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NEDOと九大など、3タイプの「低侵襲内視鏡手術支援ロボット」を開発

NEDOと九大など、3タイプの「低侵襲内視鏡手術支援ロボット」を開発 

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と九州大学は9月4日、医師や看護士が扱いやすく、正常な臓器機能を可能な限り温存できるコンパクトな診断・治療一体型の「低侵襲内視鏡手術支援ロボット」(画像1)を開発したと発表した。

 成果は、九大の橋爪誠教授らの研究グループによるもの。研究は、NEDOの「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」の一環として行われた。

 画像1 消化器外科用インテリジェント手術支援ロボット全景

 内視鏡外科手術は、手術創が小さく低侵襲であるため、術後の回復が早く、早期の社会復帰が可能だ。しかしながら、患部を治療する際、体外から挿入した専用の手術器具を用いた微細な手術操作や内視鏡を用いるために生じる制限された視野内において高度な手術技術が求められるなど、執刀医、医療スタッフなどの医療従事者の負担が大きいという課題があった。

 NEDOは、2007年度から「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/内視鏡下手術支援システムの研究開発(旧名:インテリジェント手術機器研究開発)」プロジェクト(研究代表者:九州大学大学院医学研究院 橋爪誠教授)に取り組んでいる。

 より安全でより負担の少ない治療技術を目指し、日本が世界に誇る内視鏡技術、ロボット技術、センシング技術などを融合し、医療従事者が扱いやすく、患部を精度よく効率的に治療し、正常な臓器機能を可能な限り温存できるコンパクトな診断・治療一体型の低侵襲内視鏡手術支援ロボットなどの開発を実施した。

 今回開発された手術支援ロボットの操作方法は、マスター・スレーブ方式と呼ばれるもので、術者(執刀医)が手元のコンソール(マスター)を操作して、患者の体内に挿入されたマニピュレータ(ロボットの腕や手)を操作するものだ。

 また、患者に挿入された3D(立体)内視鏡により、手術部位をリアルにとらえて治療ができるなど、より安全な手術が可能になる点も特徴である。

 これらの機能を持った手術支援ロボットにより、患者、医療従事者共により負担が少なく、より安全な手術が可能となり、入院期間の短縮による医療費の低減化や早期社会復帰にもつながるなど、より質の高い医療を提供できる形だ。

 今回のプロジェクトでは、脳神経外科用、胸部外科用、消化器外科用と3種類の手術支援ロボットが開発された。ただし、コンソールや制御装置などは共通とし、マニピュレータは各対象部位に最適な形状となっている。いずれのマニピュレータにも、対象部位に応じて必要とされる高度な処置具やセンサが装備されており、さらに高精度な3D画像を使用することで、手術部位をリアルにとらえて治療ができ、患者の生体情報や術前検査画像(CTやMRIなど)や術中の超音波画像をリアルタイムに術者へ提示できるなど、より安全な手術が可能になる仕組みだ。

 前述の3種類の手術支援ロボットはそれぞれ個別のサブプロジェクトとして進められ、委託先もそれぞれ異なる。脳神経外科用は、「脳神経外科サブプロジェクト」(委託先:名古屋工業大学、名古屋大学、産業技術総合研究所)で開発が行われている。

 主に脳腫瘍を対象としており、従来の顕微鏡下での手術において低侵襲を追求すると、側方の腫瘍については取り残しが生じやすいことから、それにも対応できるよう開発された。

 側方向からアクセスして吸引を可能とするための「直視側視切り替え3D内視鏡」、腫瘍の除去に用いる「吸引管」、止血に用いる「バイポーラ(双極性(両極性)焼灼器)」、術野洗浄に用いる「イリゲータ」を側方に変形して操作することのできる「ロボティック内視鏡処置具」から構成される「脳神経外科手術用インテリジェント手術支援ロボット」技術である。

 画像2 運動野を近傍とする腫瘍に対する低侵襲アプローチと側方死角の発生

 画像3 脳神経外科用インテリジェント手術支援ロボット全景と先端処置具部分

 そして2つ目の胸部外科用は、「胸部外科サブプロジェクト」(委託先は東京大学およびオリンパス)によって開発が進められている。このプロジェクトでは、「虚血性心疾患」に対する「冠動脈バイパス術」や肺がんを対象とするが、肋骨の存在により機器の挿入角度や操作範囲に制限を生じてしまう。そこで、人間の手の自由度よりも1自由度多い7関節のマニピュレータを開発し、障害物を避けながら所望の箇所にアクセスして操作が可能な処置具とそれを制御する「胸部外科用インテリジェント手術支援ロボット」技術が開発された次第だ。

 画像4 胸部外科用インテリジェント手術支援ロボット

 3つ目の消化器外科用は、「消化器外科サブプロジェクト」(委託先は九州大学ならびにHOYA)で開発されており、胃がん・肝臓がんなどの消化器がんを対象としている。ここ数年で世界的に急速に普及し始めている「SPS(Single Port Surgery:単孔式内視鏡外科手術)」に対応した、立体軟性内視鏡に、2本の鉗子と「集束超音波発振装置」を融合した「消化器外科用インテリジェント手術支援ロボット」技術が開発された。

 なお、従来の腹腔鏡手術は、腹腔鏡や鉗子などの手術器具をそれぞれの切開創(ポート)から挿入するのに対し、SPSは1カ所のポートから腹腔鏡や鉗子を挿入して行うのが特徴。主として臍部から挿入するため、切開創が目立たないことが特徴で、急速に普及している。

 また集束超音波発振装置とは、超音波エネルギーを1点に集束させるとその焦点部分が高温になることを利用して、がんだけに収束させて、そこを高温にして治療する装置。高温にするとがん細胞が破壊されるので、従来のような切除が不要となり、焦点以外の組織には何の影響も与えないため、無血手術が可能となる。

 画像5 消化器外科用インテリジェント手術支援ロボット先端鉗子部分および集束超音波発信装置を出したところ

 画像6 消化器外科用インテリジェント手術支援ロボット動作CGイメージ(提供:東京慈恵会医科大学)

 同プロジェクトでは、今回の成果を早期に実用化するための研究開発を引き続き行っていく予定だ。また、将来的にはIT技術を活用した遠隔治療への展開も考えられ、地域格差や病院間格差がなく、患者が等しく優れた医療を受けられるようになることが期待されるとしている。

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上原健二
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