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宮沢りえ、深津絵里、小栗旬、岡田将生、三浦春馬……ドラマや映画の売れっ子俳優たちが舞台に出たがる理由
今や舞台出身者や劇団関係者が支えていると言っても過言ではない日本のドラマ&映画界。彼らの個性豊かなキャラクターと引き出しの多さは映像の世界でも欠かせないファクターになっています。そんな中、逆に映像出身の売れっ子俳優や女優たちがこぞって舞台にチャレンジしているのをご存知でしょうか?
なぜ、ドラマや映画で活躍している俳優たちが稽古日数も多く、一般的に映像と比べてギャラも安いと言われる「舞台」にあえて出演するのか。ここではそのあたりを男女別に考えていきたいと思います。
■宮沢りえ、深津絵里……女優が舞台に立つターニングポイントとは?
もともと映像やグラビアでデビューを果たした女優さんの場合、ある一定の年齢に達した頃から舞台に挑戦する人が増えてきます。その年齢とはズバリ“30歳”。30代の前半までは恋愛ドラマのヒロイン枠にも入れますが、35歳を過ぎるとその門はグンと狭くなり競争率も上がるのが日本の「THE・芸能界」。多くの女優さんと所属事務所がその時期を見据え、舞台に挑戦することで“綺麗なお姉さん”から次の段階へのステップアップをはかる訳です。
このバージョンで最初に名前が挙がるのはやはり宮沢りえさんでしょう。12歳の時にCMでデビューして以来、数々のドラマや映画に出演し、時代を駆け抜けてきた彼女が最初に舞台に出たのは19歳の時ですが、本気で演劇の世界にぶつかり、一定期間は映像の仕事より舞台を優先すると決めたのは31歳になってから。今や盟友とも言える野田秀樹氏作・演出の『透明人間の蒸気(ゆげ)』出演時だそうです。実際、宮沢さんはそれから40歳になるまでの10年間、CMを除いて映像の仕事はほぼしておらず、舞台を中心に活動。野田秀樹作品を始め、蜷川幸雄演出作やデヴィッド・ルヴォー演出の舞台などに続々と出演し、高い評価を得ています。
また深津絵里さんも、舞台デビューは19歳と宮沢さんと同じですが、1997年に出演した野田秀樹作・演出の『キル』以来、舞台への参加が増えていきます。2008年初演の『春琴』では、谷崎潤一郎の「春琴抄」を英国演劇界の鬼才、サイモン・マクバーニーが舞台化するというスリリングな企画に主役の春琴役で出演。大評判となった『春琴』は再演を重ね、彼女の演技は国内外で絶賛されました。
他にもアイドルとして一時代を築き、NHKの朝ドラ『あまちゃん』では母親役にもチャレンジした小泉今日子さん、グラビアからバラエティに進出し、今や演技派女優として評価されている小池栄子さん、出演本数こそ少ないものの、確実に演劇界に爪痕を残している中谷美紀さん、年齢的には20代ですが、既に演劇を軸に活動している感もある蒼井優さんらの舞台での活躍は特に印象的。そう言えば、故・森光子さんが長きにわたって演じてきた『放浪記』の林芙美子役が、仲間由紀恵さんに引き継がれる、というニュースもありました。
清純派やヒロイン系の役柄が多かったのに、30代に入った頃からお母さん役や主人公の先輩役など、それまでと仕事のモードが変わってきたと感じる女優さんも多いそう。そんな中、小手先の技術では通用しない「舞台」という分野に挑戦することで、彼女たちは新しい扉を開こうとするのかもしれません。
……と、女優さんの“舞台ターニングポイント”が30歳であると書いてきましたが、男性俳優の場合は全く違う現象が起きているように思います。
■小栗旬、岡田将生、三浦春馬……イケメン俳優達がテレビと舞台の世界を行き来する
“30歳”を意識したときにそれまで映像で活躍してきた女優さんが舞台に挑戦する理由は先に書いた通りですが、男性俳優の場合はちょっと勝手が違ってきます。と言うのも、男性の場合、40歳を過ぎても刑事モノや時代劇でメインを張れる機会も多く、それまで映像で活躍してきた俳優が35歳を過ぎていきなり舞台にチャレンジ……という例は実はさほど多くありません。
では映像で売れている男性俳優が舞台に挑戦するのはいつか。コレ、現状では20代が圧倒的に多いように思います。中でも蜷川幸雄氏演出の舞台には小栗旬さん、岡田将生さん、成宮寛貴さん、綾野剛さん、窪田正孝さんら多くの若手俳優達が参加し高い評価を得ていますし、瑛太さん、向井理さん、松坂桃李さん、三浦春馬さんらのイケメン俳優達も積極的に舞台に挑戦。
またジャニーズ事務所所属のタレントたちはジャニー喜多川氏の意向もあり、テレビやコンサートの現場と並行して多くの舞台に出演しています。さらには、渡辺プロダクションが仕掛けるD-BOYSからも和田正人さん、柳下大さん、瀬戸康史さんら、映像と舞台の両方で目立つ活動をする人材が続々と登場。
この現象はここ10年くらいで特に顕著になったと思うのですが、映像で活躍する若手俳優が舞台に出ることは今や一種のステイタス。舞台での演技が高く評価されれば、映像の世界でもキャリアアップへとつながっていくのです。
興行側は人気の俳優が舞台に出演することによってチケットの売れ行きが良くなり、予算の確保がしやすくなる→製作側は旬の俳優を使うことで舞台に勢いを加え、質の高い作品をじっくり作れる→出演者は才能ある演出家や劇作家のもと、俳優としてブラッシュアップできる。
こんなWin-Winな循環が今、多くの現場で起きています。
最初の“旬”である20代のときに一流のクリエイターたちと舞台の仕事をすることで力をつけ、30代後半から40代に入ったときに実力派として堂々と主役を張れるようになる。ドラマや映画で活躍するイケメン俳優たちが、拘束時間も長く、ギャランティも安いと言われる舞台にあえて出演するのはそんな理由も大きいのかもしれません。
「演劇=暗い、怖い、小汚い、小難しい=4K」と言われたり、「舞台に出演=映像で売れなくなった俳優の墓場」なんて認識は過去のもの! 女優さんと男性俳優で状況の違いはあるものの、今や旬の俳優達が舞台と映像の世界を自在に行き来し、シェイクスピア劇と恋愛ドラマを同時に魅せる時代なのです。
文・上村 由紀子(All About 演劇・コンサート)