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警備の数が2倍に。AKB48傷害事件以降の“接触系イベント”の変化
アイドルを取り巻くキーワードは無数にあるが、その中でも近年めだつのは「接触系イベント」である。目の前でじかにふれあえる「握手会」や、商品をじかに手渡す「お渡し会」など、目的によっても名称は異なる。かつての歴史をたどれば、おニャン子クラブが全盛だった時代にもさかのぼるが、とりわけ、2010年前後に「戦国時代」が叫ばれてからはファンやメンバー、運営側にとっての比重は大きい。
【図をみる】襲撃事件以前、以降を比較
特に、近年の握手会でめだつのはやはりAKB48をはじめとする「48系列」の存在だろう。CDリリースごとに握手券を付属させ、一人ひとりのファンはメンバーとふれあえるわずか数秒に全神経を尖らせるのである。
出版の側面からもその一端をうかがい知れるが、例えば、『AKB48握手会完全攻略ガチマニュアル』(コスミック出版)や『乃木坂46 握手会へ行こう! -メッチャ攻略ブック-』(アールズ出版)など、握手会の現場を知るファンの体験にもとづきメンバーとの数秒をどう活かすか、指南する書籍が刊行されているのは、握手会の重要性を裏付ける現象だろう。
しかし昨年、暖かさに包まれていたはずの握手会に水を差す事態が起きた。2014年5月に発生した、AKB48の握手会襲撃事件である。CDリリースに伴う「全国握手会」の現場に一人の男が侵入。とっさに取り出した凶器ののこぎりをメンバー2名、スタッフへ向けて振りかざした。似たような事態が「いつか起きる」と危惧する声も一部からは上がっていたものの、現実に直面するや否や、その安全性についての議論も見受けられた。
この事件を受けてセキュリティが見直され、入り口にて金属探知機が導入されたという報道も記憶に新しい。しかし、より具体的に変化した部分、そしてファンの受け取り方はどうだったのか。某グループの握手会に足繁く通う一人である金田さん(仮名)に、実態を伺ってみた。
襲撃事件の犯人に対して「いい迷惑ですよ」と憤りをみせた金田さん。某グループを2013年8月から追い続けている中で、事件の前後で握手会の仕組み自体が「だいぶ変わりました」と語る。
「会場の入り口からもう厳しくなりました。以前は持っているカバンの中身を形式的に見せるだけで、すんなり入れたんです。事件の後は、持ち物についても細かくチェックされるようになりましたね。例えば、飲み物も警戒されています。係員の人に『その場で飲んで下さい』と言われ、劇物かどうかを確認するためかひとくちかふたくち、口を付けるよう促されます。目に吹き付ければアウトなので、香水やスプレー類もダメです。帽子を被っているなら取って中身を見せなければいけないいし、サイリウムを分解して刃物が入ってないかどうかを調べられたこともあります」
一時期はトイレも使用禁止になっていたと金田さんは語っていた。以前、体液を手につけて握手に挑んだファンがいたという話もあったそうだが、握手会がはじまる前から既に、セキュリティが強化されている様相が伺い知れる。さらに、金田さんの証言はイベント中へと続く。
「以前は会場全体を見渡せる間取りだったんですが、メンバーごとのレーンがはっきりと仕切られるようになりました。メンバーがいて入り口から出口にかけて直線的に机が置かれていて、はがし(握手会の進行をさばくスタッフ)が1人というのが以前の形式でしたが、コの字型に誘導されるようになりました」
以前の握手会の様子を、金田さんの証言によりまとめると、左右の柵も腰くらいの高さで設置されているのみで、隣同士やさらにその先のレーンまで、広く見渡せるかたちだった。しかし、襲撃事件以降にレーンの形式が変化したのはもちろん、警備の数も明らかに変わったという。
「あの事件以降はレーンの入り口で荷物を預かる人、握手券をもらう人、はがしも時間を計測する人と進行する人の2人になりました。特に、人気上位のメンバーについては警備の数も増えた気がしますね。荷物も大きかろうが小さかろうが、手前に置くようになりました。実際に握手するときは、完全に“手ぶら”ということですね。メンバーが立つ机の前にも腰くらいの高さで、プラスチックの柵が設けられるようになりました」
先ほどに続いて、襲撃事件以降の様子はどうか。左右には人の背丈を超える高さの柵が設けられて、さらに、机を挟んでもう一つの柵が設けられたという。メンバーの前にもう一つ柵が増えたことを、Aさんは「距離が離れたようで寂しい気もします」と語っていた。また、イベント自体の進行も変化したと語る。
「握手会と数曲のミニライブが定番だったんですが、しばらく中止されていました。僕らとしては歌ったり踊ったりしている、輝く姿を握手と共に見たかったので残念でしたよ。その代わりにトークイベントや私物へのサイン会があり、友人はメンバーからのサインを幸運にももらえたので喜んでいましたけど(笑)」
握手会とそれに付随するイベント。運営側も襲撃事件を受けて、対応に迫られた様相が伺い知れる。アイドルがもっとも輝き、ファンもそれを望む瞬間。ミニライブはどうやら復活したようだが、襲撃事件から現在までを振り返り、最後に金田さんは感情を吐露していた。
「犯人に対しては怒りをおぼえています。友人とも握手会終わりの飲み屋で『(犯人を名指しで)オレら何もしてないのにふざけんなよ!』とよく話してましたし。手荷物検査だったり、握手会へ行くにもだいぶ面倒臭くなって、僕らにとって何一つメリットがないんですよ。一時期はライブもなくなり、『もう追うの辞めようかな……』とひどく落ち込んでいた友人もいました」
ファンにとっては生きがいであり、一時の幸せを感じられる空間。それこそが握手会の魅力だったのではないか。事件直後は48系列ではないユニットにまで影響が出て、接触系イベントが急遽中止になった事例もあった。ようやく落ち着きを取り戻してきたかのようにもみえるが、メンバーとの間に柵ができたことで『距離が離れた』という金田さんの証言しかり、事件の余波はたしかに残っているようだ。
取材・文=カネコシュウヘイ