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出光の昭和シェル買収頓挫の舞台裏 販売店の猛反発で白紙撤回、再編を誘導したのは経産省?
石油業界を驚かせた大型の業界再編劇が、破談の危機を迎えている。石油元売り大手の出光興産が昭和シェル石油を買収する方向で調整されていたが、業界関係者によると「協議が難航し、仕切り直しになった」というのだ。
その責任を取るかたちで、再編を主導してきた昭和シェルの香藤繁常会長兼CEOが、3月26日付で退任した。出光と昭和シェルの両社は、今後も協議を続ける方針ではあるが、一方で出光は別の買収先の選定に入っているともいわれる。
両社の買収交渉が表面化したのは昨年末のことだ。日本経済新聞が1面トップで、「出光が昭和シェルを約5000億円で買収する」と報じた。両社は「(買収が)決定した事実はない」と報道を否定したが、一方で「再編に向けて、さまざまな企業と話し合いを続けている」ともコメントを発表し、含みをもたせた。業界関係者が明かす。
「実際には、出光が昭和シェルをTOB(株式公開買い付け)で買収し、業界最大手のJX日鉱日石エネルギーにガソリン販売シェアで肉薄することを目指していました。出光側の買収打診に昭和シェルの香藤氏が応じ、両社のトップ同士はほぼ合意していたのです」
しかし、思わぬところから強硬な反対論が噴出した。
「昭和シェル側の販売店です。出光が提示した買収条件は、昭和シェルのガソリンスタンドはほぼ出光側に吸収されるという内容でした。これに昭和シェルの販売店主たちは激しく反対したというのです。反発は強まる一方で、昭和シェルは収拾がつかなくなりました。このため、香藤氏が退任することで、販売店主たちに対してけじめをつけ、社内の混乱を収めようとしたのです」(同)
両社とも、公式には買収交渉の存在を認めていないため、香藤氏の退任はあくまでも「昭和シェルの若返り」が理由とされている。香藤氏は、自身が退任することによって両社の買収交渉を加速させたいと考えているようだが、前出の関係者は「交渉途中で話し合いの相手が変わるような企業は信頼されない」と冷ややかで、交渉は頓挫したと見ている。
この一連の騒動の陰の主役は、実は経済産業省だ。経産省は国内石油会社の経営規模が小さいことを懸念し、海外でも通用する大手企業誕生のために、業界に対して再編を働きかけていた。そして、それに応じたのが出光というわけだ。業界2位の出光は、これまで業界再編とは無縁だったが、最大手だった旧新日本石油が2010年4月に新日鉱ホールディングスと経営統合してJXホールディングスが発足、同年7月にはJXホールディングス傘下の3社が統合するといった急拡大に危機感を持ち、昭和シェル買収に動いた。
一方、昭和シェル側は親会社のロイヤル・ダッチ・シェルが再編に積極的だったという事情がある。昭和シェルが高く売れれば、保有株の資産価値が上がるからだ。業界筋では「出光・昭和シェルの組み合わせは、ほぼ消えたと見るべきだ。しかし、今後昭和シェルは必ず身売りする」との見方が支配的となっている。
(文=編集部)