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中国主導のアジア投資構想に日米が反発 腐敗増長や「生活の質」犠牲の懸念
麻生太郎財務相は13日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加が「難しい」とする認識を示した。20日には、一定の条件が整えば「協議ということになる可能性はある」と態度を軟化させたが、菅義偉官房長官は同日の記者会見で「参加については慎重な立場だ」との見解を示した。またアメリカのルー財務長官も同様の懸念を見せている一方、イギリス、ドイツ、フランス、フランスはすでにAIIBへの参加を表明している。
今年中に業務が開始されるAIIBについては、米中両国の世界的な金融覇権をめぐる政治的な闘争としてとらえる見方が一般的である。他方で、アジア経済におけるインフラ整備への資金需要は旺盛であり、これに応える国際金融上のスキーム構築は重要な課題になっている。
インフラ整備は各国が経済発展するための前提条件のひとつである。道路、港湾、通信、あるいは医療・教育などの社会資本設備を整えることは、国民の生活向上に貢献することにつながるのは自明だろう。特にアジア全域では、毎年7500億ドルを超えるインフラ需要が存在するといわれている。そのためAIIBの設立は、アジアの新興国を中心に歓迎されているのは事実だ。
●役割分担とガバナンスに懸念
同時にいくつかの懸念が表明されてもいる。麻生財務相の発言はそれらの「懸念」を背景にしたものに違いない。ひとつは、既存の国際金融機関との役割分担が不明なこと。もうひとつはAIIBのガバナンス(統治)に関する懸念である。
世界銀行やアジア開発銀行(ADB)は、AIIBと業務が競合する代表的な国際金融機関だ。金立群・AIIB設立準備委員長のこれまでの発言は、これら既存機関との住み分けが必ずしも明確ではない。AIIBはインフラ整備を中心にした長期資金の提供に専従し、他方で世界銀行やADBは貧困削減に努めるべきだ、というのが公式見解だが、そもそもインフラ整備は、貧困削減、それを通じての国民生活の向上のために役立てられるものである。すなわちインフラ整備と貧困削減を異なる業務目的とするのは根拠に乏しいといえる。
また、AIIB設立がアジア諸国を中心に歓迎されている理由は、その融資までの決定が迅速であることだ。ただし、この長所はまた弱点にもつながりやすい。ADBなどの融資条件が厳しかったのは、例えばインフラ建設にあたって、周辺の環境や住民への影響を考慮に入れてきたこともある。もしAIIBの融資基準が緩和されるならば、このような環境リスクなどへの配慮が十分に行われない懸念があるという声が、先進国を中心に根強い。仮に融資条件の引き下げ競争がAIIBと世銀、ADBの間で生じた場合には、環境や「生活の質」への配慮が犠牲にされる恐れもある。いわゆる「悪貨は良貨を駆逐する」という現象である。
AIIBのガバナンスも常に議論の対象になっている。AIIBの本部を北京に置き、総裁も中国人が想定されている。初代総裁は金立群設立準備委員長であると目されている。またAIIBへの出資比率は、購買力平価で計測した国内総生産(GDP)に基づく。この計算だと中国は参加表明国中最大の出資国となり、またその議決権のシェアは最大50%になる。AIIBは本部に各国の政府代表者を理事のような形式で常駐させることはしない。融資計画の方針は先決されて、一定期間の後にその成否が各国代表によって審査される。世銀やADBのように本部に各国代表が常駐してチェックする体制とは異なる。
このようなAIIBのガバナンスに対して、経済学者の河合正弘東京大学名誉教授は「中国は本部と総裁を手に入れ、さらに半分の資本金で2倍の融資を自らの自由意思で行うことができる」と批判している。先の麻生発言もこのような中国本位へのガバナンスをけん制してのものだろう。
●腐敗を生む懸念も
中国と米国の覇権ゲームという見方は不毛である。問題は、インフラ融資が「悪貨が良貨を駆逐する」ような貸出競争に発展しないことだ。冒頭でアジア地域のインフラ需要の推計値を紹介したが、それをすべて国際機関が担うという認識もまたおかしい。実際にどのくらいのインフラが必要であるのか、より厳密に判断すべきであろう。
日本でも公共事業は利権の温床であり、「腐敗」の根源になりやすい。特にアジアの新興国には政治的な複雑性も加担して、国際的な汚職を生み出しかねないだろう。そのためにもAIIBにおける中国本位の裁量性は抑制されるべきであり、既存の国際金融機関との協調、共通するルール作りに、より積極的になるべきだ。また、ガバナンスに関しては、中国は議決権シェアを引き下げ、日本や米国などが参加しやすい枠組みを提案すべきである。
(文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)