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「250億円マッチ」実現のメイウェザーvsパッキャオ。史上最高の巨額マネーを稼ぐ仕組みとは?
世界中のボクシングファンが長年夢見た“世紀の一戦”がついに決定した。
47戦全勝、5階級制覇のフロイド・メイウェザーJr(アメリカ)と、6階級制覇の“アジアの大砲”マニー・パッキャオ(フィリピン)が、5月2日(現地時間)にラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで激突するのだ。この試合はWBA、WBC、WBO及びリング・マガジンのウェルター級王座統一戦となる。
この試合がボクシングファンだけでなく全世界の人々の注目を集めているのは、待望の最強王者対決というだけでなく、なんといっても両者が手にする報酬の巨額さだ。何しろふたり合わせて250億円近くなると予想されているのである。あのマイク・タイソンですらファイトマネーの最高額は35億円程度(97年6月。vsイベンダー・ホリフィールド第2戦)だったことを思うと隔世の感だが…。
では一体なぜ、250億円などという途方もない金額になるのだろうか?
「彼らのギャラがここまで高くなったのは、ペイパービューの報酬が大きいですね」
と言うのはラスベガス在住のカメラマン、福田直樹氏だ。長年、現地でボクシングを撮り続け、2011年と12年に2年連続で全米ボクシング記者協会の最優秀写真賞を受賞した“世界一のボクシングカメラマン”である。
ペイパービュー(以下、PPV)とは、テレビ番組を1番組ごとに料金を払って視聴するシステムで、日本ではあまり馴染みがないがアメリカでは一般的なシステム。
昔はボクサーのファイトマネーは、主に試合会場の入場料売り上げから払われていたが、今はこのPPV売り上げの歩合が非常に大きい。
通常のボクシングの試合のPPV視聴料は30ドル(約3600円)前後だが、注目度の高い試合だと60ドル(約7200円)もする。日本人から見ると非常に高額に感じるが…。
「アメリカは広い家が多いので、友達が何家族か集まって大勢で一緒に見ることが多いんですよ。メイウェザーvsパッキャオのPPV料金は70ドル(約8400円)どころか、もしかすると100ドル(約1万2000円)を超えるかもしれません。過去のメイウェザーやパッキャオの試合の視聴料では64ドルというのもありましたし、今回は誰もが待ち望んだスーパーファイトですからね」(福田氏)
ちなみに、過去最高のPPV契約件数はメイウェザーvsオスカー・デラホーヤ(07年5月)で250万件。また、PPV売り上げの最高記録はメイウェザーvsサウル・アルバレス(13年9月)で1億5千万ドル。今回はそれを大きく上回ることが予想されている。
「入場料売り上げもかなりの額になるでしょう。MGMグランドは最大1万6千席くらいですが、今回はチケット代もべらぼうに高いものになると思います。デラホーヤvsフェリックス・トリニダード戦(99年9月)の時は、アリーナだけでなくスタンド席でも1800ドルもしましたしね」
メイウェザーvsパッキャオのチケットは発売後数分のうちに売り切れたという。元値は公表されていないが、英国のチケット・ブローカーが付けたリングサイド席の最高値は2万9500ポンド。1ポンド185円で計算すると、なんと545万7500円!
