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RHYMESTER、レコード会社の移籍・主催レーベル設立の理由を明かす

RHYMESTER、レコード会社の移籍・主催レーベル設立の理由を明かす

 

結成から25年以上。日本のヒップホップ黎明期から活躍しシーンに君臨し続けてきた「キングオブステージ」RHYMESTERが、また新たな一歩を踏み出した。

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昨年末に、レコード会社の移籍と自ら主催する新レーベル「starplayers Records」設立を発表した彼ら。5月10日には初の主催フェス『人間交差点』を開催する。KGDR(ex.キングギドラ)やスチャダラパーなどシーンの重鎮に加え、スガシカオや10-FEETなど他ジャンルの実力派ミュージシャン、PUNPEEやSIMI LABなどが所属するレーベル「SUMMIT」勢など次のヒップホップシーンを担う才能も登場する、バラエティーに富んだラインナップだ。

4月29日には移籍第一弾シングル『人間交差点 / Still Changing』もリリースされる。彼らは一体何を見据えて新しいスタート地点に立ったのか。新曲について、フェスについて、そして現在の音楽シーンについて、語ってもらった。

■僕たちは、ヒップホップシーンのコアな部分と邦楽シーン全般を繋げられる数少ないグループの1つになっているんじゃないかと思うんですよね。(Mummy-D)

―去年はRHYMESTERにとって結成25周年のアニバーサリーでしたが、そこからまったく休むことなく新しい活動の展開が発表されましたね。

Mummy-D:休んでる余裕がないんですよね。どんどん続けていかないと、あっという間に過去の存在になっちゃうから(笑)。

一同:(笑)。

Mummy-D:派手に動いている感じを出したいとは思ってました。そこで、まずはレーベル移籍と主催フェスの開催を年末に発表することになって。

―今回の新レーベル設立は、RHYMESTERにとってどういう新しいスタート地点にしようとイメージしていたのでしょうか?

Mummy-D:まず、ここまでキャリアを重ねてきて、自分たちがなかなか珍しい立ち位置になってきたという実感があって。ヒップホップシーンのコアな部分と邦楽シーン全般を繋げられる数少ないグループの1つになっているんじゃないかと思うんですよね。なので、今のところは自分たちがリリースすることしか決まっていないけれど、僕らにしか紹介できない才能を外側に発信していきたいとは思ってます。

DJ JIN:自分たちだけじゃなく、他のアーティストのためになれたら、ということは考えていますね。

宇多丸:それもヒップホップに限らずですね。もちろん本筋は日本語ラップにあるんだけれど、トータルで僕らのビジョンを示していきたい。それは今回主催するフェスでも同じことです。うちのレーベルからすごく売れる新人が出てきてほしいですね、そしたらお金もらえるし(笑)。

Mummy-D:それで儲かったら、RHYMESTERの活動は停滞してもいいかもしれないね(笑)。

宇多丸:そうそう、もっとスローペースになるかも(笑)。

―ヒップホップと邦楽全般のシーンを繋ぐ珍しい立ち位置に立っているというのは、そこを目指して活動してきた結果なのでしょうか。それとも気付いたらそうなっていた感じ?

Mummy-D:気付いたら、だと思いますね。メンバーそれぞれが持ってる雑多な趣味性をアリにしていったら、こうなった。別に特殊な立ち位置に行こうって話し合ったこともないし。

―雑多な趣味性がアリになったのは、振り返ってどの辺りがターニングポイントでしたか?

Mummy-D:例えば、宇多さん(宇多丸)がアイドル好きを表明するのをアリにしたのは随分と前だけど……あくまでRHYMESTERの音楽性ということで言うなら、2002年に『ウワサの伴奏~And The Band Played On~』というアルバムを出した時かな。『ウワサの真相』(2001年)というアルバムの曲を、いろんなバンドとコラボして再構築したアルバムで、それを作っていく中でヒップホップの外のミュージシャンたちとの共通言語や付き合い方を掴んだんですよね。その時に得た人脈から急速に世界が広がって、それとほぼ同時にロックフェスから声がかかるようになった。今振り返ると、あのアルバムがターニングポイントだった気がします。

宇多丸:外から見たらヒップホップって「ゴリゴリの人たち」というイメージもあるし、俺たち自身もそれまではそう見られていたところがあったんですけど、あのポイントで「オープンな人たちだ」というイメージに変わったんじゃないかな。

―フェスはどういうターニングポイントになりましたか?

