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東大、再燃前立腺がんに対するヘルペスウイルス療法の臨床研究を開始

東大、再燃前立腺がんに対するヘルペスウイルス療法の臨床研究を開始 

 東京大学(東大)は5月15日、同大 医学部附属病院が、泌尿器科・男性科の福原浩 講師を総括責任者として再燃前立腺がん患者を対象にしたウイルス療法の臨床研究を開始すると発表した。

 近年、日本人男性の前立腺がん患者数が増加しており、肺がん、胃がんに次ぐ第3位に位置づけられるまでになっている。前立腺がんは男性ホルモン「アンドロゲン」の刺激を受けて増殖、進展するため、治療法としては物理的に手術によるがん切除のほか、放射線の外部からの照射(外照射)や小型の放射性物質を密封した容器に入れ、前立腺に埋め込む小線源放射線治療、そして男性ホルモンであるアンドロゲンの作用を抑制する薬剤(抗アンドロゲン剤)を用いる「ホルモン療法(内分泌療法)」などが一般的だ。しかし、ホルモン療法の場合、徐々に薬が効かなくなっていき、再びがんが勢いを取り戻す、いわゆる「再燃」が生じることが知られている。

 ホルモン療法の治療効果がなくなってからの生存期間中央値(いわゆる平均余命)は12~15カ月とされているが、治療手段も限られており、抗がん剤治療としても、唯一効果があるとされる「ドセタキセル」を投与しても、平均2~3カ月の延命効果しかなく、また、副作用などの面から治療として選択されないことが多いのが現状だ。

 このように、前立腺がんが再燃した際には有効な手だてがないことから、今回臨床研究を開始するウイルス療法のような新たなアプローチによる治療法の確立が求められている。

 がんに対するウイルス療法は、がんだけで増殖するウイルス(がん治療用ウイルス)を、がん細胞に感染、増殖させることで、そのがん細胞を死滅させようというもの。近年の遺伝子組換え技術の発達により、そうしたウイルスを人為的に造ることが可能となった。

 正常細胞に感染した遺伝子組換えウイルスは増殖できないような仕組みを取り込んであるため、正常組織は傷つかず、がん細胞のみを死滅させることが可能という特長がある。

 ウイルス療法は、すでに欧米を中心に、がんの新しい治療法として開発が進められており、さまざまなウイルスが応用されている。特に、単純ヘルペスウイルスI型は、口唇ヘルペスの原因となるありふれたウイルスながら、がん治療に有利な特長を多く備えているため、臨床開発が進んでいるという。例えば、単純ヘルペスウイルスI型の、2つのウイルス遺伝子に改変を加えた第2世代のがん治療用ヘルペスウイルスは、悪性黒色腫を対象とした治験の最終段階が米国で終了し、欧米で初めてのウイルス療法薬として認可される可能性が高いとされている。

 がんに対するウイルス療法のイメージ

 すでにこうしたがん治療用ヘルペスウイルスは第3世代の開発が進んでおり、三重の改変によって高い安全性を獲得しながら、強力な抗がん作用を発揮できる「G47Δ」が、世界に先駆け、日本で実用化に向けた臨床試験が2009年より、進行性膠芽腫(悪性脳腫瘍)の患者を対象として行われているというが、研究チームでは、前立腺がんや脳腫瘍など、あらゆる固形がんに有効であると考えられるとする。

 今回の臨床研究は、2011年8月に東京大学医学部遺伝子治療臨床研究審査委員会の承認を受けたのち、厚生労働省に申請され、2012年8月7日付で厚生労働大臣の承認を受けている。また、増殖型遺伝子組換えウイルスを使用するため、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」に則って、第一種使用規程が厚生労働大臣と環境大臣に申請され、2012年8月7日付で承認を受けており、国内で初めての国の承認を受けて行う前立腺がんのウイルス療法の臨床試験となるという。

 ちなみに今回の臨床研究に用いるG47Δの臨床製剤は、東大 医科学研究所の治療ベクター開発室の製造施設において国際基準(GMP)に準拠して同大医科学研究所 藤堂具紀教授の研究チームが製造し、国際基準(GLP)の品質試験を実施して合格したものである。

 G47Δのイメージ

 また、対象疾患としては、前立腺の摘出を受けてなく、ホルモン療法後に再燃した前立腺がんで、遠隔転移がある場合も含み、抗がん剤ドセタキセル投与の既往は問わないとしている。投与方法は、経直腸超音波ガイド下に経会陰的(経皮的)に前立腺内投与で、段階によって2回から4回行わる予定で、用量は3例ずつ3段階で増加(合計9例)される予定だという。

 治療イメージ。会陰部の皮膚から直接前立腺内に投与する

 試験開始の時期は2013年5月下旬以降を予定しており、評価期間は投与後6カ月間で、生存期間追跡は2年間となっている。

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