米『フォーブズ』誌によれば、過去最高の入場料売り上げは上記メイウェザーvsアルバレスの約2000万ドルだが、今回はその2倍の4000万ドル(約48億円)以上と予想されている。
「他に、クローズド・サーキットの売り上げもバカになりません」(前出・福田氏)
クローズド・サーキットとは、映画館や劇場などを使って、大スクリーンで試合をライブ上映するもの。これもアメリカでは最近よく行なわれている方式だ。広いアメリカでは試合開催地まで行くのも大変だし、チケットにも限りがある。だが、劇場の大スクリーンで大勢のファンと一緒に絶叫しながら観れば、試合会場さながらに楽しめるというわけだ。
「また、グッズの売り上げも大きいですね。特にメイウェザーのグッズを手がけるTMTというアパレルブランドは値段が高いのに人気があります。ヘビ皮製で3万円以上する帽子とか、Tシャツにしても他の選手のTシャツの1.5倍~2倍の値段なのによく売れてます」(福田氏)
それ以外に、スポンサーからの収入も大きいという。パッキャオにはナイキがスポンサーについているし、メイウェザーはスポンサーが少ないと言われるが、それでもアルバレス戦の際はスポンサー収入だけで200万ドルもあった。
「さらに、世界中のテレビ局からの放映権料も莫大な額になるはず。特にパッキャオの母国フィリピンでは、おそらくこの日は祝日になって、ほとんど全ての国民がこの試合を観るでしょう」(福田氏)
実際、フィリピンでは内戦中でもパッキャオの試合があると、政府軍もゲリラも停戦合意して皆がテレビを観ていたという。今回の試合の日も当然ながら全国民がテレビにかじりつくことになるだろう。
さて、ではここで肝心の試合内容はどうなるだろうかーー。
メイウェザーの戦績は47戦全勝(26KO)、パッキャオは57勝(38KO)5敗2分け。無敗のメイウェザーはボクシング史上最も防御がうまいと言われるが、KO率ではパッキャオが優る。
ただ、パッキャオは12年末に“宿敵”フアン・マヌエル・マルケスに13年ぶりとなるKO負けを喫して、その無敵さに少し陰りが見えている。
数々のビッグマッチで決定的瞬間の撮影に成功し、“パンチを予見するカメラマン”の異名をもつ福田氏は「順当にいけば、判定でメイウェザーでしょう。パッキャオを右ストレートと左フックで迎え撃つ形になると思います。スピードもメイウェザーのほうが上です」と、メイウェザー有利の予想だ。
「メイウェザーほど練習するボクサーを自分は見たことがありません。公開練習では4時間もぶっ通しで練習し、あまりの長さに取材する記者が疲れて途中で帰ってしまうほど」
メイウェザーの練習量は化け物じみている。筆者もメイウェザーvsデラホーヤ戦前の数時間にわたる密着番組を翻訳したことがあるが、1度の練習で5千発以上のパンチを打ちこむ映像を見て、舌を巻いた。
夜中の2時に突然練習がしたくなってチームのスタッフ全員を叩き起こしてジムに集合させ、そのまま何時間も練習することもあった。それほどの練習マニアなのだ。
「そうしたものすごい量の練習に支えられたスタミナは豊富で、精神力もすごく強い。それがメイウェザーの無敗記録を築いてきたのでしょう」(福田氏)と言うのも頷(うなづ)ける。
そして、メイウェザーのパンチの破壊力も決して低くはない。
「サンドバッグを本気で打ち込むと、かなり強烈なパワーがあります。ウエイトトレーニングも結構やってますし。だから場合によっては、メイウェザーがパッキャオをKOすることも考えられますね」(福田氏)
では、パッキャオに勝機はないのか?
「そうとは言い切れません。メイウェザーにとってパッキャオは非常に相性が悪い相手です。パッキャオはトリックがうまく、相手から見ると遠くにいるように見えるボクシングをしていますが、実は遠く見せているだけで近い距離にいるんです」
そして、パッキャオはメイウェザーが苦手だと言われるサウスポーでもある。メイウェザーは左手を下げ、肘から下をL字型に曲げた「L字ガード」と呼ばれるガードをとるが、これはサウスポー相手だとあまり有効ではない。
さらに、別の要素もある。
「メイウェザーは最近少しだけスピードが全盛期よりも落ちている。そこにもってきて、パッキャオへの応援がものすごい圧力になると思います。アメリカには非常に大きなフィリピン系コミュニティがありますし、フィリピン系以外でも『メイウェザーが負けるところが見たい』というアンチファンはかなり多い。
メイウェザーが少しでもバランスを崩すようなことがあれば、パッキャオが大声援の波を受けて一気に攻め込み、チャンスを掴(つか)むかもしれません」(福田氏)
面白い試合になることは間違いなさそうな“世紀の一戦”。派手なマネー話含め、5月の試合当日まで様々な話題を振りまいてくれそうだ。
(取材・文/稲垣 收)