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利益を上げるために「なんでもやる」人、変化に必死で抵抗する人~『マッサン』と経営者
皆さんは『マッサン』を観ていますか? そう、NHKの連続テレビ小説のことです。
その第90話(1月17日放送分)で、マッサンこと亀山政春が鴨居商店を辞める時の一場面です。鴨居の大将こと鴨居欣次郎がマッサンに向かって、とても印象的な話をしていました。
「どの道、おまえは科学者や。ウイスキーに対する情熱は認める。そやけどお前にはそれしかない。造ることだけに執着があって、売ること宣伝をすることにはまったく関心がない。経営者いうんは、商品を開発して宣伝して売らなあかん。石にかじりついてでも利益を上げて皆に分配せなあかん。おまえにはできへんやろ? わてはやるで。たとえイミテーションの鴨居といわれたかて、従業員を食わしていくために、メイドインジャパンのウイスキーを広めるためやったら、なんでもやったる。おまえにはできへんやろ」
この欣次郎の語りの中には、本物の経営者が持ち合わせている素養が述べられていると読み取ることができます。欣次郎はサントリー創業者である鳥井信治郎氏がモデルです。彼のように時代を切り開き、今につながる企業をつくり上げた人物というのは、どのような人物だったのでしょうか。このセリフからは、その一端が見てとれます。
(1)「経営者いうんは、商品を開発して宣伝して売らなあかん」
ウイスキーを事業としてやるなら、ウイスキーに関する専門知識は必要でしょう。また、自ら手がける事業に対する情熱も必須です。しかし、それだけでは経営者にはなれません。つくって売って宣伝して、消費者に買ってもらって利益を上げて、株主や従業員に分配する、これら一連の営みが経営者には求められます。つまり、会社のあらゆる機能を結びつけることができなくてはなりません。経営者になるためには、専門知識と情熱だけでは足りないのです。
(2)「たとえイミテーションの鴨居といわれたかて」
世の中、批評家や批判家は多数いて、成功している経営者は嫉妬されることも多いものです。「イミテーションの鴨居」とは随分と失礼な発言ではありませんか。もし上司や顧客からそんなことを言われたら、普通の人なら心が折れてしまうかもしれません。
しかしながら、欣次郎は他人の批判を自らの成長の糧にしています。そうなのです。本物の経営者たるもの、世間の評判やよそ様の批判などには動じません。むしろその批判を受け入れて、成長のエネルギーに変えているのです。
(3)「従業員を食わしていくために、メイドインジャパンのウイスキーを広めるためやったら、なんでもやったる」
この言葉には、とても崇高な決意を感じませんか? 従業員を食わす、という社員に対する使命、メイドインジャパンのウイスキーを広める、という日本や世界に対する使命を感じます。本物の経営者は、腹が据わっている、覚悟が決まっていると言い換えてもよいかもしれません。
エバーノートCEOのフィル・リービンも、起業家を志す真っ当な理由の一つとして「世界を変えたい」という動機があると言っています。成功する経営者というのは、正当な使命を背負う覚悟があるのです。
冒頭の図に示した通り、経営者とは「将来の企業の存立基盤を考え、変化をつくり出し、10年単位の時間軸で戦略を形成できる人物」です。このような経営者には、少なくとも次の3つの素養が備わっているのです。
(1)(専門知識+情熱)+ 結合力
(2)評判・批判に対する達観した態度
(3)使命感と覚悟
●「変化」に対する態度で、経営者の本物度が透けて見える
ご存じのように、鳥井氏は「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」精神を打ち立てた人です。彼は社員に挑戦を促しました。『マッサン』の中でも、「Life is an adventure.(人生とは冒険だ)」というフレーズが何度か出てきます。(マッサンとエリーの養女エマも言ってましたね)
「やってみなはれ」も「adventure」も「変化」を伴います。やってみるためには行動が必要で、自らが成長=変化しなければ挑戦できません。また、挑戦するためには周りの人々の協力も必要で、その結果、組織に影響=変化を及ぼします。その挑戦が社会的に意義あるものとなれば、世界の未来に貢献できるような価値=変化を生み出すかもし
れません。
日本の多くの企業の事業計画書の中には、「変革」や「改革」という言葉が躍っています。そのような「変革」や「改革」に直面したとき、社員の反応や行動は大きく3つに分けられます。
それらは、(1)「変化」をつくり出す人、(2)「変化」に呼応できる人、(3)「変化」に抵抗する人の3種類です。
言うまでもなく、(1)の「変化」をつくり出す人とは、立派な経営者そのものです。『マッサン』の例でいえば、欣次郎や、北海道にやって来て大きく成長したマッサンです。
(2)の「変化」に呼応できる人は、柔軟に考え、変化に対応した行動がとれる人です。企業でいえば、「変革」や「改革」を唱える経営者を支えることができる人物、またその推進者となれるような人物です。
ここで問題となるのは、(3)の「変化」に抵抗する人々です。自分の立場や自分の処遇、自らの人事を最も気にかけるサラリーマンといえるでしょう。彼らの口からは、変化させてはいけない理屈はたくさん出てきますが、変化させるためにどうしたらよいのかという前向きな意見はほとんど出てきません。(本連載第1回『企業はなぜ官僚化・硬直化する?どう診断?組織が社員に否定的発言を強制するメカニズム』に登場する「PNIの法則」を参照)
このように、「変化」に対する3つの反応はシンプルでとてもわかりやすいですから、自らの行動を反省したり、他人の主張を判断したりするときのメジャメント(指標、判断基準)として利用することができるのです。
●経営者のように行動する
いずれにせよ、自分が会社や組織の中でどのようなポジションにあろうとも、経営者としての3つの素養を持ち、経営者のように「変化」に反応することが大事なのはいうまでもありません。まずは、自分が今与えられている職責の中で、大いに経営者のように振る舞うのです。運よく自分の職務権限が広がったのなら、その拡大したテリトリーの中で、経営者のように行動するのです。
トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏は、「トヨタ生産方式の成長の過程は、私自身のトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)内での責任範囲の拡大と合致していた」と語っています。
大野氏が本社の機械工場長の時は、その機械工場の範囲内で機械の配置を変え、多能工化を進め、JIT(ジャストインタイム)への挑戦を始めました。しかしながら、他の工場には手が付けられていません。本社工場の第二製造部長の時には、機械加工と組み立てという第二製造部の職責の範囲内でJITを推し進めました。その後、元町工場長のときには、機械加工、プレスと組み立ての範囲内でJITをやりました。鍛造と鋳造には手が付けられませんでした。ようやく、本社工場長になって、鍛造と鋳造を含めた全社的なJITができるようになったのです。
このような大野氏の取り組みを通して学べることは多いです。トヨタ生産方式の確立という「変化」を成し遂げるためには、10年から20数年という長い道のりがかかります。それでも、自分に与えられたテリトリーの範囲であれ、経営者のような素養をもってして、経営者のように行動することの大切さが伝わってくるのです。
本稿を含めてこれから3回ほど、本連載では会社や組織における個人としてのキャリアの築き方についてお話ししていきます。
(文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント)