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日本の「端」を巡る旅 (20) 青ヶ島(1)–伊豆諸島南端に浮かぶ絶海の孤島

日本の「端」を巡る旅 (20) 青ヶ島(1)--伊豆諸島南端に浮かぶ絶海の孤島 青ヶ島ってどこにある?

 「青ヶ島に行きたい」……小学校の頃から、ひとつのささやかな夢として抱いていた思いだった。その後、行きたいという淡い思いはずっと持ち続けつつも、どこかへ旅に出ようというときは頭の中からぽっかり抜け落ちていて、40歳の声を間近に聞くことになったこの年まで、ついぞ訪れることがなかった。そしてようやく、訪れることができた。東京の南方約360kmの海に浮かぶ、その島へ。

 青ヶ島と聞いてピンとくる人も、おそらくそれほどはいないのではないかと思う。事実、「青ヶ島に行ってきました」と知り合いや仕事関係の人たちに言っても、ほとんどは「それ、どこにあるの?」という反応を示した。

 そうした会話の多くは、北海道や沖縄ではなく、東京で交わされたものである。そして青ヶ島は、行政上、東京都に属する島である。東京都青ヶ島村。人口は2008年4月1日時点で男109、女72の合計181人。地方自治体として、日本でいちばん人口が少ないのがこの青ヶ島村である。

 ここ数十年という長い間、人口は200人の大台を超えたり割ったりの状態を続けている。こうした離島でありがちなように、この島でも高齢者が多数を占めているのかといえば、実はこれが違う。平均年齢は30代後半だというから、世代構成だけで見るならけっこう若々しい島だ。ただ、その多くは役所や建設会社などに関わる島外出身の人であるという。やはり離島事情は一筋縄にはいかない。

 青ヶ島の全景。伊豆諸島の有人島では最南端に位置している。周囲約9kmで、面積は5.98平方km。人が住む島でもっとも近いのが、70kmほど北に浮かぶ八丈島である

 地図を見てほしい。伊豆大島から南へ連なる伊豆諸島の南の端、絶海の孤島の名にふさわしいその位置に、青ヶ島はある。たしかに、”日本の端”というテーマにおいては通常扱われることがない島である。しかし、その東に、もはや日本の領土はない。

 黒潮の強烈な流れの只中に突き出た火山島であるこの島は、周りを断崖絶壁に囲まれている。その高さは、低いところでも50m前後、高いところでは200mにも達するという、文字どおりの絶壁だ。

 その断崖絶壁のゆえ、船での容易なアプローチを拒絶するかのような島の顔。これほどに”端っこ”感を漂わせている土地も、なかなかないだろう。伊豆諸島の南端などという生易しいものではなく、この島は文句なしに、日本の端のひとつである。

青ヶ島へのアクセスは船とヘリだが……

 青ヶ島訪問を具体的な計画として考え始めると、まずぶつかるのがアクセスの問題だ。青ヶ島に渡る公共交通機関は連絡船とヘリコプターの2つ。ヘリ、船ともに東京からの直行便はなく、出発基地は八丈島。ヘリが毎日1往復、船も日曜を除く毎日1往復のみとなっている。

 船とヘリ。価格優先で考えたら、まず船の利用が頭に浮かぶことだろう。実際、ヘリでは片道1万円以上かかるのに対し、船なら3,000円程度で済む(昨今の燃料高により料金変動はあるが)。

 ただし……である。八丈島と青ヶ島の間は、黒潮がハイスピードで流れる外海。波は基本的にいつでも高く、風も強く、当然のこと船は欠航が多い。よく言われる数字は「就航率6割前後」。つまり、4割程度は欠航するというわけで、欠航しようが何をしようがのんびり待っていられる身分ならともかく、ある程度短期間で行こうと思えばやはり船はチョイスしづらい。この「4割程度」という欠航率は一年間おしなべてのものであるから、冬場の数値も含まれるわけで、海が比較的穏やかな夏場であればそこまで高いわけでもないだろう。しかし、時間優先の見方をするなら所要時間も問題になる。連絡船「還住丸」は八丈島から青ヶ島まで2時間半ほどかかる。一方のヘリでは、わずかに20分。時間に制約のある旅の場合、この差も実に大きい。

 八丈島と青ヶ島を片道2時間半程度で結ぶ、伊豆諸島開発の連絡船「還住丸」。写真は集落近くから望遠で撮ったものだが……集落から海は、このようにかなり高い位置から見下ろすことになる

 ともあれそういう事情があって、船が選びにくいとあれば、必然的にヘリが最有力の選択肢となる。八丈島と青ヶ島を結ぶヘリは東邦航空という会社が運航する「東京愛らんどシャトル」で、こちらは就航率が9割程度と、嵐などでなければまあ飛ぶ確率が高い。問題は、定員が9名しかないので、島民や島で仕事をする人がよく利用することから、満席となるケースもけっこう多いということ。だから、青ヶ島へ行こうと考えるなら、日程が決まった時点で予約をしておいたほうがまあ安心だろうと思う。

