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路上でキーマンを口説き落とした運と行動力 -佐賀県武雄市長 樋渡啓祐
「いい提案が上がってこない」と嘆くよりも、自分で考えよう。自らがアイデアを出し、会社を引っ張っている社長たちをご紹介する。
■来館者3倍増の超人気図書館
佐賀県武雄市。古い温泉街を抱える人口5万人ほどの小さな町が「TSUTAYA図書館」で全国的な注目を集めている。市立図書館を大改装し、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に運営を業務委託しているのだ。
現地を訪れると、民家もまばらな街道沿いに都会的な建物が現れた。入り口をくぐると、2階の壁全面に並べられている蔵書にまず圧倒される。蔵書数は約20万冊。なんと9割が開架式だ。自由に手に取り、図書館内に併設されているスターバックスでコーヒーを飲みながら読むこともできる。
同じく館内にある「蔦屋書店」では、書籍や雑誌も数多く販売。書店の棚と図書館の棚とが境目なく続いているのが特徴的だ。もちろん、DVDや音楽CDのレンタルも行っている。
この図書館、年中無休で開館時間は9時から21時。当然ながら市民に人気を博し、来館者数はリニューアル前の約3倍で推移している。他の市町村からの視察は後を絶たず、観光客らしい人々も本探しと読書を楽しんでいた。
仕掛け人は総務省出身の樋渡啓祐市長だ。2006年に武雄市長選に当選して以来、市民病院の民営化、人気ドラマのロケ誘致、特産品のネット通販などの企画を連発。賛否両論を受けながら2期目の市政を担う人物である。
インタビュー当日に発売された「iPhone5s」を愛おしそうに操作しながら登場した樋渡氏に、あえて疑問をぶつけた。確かに素晴らしい図書館だが、武雄市職員の力だけで実現することはできなかったのか、と。
「いや、私たちにそんな能力はありません。もしあったらとっくに(リニューアルを)実現していますよ。公務員は企画が不得手。ただし、実現能力はすごく高い。企画に優れたCCCと組むことで無双になるのです」
つまり官と民との境界を取り払い、分担ではなく融合することで「いいもの」ができる、と樋渡氏は言うのだ。
「iPhoneを見てください。電話、デジカメ、PCなど機能の境目はわかりませんよね。すべてが溶け合っているうえ、デザインも美しい。同じようにやったら必ず流行ると思いませんか」
自分には企画力はなく、単なる新しもの好きの普通の人だと語る樋渡市長。CCCへの委託を思いついたきっかけも、テレビ番組『カンブリア宮殿』で、開店したての代官山蔦屋書店(東京)を見て感動したことだった。…