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SELSE 3
Silicon Errors in Logic – System Effect (SELSE)と呼ぶ学会が4月3日、4日の両日、テキサス州の州都であるオースチン市にあるテキサス大学で開催された。今年が3回目という若い学会であるが、昨年は50人の参加であったが、今年は80人と急速に注目を集めている。
シリコンチップ上に作られた回路にエラーが発生した場合に、それがシステムの動作にどのような影響を与えるか、そして出来るだけシステムとしての誤動作を起こさないようにするにはどうすれば良いかというのが主要なテーマで、この分野の研究者が集まってくる。参加者同士は、かなりの人が知り合いなので、ロビーでも、やあやあ、という感じで話が始まる。
テキサス大学オースチン校で開催されたSELSE 3のレジストレーション風景と会場の様子。参加者80人なのでこじんまりとしたものである。
シリコンチップ上の回路がエラーするなどということがあるのかと思われるかも知れないが、実はエラーしたり、故障したりするのである。ここではエラーと故障という言葉を使ったが、専門的には、故障して使えなくなることをハードエラー、一過性のエラーをソフトエラーと呼んでいる。
ハードエラーは、使用しているうちにトランジスタが段々と劣化して正常に動作しなくなったり、配線の弱い部分が切れてしまうということなどで発生し、いわゆる寿命で起こる不良である。一方、ソフトエラーは外部からの電気ノイズで発生することもあるが、最近のLSIのソフトエラーの主因はアルファ線や中性子と言った放射線である。
歴史的には、1978年の学会で当時DRAMの最大手であったIntelが、アルファ線でDRAMのビットが反転するという論文を発表したのが放射線によるシリコンエラーに関する最初の報告である。この時のアルファ線は、パッケージの蓋を融着する鉛ハンダやパッケージを構成するセラミックに含まれる微量の放射性同位元素から発生していた。その後、これらの原料素材から放射性同位元素を除いて精製する技術の進歩でアルファ線の問題は軽減されたが、替わって問題になってきたのが中性子である。
太陽風やもっと遠くの宇宙から光速に近い速度の超高エネルギーの粒子が飛んでくる。これらの粒子は空気の分子にぶつかるので直接地表に到達することはまれであるが、空気の分子とぶつかると様々な2次粒子のシャワーを生成する。そしてそれらの粒子が、また、空気の分子にぶつかり2次粒子のシャワーを生成する。地表で観測される中性子は、大部分がこのシャワーで作られたものだそうである。このように空気との衝突でエネルギーが分散しているのであるが、それでも100MeV以上の高エネルギーの粒子はまれではない。場所にも依存するが、海抜0mの地表では10MeV以上のエネルギーを持つ中性子が、毎秒、1平方cmに14個程度降り注いでいる。
中性子は大きさが小さく電荷も持たないので貫通力が強く、大部分はシリコンチップを通り抜けてしまうが、たまにシリコン原子にぶつかるものも出てくる。高エネルギーの中性子が当たると、シリコン原子から電子をたたき出してしまう。従って、電子とそれが抜けた穴であるホールの雲が発生する。まあ、バンカーにゴルフボールを打ち込むと、砂やホコリが舞い上がるというような感じである。この電子は近傍にある正の電位の部分に引き寄せられて吸収される。電子が吸収されるというのは電流が流れ出すことと同じであり、正の部分の電位が低下してしまう。ホールの場合は、この逆で、結果として負の部分の電位を上昇させてしまう。そして、この電位の変動が大きい場合には回路がエラーすることになる。
次の図に示すように、SRAMのメモリセルやラッチ回路では、2個のインバータのそれぞれの入力に他方のインバータの出力が接続されたループ構造になっている。
SRAM メモリセルの回路図。2つのインバータがループになっている
インバータの特性と入力ノイズに対する応答
右側の図はインバータの入出力特性を表わす図で、黒の太線が横軸の入力電圧に対する出力電圧を表わしている。入力されたノイズが緑のパルスのように小さい場合は出力は変化しないが、赤のパルスのように大きくなると、青い線で書いたような大きなノイズが出力に現れる。これが他方のインバータの入力になり、更に増幅されるというプロセスがループを回りながら繰り返されるので、このような回路では、最初のノイズが一定以上の振幅があると、記憶されている情報が反転してしまう。