＜イラン＞経済制裁の打撃深刻 原油急落が追い打ち

　

　【ロンドン坂井隆之、ローザンヌ（スイス）田中龍士】スイスで行われているイランの核開発を巡る国連安保理常任理事国（米英仏中露）にドイツを加えた６カ国との協議で、イランは経済制裁の早期解除を最重要課題に掲げる。制裁で経済の柱の原油輸出が急減する中、国際原油価格の急落が財政を圧迫。脱石油依存の構造改革を進めるが、生活改善を求める国民と核交渉で妥協を許さない保守強硬派との間で、ロウハニ大統領は困難なかじ取りを強いられている。
　
　　「われわれは、制裁に抵抗し、敵（欧米）の目的をくじくことができる」。イランの最高指導者ハメネイ師は２月中旬の演説で、制裁に屈しない「抵抗経済」の徹底を国民に呼びかけた。
　
　　２０１２年に強化された米欧の経済制裁は、イランとの石油取引に関わった自国企業だけでなく、他国企業も米国内の金融取引から締め出す徹底した内容で、イランの原油輸出量は制裁前からほぼ半減。１２〜１３年の国内総生産（ＧＤＰ）もマイナス成長に転落した。１３年の核協議の暫定合意で制裁が一部緩和され、１４〜１５年は小幅な成長を見込むが「本格的回復は包括合意による制裁解除後にならないと難しい」（国際通貨基金）見通しだ。
　
　　状況打開のため、ロウハニ政権は石油に依存しない構造改革を進める。食料品など原油以外の輸出額は過去１年で約１・５倍に拡大。徴税強化で１５年度の税収を約２割増やすことで、制裁前に政府歳入の５割を超えていた原油輸出収入への依存度は１５年度は２５％程度まで低下する見込み。
　
　　原油価格が昨年６月からほぼ半値に急落しても「現時点で核交渉の姿勢に影響を与えるほど切迫した状況ではない」（英資源アナリスト）。また、１３年８月のロウハニ大統領就任時に４０％を超えたインフレ率も１５％前後まで緩和。テヘランのアラメタバタバイ大のモハンマゴリ・ユセフィ教授（経済学）は「インフレ懸念が緩和し、関係改善を進める欧米との輸出入増への期待感が高まっている」とみる。
　
　　ただ、原油収入減少分を課税強化や補助金削減などの「緊縮策」で穴埋めする状況が長期化すると国民生活には負担となるほか、これまで特権的に課税を逃れていた層からの反発も予想される。英資源調査会社ＦＧＥは「低下したとはいえ物価上昇と物資不足は国民生活を圧迫しており、政権への支持を維持するためにも核交渉を急ぐ必要がある」と指摘する。