仕事で役立つ人気ビジネスアプリおすすめ!
[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ソフトバンクショック 孫社長、異例の弱気発言の真相 企業の大型M&Aラッシュの危険
日本企業による海外企業に対する大型M&A(合併・買収)が相次いでいる。企業買収などを仲介しているレフコの調査によると、2014年に日本企業が海外の企業に行ったM&Aは554件と過去最多、買収金額は計5.9兆円に上った。
さらに今年1~3月期はすでに4兆円を突破し、9年ぶりに四半期ベースの最高を更新した。円安の進行で買収コストが増大しているにもかかわらず、海外大型M&Aの勢いは加速している。海外市場に活路を見いだそうとする日本企業の明確な意図が浮き彫りになっている。
●キヤノン
キヤノンは2月10日、監視カメラの世界最大手、スウェーデンのアクシスコミュニケーションズを買収すると発表した。買収額は3300億円で、キヤノンにとって過去最大規模の買収となる。
一眼レフなど個人向けデジタルカメラ市場がスマートフォンに侵食されて縮小するなか、キヤノンは新規事業の一環として法人向けの監視カメラのシェア拡大を図ってきた。IHSテクノロジーの調査によると、13年の監視カメラ市場における世界シェアはアクシスが17.5%で首位。デジカメ世界首位のキヤノンは、今回の買収で監視カメラでもトップに立つことになる。
●近鉄エクスプレス
近鉄エクスプレスは2月17日、シンガポールの物流会社APLロジスティクスを買収すると発表した。買収額は1400億円で、近鉄エクスプレスにとって過去最大の買収だ。
APLは北米やアジアを中心に事業を展開し、売上高は約1800億円。近鉄エクスプレスの売り上げの6割に相当する規模だ。グローバルな市場で戦うには、今の規模ではやっていけないと判断し、大型買収に踏み出した。
●日本郵政
日本郵政は2月18日、豪物流大手トール・ホールディングスを買収すると発表した。買収額は6200億円で、日本郵政グループにとって過去最大の買い物だ。
日本郵政グループ3社は今秋、株式上場を計画している。上場を機に国内中心の事業から一気にグローバル物流企業への転身を図り、トールの買収で国際物流企業として世界第5位に浮上する。
●旭化成
旭化成は2月23日、米ポリポアのバッテリーセパレーター事業を買収すると発表した。買収額は2600億円。旭化成にとっても過去最大の買収案件だ。
買収する事業は、タブレット端末のような携帯電子機器やスマホ向けの小型蓄電池のほか、ハイブリッド車や電気自動車の蓄電池に特化している。経営計画に掲げる環境・エネルギーの領域を強化するのが狙いだ。●日立製作所
日立製作所は2月24日、イタリアの航空・防衛大手フィンメカニカ傘下の鉄道設備、車両事業を買収すると発表した。買収額は2600億円で、日立にとっては過去最大の買収となる。
世界の鉄道メーカーは独シーメンス、仏アルストム、カナダのボンバルディアがビッグ3といわれているが、この買収で日立はビッグ3に挑戦する力を蓄えることになる。
●ブラザー工業
ブラザー工業は3月11日、ロンドン証券取引所に上場する産業用印刷機械大手の英ドミノ・プリンティング・サイエンシズを10億3000万ポンド(約1890億円)で買収すると発表した。ブラザーとしては過去最大の案件となる。主力の家庭用プリンターなどに加え、新興国を中心に需要が期待できる産業向け印刷の分野を強化する。
ドミノは、ペットボトルや食品の包装に賞味期限やロット番号を印字したり、商品のパッケージを印刷する機器を製造している。同社の年商は640億円。ドミノ分を上乗せするとブラザーの売上高は7700億円強となり、「売り上げ1兆円」の目標に一歩近づくことになる。
●莫大な手元資金が海外M&Aの原資
上場企業の手元資金は過去最高水準にある。最近は、円安を背景に工場を国内に回帰させる動きが出ているが、まだ少数だ。円安が進み、買収コストが増しているとはいえ、人口が毎年減少して市場が縮小している日本よりも、成長が期待できる海外に投資する流れが一層強まった。
上場企業の抱える莫大な手元資金が、海外でのM&Aを加速させている。手元資金は3月期決算会社だけで約73兆円、全上場企業で98兆円を超える。業績の拡大に加え、歴史的な低金利が続き、資金調達が容易になっている点も見逃せない。
8400億円の手元資金を持つキヤノンは、監視カメラの最大手、アクシスの買収額を全額自己資金で賄うという。
●海外M&Aのリスクは、のれん代の減損
巨額M&Aにはリスクが伴う。しかし、日本会計基準から国際会計基準(IFRS)への移行が海外のM&Aを後押ししている。M&Aで厄介なのは、のれん代の処理である。のれんとは、企業を買収する際に支払った金額と買収先の企業の純資産の差額をいう。日本基準では20年以内に毎期定期償却する必要があるが、IFRSでは償却は不要だ。
大型M&Aでは、のれん代が大きくなるため、日本基準だと償却費が膨らみ、利益を圧迫する。一方、定期償却しないIFRSでは当然、利益は大きくなる。海外でのM&Aを推進する企業が、こぞってIFRSを採用するようになった理由はここにある。 しかし、IFRSはいいことばかりではない。買収した企業や事業が不振に陥れば、巨額の減損を一気にしなければならず、期間損益が大きく下振れすることになる。
衝撃を与えたのは、1月26日に丸紅が発表した15年3月期決算の減損処理だ。13年7月に2700億円で買収した米穀物準メジャー、ガビロンののれん代の半分に当たる500億円を減損損失として計上することになった。株式市場はガビロンの減損を想定していなかっただけに衝撃は大きく、「丸紅ショック」と呼ばれた。
2月10日、14年3~12月決算の決算説明会に臨んだソフトバンクの孫正義社長は、珍しく弱気な発言を繰り返した。13年7月に1兆8000億円で買収した米3位の携帯電話会社、スプリントの業績が振るわないためだ。
スプリントは14年12月期決算で21億3000万ドル(約2500億円)の減損損失を計上した。会計基準の違いからソフトバンク本体は減損処理をしなかったが、孫社長は「減損計上したつもりで経営を遂行する。(不振を)厳粛に受け止めている」とした。
日本企業による海外企業の大型M&Aで、成功した事例は極めて少ない。今年は海外M&Aが急増しているが、今後、失敗する企業が出る恐れもある。
ちなみに、過去にM&Aに失敗したのは武田薬品工業、ブリヂストン、ソニー、松下電器産業(現パナソニック)、第一三共、三菱地所、キリンホールディングスなど、そうそうたる企業ばかりだ。歴史は繰り返されるのだろうか。
(文=編集部)