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「自分が幸せ」と感じる男性が3割もいない社会。“おぎやはぎ”的生き方にヒントはある

「自分が幸せ」と感じる男性が3割もいない社会。“おぎやはぎ”的生き方にヒントはある

 

昨年6月、政府が男性の幸福度を調査した結果が「男女共同参画白書」で発表された。

そこでは「今、幸せだ」と感じている男性が3割にも満たない(28・1%)という衝撃の事実が明らかにされた。国際比較のデータも発表されており、日本の男性は先進国の中でも幸福度がかなり低いレベルにあるという。

最近はこうした男たちの不安を反映するように、書店に様々な「男らしい生き方」を指南する本が並んでいる。そこで説かれているのは、稼ぐため、出世するため、モテるためのハウツーだ。しかし、そういう本を読めば読むほど、かえって生きづらさは増すばかりで、ついには“男をこじらせて”しまうことになる――。

著述家の著者・湯山玲子氏は、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』でそう警告する。

―日本の男性の幸福度の低さは、何が原因なのでしょうか?

湯山 この本を書くにあたって、今ここに生きている等身大の男性の姿について真剣に考えてみたんです。男性が何を大切にしているのかを、20代から60代まで幅広い年代に聞いて回りました。そこでわかったのは、これだけ社会が変わったのに男性は年配者から若者まで相変わらず「出世・金・女」という旧来的な男の欲望の次が見いだせないという点。それに準ずる競争や負けることの恐怖が寄生植物のように心の奥底まで根を下ろしているので、世の中のレールから外れてしまった時に新しい生き方を見つけられない。これが最近の男性が抱える生きづらさの正体だと思います。

―しかし、これまではその価値観でなんとか生きてこられた。なぜ、今になって苦しんでいるのでしょう?

湯山 世の中が流動的になっているからです。まず終身雇用が崩壊して、出世に邁進(まいしん)していればとりあえず安心という社会ではなくなった。気がつけば自分よりも実力も出世もする女性社員もいて、負ける機会も激増。これまでの男性は何かに所属していることでプライドが保たれていたのに、裸の自分が問われるようになってきたんです。

―本書でも、女にモテモテだった男性がリストラを宣告されて苦悩する話が書かれていますね。

湯山 会社をリストラされたら自信を失ってモテなくなるってところが、今どきの男性をめぐる問題を端的に表しています。基本的に、男性の行動原理は競争に勝つことにある。仕事だけではなく、恋愛においてもそう。これまでにヤッた女の数と質で競い合っていくのは男の常です。

でも今は、女性が社会進出をして、性についても積極的に発言するようになり、男にとっては征服する対象だったのに、今は女が自己主張して自分を幸せにしてくれる男かどうか見極めるようになった。ということは、「女に選ばれない」という最大恐怖に直面しちゃう。また女性にとって、競争に勝つことばかりに執着する男性はまったく魅力的じゃない。その現実を理解せず、失った自信を取り返すために男らしさを追求してしまうと、かえって空回りしてしまう。これが“男をこじらせる”ということなんです。

―う~ん、耳が痛い話です。

湯山 でも、これは若い男性にとっては良い変化だと思うんですよ。というのも、もはや競争に強いからといってモテるとは限らないということは、出世もお金もなくても女性に愛されるコツさえわかっていれば、モテはつかめるということですからね。それを学ぶことができる存在が、芸人のおぎやはぎです。

―確かに、彼らは女性からも人気ですが、男らしさにはまったく興味がなさそうです。

湯山 彼らの魅力はいつも自然体で、意識的に一番になることを避けているところにあります。自分から競争を降りることで、おぎやはぎは独自のポジションを築いてきました。何よりも競争に勝つことが求められる芸人の世界において、この態度はとても異質です。でも私は、そんなふうに仕事の組織や共同体から一定の距離を保っているほうが、今は健全な男の生き方じゃないかと思うんです。

―というと?

湯山 おぎやはぎがモテるのは、その飄々(ひょうひょう)とした芸風が「この世界で失敗しても、人生が損なわれるわけではない」という自信の表れに見えるからです。その自立した雰囲気が大物の先輩芸人たちからも好かれ、どこの派閥に所属することなく仕事の幅を広げることにつながっています。おぎやはぎから学べることは、出世欲が強い人ほど出世できず、むしろそんな欲望とは無縁でいるほうが愛されるという皮肉な現実なんですよねえ。

―そして、女からもモテる。

湯山 そうそう。もはや女性からすると、仕事のプロではなく、出世のプロを目指すような権力欲だけの男の化けの皮はとっく剥(は)がれているんですよ。そのことを象徴していたのが去年の野々村(竜太郎)元議員の「号泣会見」。権力の象徴のような政治ワールドの議員が、幼児同様のメンタリティだったと白日の下にさらした出来事でしたよね(笑)。

―なるほど(笑)。しかしそれって草食系男子になれということですか? 草食系を非難する女性も多いと思いますが。

湯山 女性がいやがる草食系男子というのは、自分を丸ごと肯定してくれる女性じゃないとダメで、受け身のくせに注文が多いタイプのことです。確かに、男性は基本的にマザコンだから、自分を認めてくれる女性でないと本能的に恐怖を覚えてしまうんでしょう。かといって、自分を全肯定しろというのは女を自分の都合のいいように征服したいって白状しているようなものですよ。つまり競争原理に支配されているということで、おぎやはぎ的な生き方の対極にいるわけです。

誤解がないように言うと、私は“男らしい男”が大好きなんですよ。群れずに自分の人生を自分で決定し、自由と冒険、そして友人と恋人を愛す、というね。それなのに調べてみたら、依存する組織や集団を常に求めていて、スッと行動できるおひとりさまにすらなれない。これにガックリきたことが、この本を書くモチベーションになったんです(笑)。

―つまり、この本を広めることで、湯山さんが理想とする男性が世に増えてほしいと。

湯山 そう! だからこの本は男のだらしなさを批判するものじゃない。女が男についてどう考えているかバラした「最強のモテ指南書」なんです。実は!

●湯山玲子(ゆやま・れいこ)
1960年生まれ、東京都出身。著述家。日本大学藝術学部文芸学科非常勤講師。著書に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(角川文庫)、上野千鶴子との共著『快楽上等! 3.11以降を生きる』(幻冬舎)、『文化系女子という生き方』(大和書房)など。日本テレビ『スッキリ!!』のコメンテーター。クラシック音楽を爆音で聴く『爆クラ!』イベントを月一回ペースで主宰

■『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』
KADOKAWA/角川書店 1600円+税
男よりも女のほうが稼ぎが多い場合、初デートの食事代はどうしたらいい? 女に払わせたとしても、「女に払わせるオレ」に屈折しない、新たな男像はあり得るのだろうか? 女の新しいライフスタイルを提案し幅広い支持を得てきた論客が、満を持して現代の男の生き方を問う

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