DJ JIN:フェスに出るようになるまで、僕らが曲を作る時に想像する現場は夜のクラブだったんですよ。でも、ロックフェスに来ているお客さんをどうロックするかを考えるようになった。

―以前KREVAさんにインタビューさせてもらった時も「RHYMESTERは、夏フェスに出るようになってからその場に対応する曲を用意するようになった」と言っていました。

Mummy-D:クレ(KREVA)がそう言ってたんだ? 俺らの悪口言ってなかった?(笑)

―悪口じゃなかったです(笑)。賢いチームとして、KREVAさんなりに尊敬していると。

宇多丸:そうなんだ。KREVAのRHYMESTER評はあんまり聞かないからね(笑)。

■俺らとしては、ラップやヒップホップにアレルギーがある人にも刺さるものにしようと思ってるから。(宇多丸)

―RHYMESTERは2007年に一度活動休止し、2009年に再開します。その後、スタンスの変化はありましたか?

Mummy-D:休止以降は、もう全然違います。「別グループか?」っていうくらい、自分たちの意識も、曲を作る時の発想も違う。

―一番大きな違いは何でしょう?

Mummy-D:ヒップホップのシーンに守ってもらってないことですね。後ろ盾に甘えてない。ポップミュージック全体の中でいちミュージシャンとして戦わなきゃいけないと思うようになりました。だから歌詞を書く時に選ぶ言葉も全然違います。ヒップホップをわかってる奴らに刺さるようにという発想でリリックを書いていない。シーンの外側の人たちとも対等に戦っていく意識でヒップホップをやらないとダメだと思うようになったことが、一番の違いですね。

宇多丸:もちろんそれ以前も言葉のあり方を心がけてはいたけど、特にシングル曲ではヒップホップ的な言い回しを使わないようにしましたね。もちろんそれを使うかっこよさもあるんだけど、俺らとしてはそもそもラップやヒップホップにアレルギーがある人にも刺さるものにしようと思ってるから。だから、内容にしても構成にしても、OKラインをものすごく厳しいところに設定するようになりました。

―1曲を完成させるために、何度も作り直したり?

宇多丸:1回録ったものがそのまま形になることは絶対にない。「どうかな? 俺が何言おうとしてるかわかる?」って何度も確認しあって、もし「わかりにくい」ということだったら、構成を変えたり、まるごと中身を書き直したりする。日本語のイントネーションがおかしくなってたら、それをちゃんと直したりもするし。そうやって何度もブラッシュアップして研ぎ澄ましていく、というのが今のやり方ですね。

―新曲の“Still Changing”はどのように作っていったのでしょうか?

Mummy-D:移籍第一弾のリードシングルとしてパワーがある曲がなきゃいけないなと思って、まずはトラックメーカーのBACH LOGICに「アッパーでハッピーな感じの曲を作りたい」というオファーをしてたんです。あがってきたトラックを一聴した印象は、俺らにしてはポップで饒舌なもので、ヘタするとイヤなポップ感が出ちゃうかもしれないぞ……と思ったんですけど、みんなに聴かせたらすごく好評で。そして、宇多さんから「活動休止から復活した時は“ONCE AGAIN”って曲を出したけど、今回は再出発でもあるし、“Still Changing”というテーマで歌うのはどうかな」という提案があって、そこから作り始めました。

宇多丸:最初は「難しいかもしれないけど、ちょっと作ってみようか」ってD(Mummy-D)が言ったところからスタートしたよね。そこからいろんな紆余曲折があった。

Mummy-D:今まで作った全ての曲の中で、サビを作るにの一番時間かかったかな。

宇多丸:何種類も作ったしね。あんまりトライしたことがない曲調だったし、テンポも難しい速さだったから。

―この曲はYouTubeですでに公開されていますが、どういう反響が集まってきてますか?

