えば、従来よりも2倍以上広いパルス幅で同じ伝送速度を実現できる。このことは逆に、同じパルス幅で比較すると、光ナイキストパルスは従来よりもパルスを2倍以上詰め込むことができ、伝送効率が向上できることを意味している。
3つ目は、重なった光ナイキストパルスから情報を抽出する新たな多重分離手法(光サンプリング法)の発明。図5のOTDM信号は、シンボル間隔が6.25ピコ秒と大変短く、また信号が重なっているため、そのまま電気信号に変換して各データを抽出することができない。そこで今回、重なった信号から所望のデータを抽出するために、超高速光サンプリング法を新たに考案した。これは、アナログ信号をデジタル信号に変換する際に使われるサンプリング技術を光に拡張した画期的なものとなっている。今回、実際に非線形光ファイバループミラーと呼ばれる光サンプリング回路を作製し、これにより幅が1ピコ秒の狭い光ゲートで所望のデータを抽出することに成功した。
図6 超高速光サンプリング法による光ナイキストパルス信号の多重分離の様子
4つ目は、光ナイキストパルスを用いた高速伝送の実証。これらの要素技術を組み合わせて、光ナイキストパルスで構成した160Gbps光信号を実際に長距離伝送させ、歪みに強いという本伝送技術の優れた特徴を実証した。
図7 ナイキストパルスならびにガウス型パルスを用いて160Gbps信号を伝送させたときの符号誤り率測定結果
同実験では、分散が3.4ps/nmという大きな値を持つファイバに160Gbpsの信号をナイキストパルスおよびガウス型パルスを用いて伝送させ、符号誤り率を比較した。図7の白丸は、送信器と受信器を直結させた状態の結果(Back-to-back)で、伝送後の誤り率曲線がこれに近いほど良好な伝送特性と言える。ナイキストパルスの場合は、赤いシンボルで示すように、伝送後の誤り率はBack-to-backと大きく変わらないのに対し、ガウス型パルスの場合は青いシンボルで示すように曲線がBack-to-backから大きくかけ離れている。この結果は、同じ分散のファイバであっても、ナイキストパルスは歪みの影響を格段に受けにくいことを意味している。
次に、160Gbpsの信号をナイキストパルスならびにガウス型パルスを用いてそれぞれ500km伝送させ、ナイキストパルスの歪みに対する耐性をさらに詳細に評価した。
図8 波長分散に対する信号歪みの耐性
同実験では、波長分散の大きさを±8ps/nmの範囲で変化させ、10-9という誤り率(10億個のパルスを送って信号の判定誤りが1個しか生じない伝送品質)を達成するのに必要な受光感度を比較した。図8において、ガウス型パルスの場合は分散の大きさとともにグラフが急激に上昇している。このことは分散の増大に伴い所要パワーが増大し、伝送性能が急激に劣化していることを意味している。一方、ナイキストパルスの場合には、伝送性能の劣化が2倍以上緩やかになっている。即ち、ナイキストパルスのほうが2倍以上分散歪みに耐えられることがわかった。
今後は、さらなる高速化に向けて、1波長あたり1Tbpsに向けての取り組みが重要な課題となる。そこで研究グループでは、今回の光ナイキストパルスを使って、できるだけ高い効率で高いビットレートを実現することを目指すという。また最近では、直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)と呼ばれる多値変調技術が光通信で広く用いられるようになり、デジタルコヒーレント伝送技術として実用化に向けた研究開発が進展していることから、この多値コヒーレント技術を光ナイキストパルスに適用することで、高速かつ周波数利用効率の高い究極的な伝送技術の実現が期待されるとしている。