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マイホーム 高齢化する街

 マイホーム 高齢化する街

 

大規模宅地 再生策手探り

 

  • 一戸建てが立ち並ぶ横浜市栄区庄戸地区、中央に閉校した庄戸中などが見える(3月22日、読売ヘリから)=鷹見安浩撮影
  •   人口が減り続ける時代、社会保障の土台となる私たちの住まいはどうなるのか。新シリーズは、かつて日本中が憧れた夢のマイホームの舞台から始めたい。(大広悠子)

      三浦半島のつけ根にある横浜市栄区の庄戸(しょうど)地区。1300戸の一戸建てが整然と並ぶ、坂の多い街だ。

      その一角に、吉田敏生(としお)さん(77)が妻(74)と暮らす家がある。2階建て、敷地80坪(264平方メートル)。よく手入れされた庭に梅やレモンの木が並び、晴れると富士山がきれいに見える。

      全国を飛び回ったバリバリの電通マンが念願の一戸建てを手に入れたのは1977年。40歳の時だ。

      東京・練馬育ちの吉田さんは、大阪から東京の本社への復帰を機に、よりよい住環境を求めて購入を決めた。「隣近所も働き盛りの同世代。街は熱気に満ちていた」。片道1時間半の通勤も苦にならなかった。

      長女が中学3年の時、人口増で市立庄戸中学校が開校。子ども2人の成長とともに街は発展し、やがて、縮小に転じた。近所のスーパーが2002年に撤退。今年3月には庄戸中も閉校した。最盛期に1000人を超えた生徒が、183人に減ったためだった。

      長女(48)は今、家族と海外で暮らす。長男(45)も所帯を持ち、市内のマンションに住む。20年で約3000万円のローンを完済したが、子どもたちに同居を持ちかけたことはない。

      「私も親の家を出てマイホームを手に入れた世代。今さら子どもたちに帰って来いとは言えないよ」

      吉田さんと同じ並びの14軒のうち、子どもの世代が戻った家は1軒のみで、多くは年金生活という。妻や夫を亡くした独居世帯も増えている。庄戸地区の高齢化率は47・3%。全国平均(25%)の約2倍だ。

      吉田さんは退職後、積極的に地域にかかわった。空き家を活用した交流の場づくりや、地域を走るバス路線の開設にも尽力した。「ここをついの住み家にするため、もう一度街づくりが必要。以前とは違った形で構わないので、住民が立ち上がらないと」と言う。

     

      隣の金沢区富岡地区は55年から大規模開発が始まり、市南部の住宅地では最も古い。初期に移り住んだ住民は80歳超。高齢化のピークを越えた末に、住民の入れ替わりが始まり、街の様相も変わりつつある。

      近藤安弘さん(83)も、住み慣れた一戸建てを売るのか、住み続けるべきなのか、妻の幸子さん(79)と話し合っている。隣家は夫に先立たれた女性の独居だったが、昨年、逗子市の老人マンションに引っ越した。その跡には、若夫婦向きの小ぶりな家が2棟建った。

    •   近藤さんの一人息子(49)は、「職場に近い」と川崎のマンションに家族4人で暮らす。「子どもに介護してもらう時代ではないし、公的介護頼みも不安。だから転居を考えてしまう」と夫婦は言う。

        100坪、築40年の2階建て。路線価で算定すると土地の価値は4600万円前後になる。海のそばの有料老人ホームを10軒以上も見て回ったが、今の暮らしに未練は残る。

        「庭付きの家はサラリーマンの夢だったんだ」。家を買った68年当時を振り返る。京浜急行が初めて大規模開発した宅地の人気はすさまじく、現地の売り出し所には受け付け前から1000人以上が詰めかけた。大手食品会社に勤めていた近藤さんも学生アルバイトを雇い、数日前から徹夜で並んでもらった。

        幸子さんは最近、力のいる家事がおっくうになってきた。「窓ふきとか、ちょっと誰かに手伝ってもらえたら助かるんですけどねえ」と、ため息をついた。

       

        東京や大阪では50年代半ばに大規模な宅地開発が始まり、造成に適した丘陵地を抱える横浜市は、首都圏の先頭を切って住宅地が拡大。73年までの10年間で毎年7万~11万人ずつ人口が増えた。その流れは東京西部や埼玉、千葉へと広がった。高齢化と将来の人口減への対応を真っ先に迫られるのも、やはり横浜だ。

        同市は昨年、郊外住宅地の再生を4か年計画に初めて盛り込み、吉田さんが住む庄戸も対象に含まれた。現状、栄区が打ち出したのは、住民向け講演会や意見交換会にとどまる。担当者は「高齢化が進む地域で、どんな対策を講じるべきか。前例がなく、われわれも住民も手探り状態」と話す。

      ◇◇◇

       

      住宅保障どうあるべきか

       

        住まいがかつてなく揺らいでいる時代だ。

        人口と経済が右肩上がりだった頃の日本では、年間100万戸を超える住宅建設が40年間も続いた。人々は地方から都市部に流入し、郊外のベッドタウンは膨張の一途をたどった。景気対策にもなるからと、政府は盛んに家の購入を奨励した。

        2013年の統計によると、全住宅(約6000万戸)のうち持ち家は62%、民間賃貸が28%。公営住宅は4%しかない。持ち家率は、地価の高い首都圏に限ってみても56%に達する。住宅政策に詳しい平山洋介・神戸大教授は「いわば『私物』で街が埋め尽くされた状態。社会不安のセーフティーネットとして使える住宅資源が乏しい」と言う。

        その街並みを、高齢化と人口減少の波がのみ込もうとしている。ニュータウンが次々とオールドタウン化し、空き家が増加。家族のサイズも随分小さくなって、一軒家よりマンションに人気が集まる。

        今も昔も、家は単なる雨風をしのぐ空間ではない。「福祉は住宅に始まり住宅に終わる」という言葉があるように、健康的な生活の基盤そのものでもある。

        息子や娘が家を出ていった後、親の世代はどう暮らし、老いていくか。年金の少ない単身高齢者、ネットカフェやシェアハウスを転々とする非正規の若者に、必要な住環境は行き渡っているか。これからの「住宅保障」はいかにあるべきか。連載を通じて読者とともに考えたい。(高倉正樹)

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