宇多丸:「意外と好評じゃねえか!」って思ってます。ライブでやってもウケるし。最初に自分たちが感じていた危惧はほとんどなかった。

Mummy-D:作っている間は悩み過ぎちゃって、全然自信がなかったし、いまだにいい評判を聞いても「本当~?」って思ってしまう(笑)。でも、これまでも「これ、大丈夫かな?」って最初に思ってた曲の方が結果よかったりするから、これはいい兆しだと思うことにしたんですよね。

■今の時代、フェスが乱立してますからね。俺らはいろんなフェスに呼ばれる方だからわかるんだけど、どういう理念でやってるかがハッキリしてないと、出演者もついてこない。(Mummy-D)

―もう1曲の“人間交差点”は、RHYMESTERが主催するフェスのテーマ曲ということですが、この曲はJINさんがトラックを作ったんですよね。どういうイメージで作ったのでしょう?

DJ JIN:今、アルバム制作をしていて、その中で作ったトラックの1つですね。Mummy-Dから「ミュージシャンの演奏と親和性があって、アガる曲がいいな」という話があって。そこからファンククラシックをモチーフにして、仲のいいファンクバンドのMOUNTAIN MOCHA KILIMANJAROに演奏してもらって、再構築して作っていきました。最近はバンドのプロデュースをすることも多いので、そこで積み重ねてきたノウハウを役に立てることができたと思いますね。

―『人間交差点』というフェスも、いろんなジャンルのアーティストが混ざってますよね。

Mummy-D:今の時代、フェスが乱立してますからね。だから、やるからには理念が大切だと思いました。俺らは逆にいろんなフェスに呼ばれる方だからわかるんだけど、どういう理念でやってるかがハッキリしてないと、出演者もついてこない。だから自分たちがフェスを作るなら、やっぱり自分たちにしか呼べないメンツで、1日全体のグルーヴ感を作らないとダメだと。ジャンルはごちゃ混ぜでカオスだけど、みんなライブが上手い人たちだから、お客さんにもちゃんと楽しんでもらえるだろうと思ってます。

―スガシカオや10-FEET、Mighty Crownのようなそれぞれのシーンの第一人者がいる一方で、若手のヒップホップアクトもいる。そういうジャンルも年代も混成的なフェスにしようというイメージは最初からあったのでしょうか?

Mummy-D:純粋なヒップホップのイベントというのも考えたんだけど、それよりはむしろヒップホップシーンにいる若い子たちに、フェスの場を体験させたいという気持ちが大きくて。それによって、表現がもっと開けたものになってくるはずだと思うんですよね。才能がある子はたくさんいるけど、やっぱりネットとクラブしか表現の場がない子も多いから、フェスの空間に慣れさせたい。バックステージでミュージシャン同士の交流が生まれたら、また新しい音楽の化学反応が起こるはずだし。僕たちもフェスのバックステージでいろんな人とビール飲みながら仲よくなって友達が増えたんですよ(笑)。あの非常に居心地のいい空間を味わせたい。

宇多丸:才能がある若い子たちに、ヒップホップのオーディエンス以外もいるオープンな場所に立ってほしいんですよね。フラットなお客さんに訴えかけるチャンネルになってほしい。

―RHYMESTERと他ジャンルの人気者だけじゃなく、そこに次世代のヒップホップのシーンを担う才能がいることが大事であると。

Mummy-D:まさしくそう。だから、ビッグネームの人には申し訳ないですけど、力を貸してもらうくらいの気持ちでいるというか。

■アイドル音楽のシーンは、実は昔の日本語ラップシーンに近いってみんな言ってるんですよ。(宇多丸)

―『人間交差点』をきっかけに、ヒップホップと他ジャンルとの新たなコラボが生まれる期待もありますか?

Mummy-D:海外だとミュージシャンとラッパーが有機的に絡んで新しい音楽を作ったりしてますからね。それに比べると、日本ではそういう融合がイマイチ進んでいない。でも、若い世代のロックのミュージシャンには日本語ラップを聴いてる人がたくさんいるんですよね。

宇多丸:例えば、OKAMOTO’SはPUNPEEやOTOGIBANASHI’Sと仲がよかったりするし。

Mummy-D:そういう繋がりがどんどんできる場所を与えたいという気持ちはありますね。

―確かに今の日本の音楽シーンにおいて、ヒップホップの側からそういう場を作ることができるのはRHYMESTERくらいかもしれないですね。

Mummy-D:そこは俺らが責任感を感じたところなんですよ。だからやっていかないといけないと思いますね。

―海外ではヒップホップと他の音楽ジャンルが融合して新しい音楽が生まれているということですが、例えば海外のどういったあたりが刺激になりますか?

