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ちょっとシュールに「猫街鉄道放浪記」 (25) 在日米軍田浦引き込み線の巻
この間、知り合いの結婚式に出たあと、某駅の階段から転げ落ちた。ちょっとアルコールが入っていて、両手に荷物を持っていたのが悪かったのだろう。頭では前に足を出そうと考えているのだが、足が前には運ばない。ついには前のめりになり、顔面からコンクリートの階段に落下した。気がつくと、鮮血がたらたらと出ていた……。
手当てをしてくださった駅員さん、ありがとうございます。この場をお借りしてお礼を申し上げます。1週間以上経った今日、足はまだ腫れている。実は、また旅に行こうと指定券をとっていたのだが、断念するしかない。しかし、原稿は落とせない。というのは、この間、担当編集者のこわい夢を見たからだ。こんな夢である。
――ある日、編集部のコピー機の前で、編集者3人ととりとめもない話をしていた。すると突然、奥の方からツカツカと件の担当女性編集者が歩いてきて、「原稿! 原稿!!」と叫びながら、ドンッと机の上に飛び乗った。そして、「締め切り! 締め切り!!」と両手を万歳風に上げながら、ドンドンッとブーツで飛び跳ねている。唖然とした私は、「堪忍してください。原稿今から書きますから」と懇願したのだった。
こんな夢を見るのも、おそらくYouTubeでMylene Farmer(ミレーヌ・ファルメール)の「Desenchantee(幻滅)」(暇な人は検索してほしい。イメージビデオの方)なんて見ていたせいだろうが、これでは原稿を落とせるはずがない(……と文字を埋めているが、いま、原稿締め切りをすでに5時間ほどすぎている)。
階段から転げ落ちる日、記憶メディアに残っていた映像。旧東京都港湾局専用線の春海橋に隣接する鉄橋(豊洲近辺)。この写真を撮った2時間半後、私は階段から転げ落ちた
廃線めぐりは、退廃的な愉しみ
Mylene Farmerは、そのゴシック的(=ゴス)、あるいは退廃的ともいうべき歌い方で、特にフランス語圏においては絶大的な人気を博する女性歌手である。ところで、廃線めぐり、あるいは廃墟めぐりも、ある意味ゴシック的な要素を含んでいる。高原英理氏が、その著書『ゴシックハート』(講談社)で、ゴシックのスピリットを「光より闇が気になる、正統より異端、……反時代」と書き、ゴシックの特徴的なものとして「廃墟と終末」という章を立てているのも、うなづける。最近、廃墟や専用線の話もするのも、「懐かしい」という陳腐な言葉で消化するのではなく、現在の「希望のない感じ」が、心の琴線に触れるからである。ま、異端なのである。
今回も、そんな専用線(休止線)の話を続けよう。神奈川県、横須賀市の田浦駅から出ている在日米軍田浦専用線(相模運輸倉庫専用線)である。訪れたのは、2008年10月中旬であった。
またまた米軍のはなし
「また米軍の話かよ」という方も多いかもしれないが、いまだ横浜・横須賀地域には米軍施設が残っており、その施設に引き込む専用線も残っているからこの話をする。もっとも米軍施設は、旧日本軍の施設をそのまま使用している場合が多いため、施設内に連なる線路も、もともとは旧日本軍関連のものということが多い。前回の「厚木基地に続く謎の専用線」も、実は戦前の海軍時代から使われている。
田浦駅はホームが短く、横須賀・久里浜方面の電車は1両目がトンネルの中にすっぽりと入っている
田浦駅は、横須賀線、東逗子駅と横須賀駅との間にあり、両方をトンネルに挟まれた駅である。近くには、米軍や海上自衛隊の施設が多い。実は、この駅を訪れたのは初めてではない。12年ほど前、掃海艇「はちじょう」の取材でこの田浦駅に降り立ったことがある。その時と今とではほとんど変化が感じられない。おそらく、自衛隊関係の施設があるため、大規模な開発ができなかったからだろう。
田浦駅の海側の改札口(北口)を出て、通りを右側に歩いていく。12年ほど前は、線路がはっきりと残っていたように記憶している。今回訪れたところ、12年前に比べて短縮されたものの、線路は歩道の脇に埋められつつ残っていた。ビュンビュン飛ばすトラックにはねられないように注意しながら、専用線をたどっていく。ほとんど舗道に埋もれているという状態で、廃線状態である。しばらくたどっていくと、横須賀港湾合同庁舎の前で、線路が合流した。
田浦駅の跨線橋から横須賀方面を見る。一番左のトンネルが専用線用であるが、すでに線路が撤去されているようだ
田浦駅北口
舗道に埋もれた専用線の線路。この様子では使われていないのだろう
線路をどんどんたどっていく
「警告 米国政府使用施設 軌道敷内立入禁止」
合同庁舎前からは、線路が残っている。しかし、軌道脇になにやら物騒な看板がある。「WARNING NO TRESPASSING ON RAILROAD TRACKS <警告 米国政府使用施設 軌道敷内立入禁止>」という赤字の看板だ。
「警告 米国政府使用施設 軌道敷内立入禁止」の看板
ということは、この軌道に入ったら……。ここの線路は米国のものなのか??? 一瞬どぎまぎしたが、軌道に入らずに道路を歩いてその模様を探索することにした。専用線は、道路沿いにひかれており、長らく使われていない状態である。しばらくいくと、小川にぶつかる。ここには大正時代に造られたといわれる小さなガーター橋が残っている。枕木は腐っているようだ。先を急ごう。枕木の上に犬釘が出ているのを発見した。
歴史のある橋のようだ
犬釘散乱している!
趣きのある倉庫街の横を線路が続く
そのままさらに歩いていくと、田浦駅方面からつながっている専用線と交差する。ここは、直角に線路が十字に交差している「クロスポイント」と呼ばれる、マニアでは有名なところだ。クロスポイントは2基あって、またもや米国政府使用施設の警告看板がにょきにょき建っている。専用線はトンネルの手前で消えていった。
ところで、今回は古いクラシックカメラを連れていった。チェコスロバキア製の二眼レフカメラ、「Flexaret II」(フレクサレット II)である。廃墟に、クラシックカメラの二眼。ますます「光より闇が気になる、正統より異端、……反時代」度は増しているようだ。
クロスポイント。直角に線路が交差するなんておもしろい
もう一基のクロスポイント。ここにも警告看板が!
田浦駅方面につづく線路。往時が忍ばれる
トンネルの前で線路は消える。トンネルの向こうには海上自衛隊の施設がある
「Flexaret II」。1950年代に作られた二眼レフ。意外に被写界深度が浅いのでピント合わせがむずかしい
クロスポイントと自転車で走る住民。Flexaret IIで撮影。F11、1/25秒。被写界深度は浅いなあ
クロスポイントの近くの箱崎踏切。Flexaret IIで撮影。F11、1/25秒
Flexaret IIで撮影し、プリントをパソコンに取り込んで、ダブルトーンにしてみた