 というわけで、今回の旅で僕がチョイスしたのもヘリコプター。季節はいまからだとちょっと前で、夏の初め頃の話だ。羽田発八丈島行きの朝一便で八丈島空港に到着。そのまま空港でしばし待機し、午前9時20分発のヘリに乗り込んだ。客は自分と同行者と、ほかにどう見ても仕事で行くという作業服姿の某電力会社社員。以上3名のみ。

 八丈島空港の片隅にひっそりたたずむ東京愛らんどシャトルのカウンター。東京愛らんどシャトルは八丈島 – 青ヶ島だけでなく、御蔵島、利島といった伊豆諸島の小さな離島と大島、八丈島、三宅島を結ぶルートも運航している

 滑走路上に駐機するヘリに乗り込むと、ほどなくしてふわっと離陸。僕にとってヘリは2度目だが、セスナなどの小型機ともまた違った乗り心地が新鮮である

 この日、羽田から八丈島に着くまでは薄曇の天候。それが、ヘリが出発する頃になって、パラ、パラっと落ちてきた。窓に雨が当たる中、およそ70km南方の青ヶ島に向けて、グルングルンバリバリバリという轟音を響かせながらヘリは飛んでいった。

 前述のように、八丈島 – 青ヶ島は所要時間およそ20分。八丈島を飛び立って以降、天候の問題もあり、窓からはしばらく海面しか望むことができなかった。いよいよ青ヶ島に到着するという頃合、突如として雲の向こうに青ヶ島の島影がもやっと姿を現した。最初は幻のようにも見えたその島影、すぐそばまで近づくと、思わずはっと息を呑む。

 ここはまぎれもなく、海に浮かぶ島だ。にもかかわらず、海岸には人が住める土地がいっさいない。海からまっすぐ空に向け、ヘリで飛んでいるわれわれの目の前に、壮大な断崖絶壁が屹立している。外からやってくるものを拒むような、静かな、しかし激しい顔だ。

 この日、空はもやがかっていたため、視界がよくなかった。青ヶ島に近づくと、突然、もやの向こうに黒い島影が現れた。近づくにつれ、断崖に囲まれた島の姿が目に胸に飛び込んでくる

 海からはるかに高く、山の頂に張り付くような集落の姿が見えてくる。島全体が海から突き出た火山島の二重カルデラの頂上部分にあたり、集落は外輪山の外側に位置している

 島の北側にあるヘリポートに到着。ヘリの向こうに金毘羅神社の屋根が見える。いうまでもなくこの写真は僕が着陸した瞬間ではなく、降りてから、八丈島に向け飛び立つところを撮ったもの

 ヘリからの荷物下ろしを手伝うお巡りさん。ここは東京都であるからして、警察官も当然、警視庁の人である。右の写真はヘリポートに建つオフィス。出発時のチェックインも荷物&身体検査もこの中で行う

 島には現在、5、6軒の民宿がある。ちょっとした食べ物を買える小さな商店2軒と、夜になると営業する居酒屋みたいなものはあるけれど、いわゆる食堂はないから、基本的にどの宿も3食付き。今回泊まったのは民宿「アジサイ荘」というところで、こうした離島の例に漏れず、ヘリで到着すると宿の人が車で迎えにきた。ちなみに車は、品川ナンバー。ここはやっぱり東京都である。

 島の北海岸、集落に近い神子ノ浦の断崖。何度もいうように周囲は絶壁なので、島では(港を除き)どこから見ても海が遠い。ただし、はるか眼下の海岸の水は、この高さから見下ろしても底が透き通るほどに美しい

 集落の中も起伏ばかり。平らな道などほとんどない。バスもタクシーもない。レンタカーは1軒あるらしいが、宿の人に頼めば観光スポットなどへの送り迎えをしてくれるし、宿によっては車を貸してくれるところもある

 ヘリポートからアジサイ荘へ向かう道には郵便局あり(写真中央左の白い建物)、居酒屋あり(看板などは出ていないが)、商店ありで、たぶんこの島のメインストリートのひとつだと思う

 (左)青ヶ島郵便局のスタンプ。上に二重カルデラ、下に船が着く三宝港とカルデラ内部に群生地があるオオタニワタリが描かれている(上)小中学校や村役場の近くに島で唯一の信号がある。車の通行はほとんどないので、子どもたちの交通教育のために設けられているという側面が強いのは、他の離島と同様のこと

 人口200人程度の、日本でもっとも人口が少ない自治体・青ヶ島村。郵便番号は千代田区と同じ「100」で始まり、住所地としては島全体が「東京都青ヶ島村無番地」。村役場の前には「伊豆諸島東京都移管百年記念碑」が置かれている

 今回お世話になった民宿「アジサイ荘」。写真は新しく建てられた新館で、内部は食堂も部屋もとてもキレイ。隣に、風情のある(という言い方でいいだろうか)旧館があり、人数が多い場合はそちらに泊まることになるようだ

 次回は青ヶ島後編、島を形づくる二重カルデラをお送りします。

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