Mummy-D:例えば、ロバート・グラスパー(アメリカ出身のピアニスト・作編曲家。ジャズ、ヒップホップ、R&B、ロックなどのあらゆる要素を取り入れたスタイルで高い評価を得ている)の周辺は、ジャズがヒップホップを通過することによって面白いものが生まれていたりしますよね。FLYING LOTUSにもラッパーが参加しているし、THE ROOTS(アメリカのヒップホップグループ)もエルビス・コステロと一緒にやっていたりする。そういうジャンルをクロスオーバーした出会いがあれば、日本の音楽ももっと面白くなるんじゃないかって希望がある。

―宇多丸さんはどうですか?

宇多丸:海外を見ていて憧れるのは、ヒップホップのリテラシーが当たり前にあることですよね。でも一方で、日本はラップへのアレルギーがまだまだ強い。だから、そこから整備しなきゃというか、「ちょっと目を離すとこれか!(笑)」みたいな状況があるから。

―宇多丸さんはアイドルシーンについてもずっと語ってきましたが、そういうシーンも含めて今の日本の音楽カルチャーが世界的にも特殊だという実感はあるんじゃないでしょうか。

宇多丸:世界と比べて本質的に特殊かどうかはわからないけど……特にアイドル音楽のシーンは、実は昔の日本語ラップシーンに近いってみんな言ってるんですよ。というのは、CDを出すことのハードルが異様に下がっていて、全国各地で群雄割拠の状態になっているから。しかも最初はアマチュアレベルだったのが今はどんどん独自進化している。シーンが爛熟期になっていて普通のものじゃ通用しなくなってるから、音楽的にもムチャクチャなことになっているのが面白いですよね。今のアイドルソングって、めちゃくちゃ情報量多いじゃないですか。ネット世代の発想で作ってる音楽だと思う。

―今の日本は海外のヒップホップとの距離ができてしまっているとも思いますか?

宇多丸:いや、そうでもないかな。今は日本でもサンプリング感覚、マッシュアップの感覚は普通になっていると思います。アイドルソングにも普通にラップが入っていますしね。ヒップホップ的なルールへのリテラシーがないだけで、発想はみんなヒップホップだと思う。特に今の若いクリエイターは、フラットにいろんな音楽を聴いてると思うし、本当の意味で「何でもアリ」が実現しつつある気がします。

Mummy-D:わかりやすい象徴で言えば、ファレル・ウィリアムスだよね。誰よりもエグいヒップホップを作れる人が“HAPPY”みたいな曲を作っちゃって、それが日本でも大ヒットしてる。

宇多丸:風通しはどんどんよくなってると思いますよ。これまでの音楽のあり方じゃ刺激が足りない世代がいっぱいいるということだと思う。

■「音楽が売れない」みたいな業界の悲観って、本当にアホらしいと思うんですよ。(宇多丸)

―海外と日本を見回した上で、RHYMESTERとしても若い世代をフックアップしていこうとしているわけですね。もっと広く捉えた上で、「音楽シーンがもっとこうなればいいのに」という思いはありますか?

Mummy-D:それはありますよ。CDが売れないとか言われて久しいんだけど、やっぱり音楽が持ってる力はいまだに全然衰えてないと思うから。そこに希望を感じたい。いろんなエンターテイメントがあるけど、音楽はやっぱりすごく面白いんだってまだまだ伝えられると思うんですよね。

宇多丸:「音楽が売れない」みたいな業界の悲観って、本当にアホらしいと思うんですよ。だって、基本的にパッケージメディアって、常に過渡期だったわけだから。「これでよし!」ってなった瞬間なんて一度もない。その一方で変わらないのがライブだった。

―そこでRHYMESTERはライブという現場を大事にしてきたことが強みになっている。

Mummy-D:そう。ライブバンドであるというところは、やっぱり捨てられないところですね。

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