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<2分の1成人式>新たな学校行事 急速な拡大の是非
小学4年生を対象にした「2分の1成人式」が小学校で急速に広がっている。二十歳を祝う「成人式」の2分の1に当たる、10歳を迎えたことを祝うものだ。保護者を含めた新たな学校行事になりつつある一方で、さまざまな事情を持つ家族への配慮が行き届いているのかに懸念を示す専門家もいる。
◇平日でも立ち見
今年の「成人の日」の約1カ月後、川崎市立梶ケ谷小で2分の1成人式が開かれた。児童の後ろでは、その数をやや超えるほどの保護者が熱心に見守った。平日にもかかわらず父親の姿も数十人に上り、立ち見も出た。
プログラムは「10年間のありがとう」の暗唱でスタート。4年生約110人が「大人になるまで10年間よろしくお願いします」と声をそろえた後は、地域に伝わる獅子舞や、縄跳び、合唱などで、成長した姿を披露。1人10秒の「将来の夢宣言」、保護者へ手紙のプレゼント、と盛りだくさんの1時間強だ。
同校のイベントは総合学習の授業に組み込まれている。毎年、事前に命の教育の一環として助産師を招き、胎児がおなかの中でどう育ち、どのように生まれてくるかを学んで、自身の成長につなげる。この日は代表の児童が「おばあちゃんからお母さん、お母さんから私と、命のリレーになっていると気づいた」「僕の命に関わっている人に恩返ししたい」と作文を読んだ。
会社を休んで出席した父親(38)は「成長を見られて感動した」と満足げ。次男から手紙を受け取った母親は「読むと泣いちゃうので、帰宅してから開けます」と笑った。
「2分の1成人式」は学習指導要領に定められたものではなく、実施するかどうかも内容もまちまちだ。ベネッセが2012年に行った保護者アンケートによると、内容は、子どもの個別発表▽保護者から子どもへの手紙▽合唱・合奏▽小さい頃の写真紹介▽式典や祝辞▽成長記録やアルバムの作成などが多い。
◇教育目標と重なり
2分の1成人式は02年度版の国語の教科書の中で「十さいを祝おう」という単元で登場し、全国に広まったといわれる。文部科学省も小4向けキャリア教育案の中で取り上げる。ほかに命の教育や自己肯定感の養成など、この時期の教育目標と合わせやすく、保護者の反響も良いことから多くの学校が行うようになったようだ。
急速な広がりに企業も着目し、今年は下着メーカー、ワコールが「母娘の1/2成人式」と銘打って体の変化に着目するキャンペーンを実施。子ども専門写真館「スタジオアリス」も専用台紙をプレゼントするプランを展開する。
生みの親は兵庫県西宮市の佐藤修一教諭(62)とされる。35年ほど前に4年生の担任をした際、高学年への門出に「背筋を伸ばして参加するようなイベントを」と考案したという。児童が今後への決意を話したり、歌を歌ったりする、こぢんまりした学年行事だった。その後、同僚らが転勤先の学校で実施するなどして徐々に広まったらしい。
佐藤教諭は「今は場合によっては卒業式より感動的で、自分が始めたのとは趣旨が違う」とやや戸惑いつつ、「今は保護者が子育てをまた頑張ろうと思う、良い機会になり、すてきな会になっているのでは」と話す。
「未来を生きるきみたちへ--『二分の一成人式』で伝えたい いのちの話」の著書がある医師の鎌田實さんは「最近の成人式が単に和服を着る儀式になってしまったことを思うと、2分の1成人式の方が大事かもしれない」と広がりを歓迎する。
子どもや若者向けの講演では、命と自由、勉強の大切さを伝えているが「10歳くらいが最も伝わりやすい感じがする。言葉を受け止めたうえで変われるチャンスが一番ある時期」とみて、このイベントが成長の後押しになるよう期待を寄せる。
◇幸せな家庭前提?
一方、名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は、「親への感謝の手紙」が定番になっていることに触れて「感謝されるほど親は子どもに尽くしている、という幸せな家族像だけを前提にしていないか」と疑問を投げかける。虐待を受けている子どもは虐待に耐え、学校でそれを隠す。そのうえ、教師が「幸せな家族」しか頭にないなら逃げ場がなくなると懸念する。「幼い頃の写真の提出も、多様な家族が増える中で子どもや保護者を傷つけることがある」
内田准教授は「家族は安心安全の場になり得るけれど、壊れることもあるし、多様な家族の形があるというメッセージをまず学校は伝えてほしい」と求めている。
柔道による事故など学校内での事故の研究で知られる内田准教授は、2分の1成人式にも共通の構造を感じるという。「教育的意義がある、感動するなど『いいものだ』と思うと、負の側面が目に入らなくなり、ストップできなくなる。式自体が問題とは思わないが、負の側面にも目を向けて内容を考えるべきではないでしょうか」【田村佳子】