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セロトニンとGABAを合成するニューロンが離乳期に特異的に存在
北海道大学(北大)は10月22日、生理活性アミン「セロトニン」だけでなくアミノ酸性神経伝達物質「GABA(γ-アミノ酪酸)」を合成するニューロンが、離乳期のラットの「背側縫線核」外側部に特異的に存在することを発見し、さらにこの「5-HT/GAD67」ニューロンは新しい環境に置かれた時に感じる不安などの軽度なストレスに反応しやすいことを明らかにしたと発表した。
成果は、北大大学院 医学研究科の吉岡充弘教授、吉田隆行助教、同大学解剖発生学分野の渡辺雅彦教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、10月10日付けで学術誌「The Journal of Neuroscience」に掲載された。
近年、人々を取り巻く社会環境の極端な変化によって、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害などの「こころ」の疾患が問題化している。これらの疾患に対する第1選択薬である「セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」は、シナプス間隙のセロトニン「5-HT」を増やすことにより、抗うつ、抗不安作用を発揮する仕組みだ。すなわち、5-HTは、情動ストレスに対する生体防御機構の調節に重要な役割を果たしていると考えられる。
なお、「セロトニン作動性神経細胞」が集まる細胞群の1つである背側縫線核は、大脳皮質や扁桃体などに向けて5-HTを分泌しており、情動ストレスに対する生体防御機構の調節に重要な役割を果たしている神経細胞の「起始核」の1つだ。
背側縫線核には、5-HT合成酵素である「TPH2」だけでなく、GABA合成酵素である「GAD67」も含有する神経細胞の「5-HT/GAD67ニューロン」の存在が知られている。しかし、その形態学的特性や生理学的機能との関連についてはまったく不明だった。そこでグループはこの問題に取り組んだのである。
同大学院 医学研究科 神経薬理学分野の鹿内浩樹大学院生(現・北海道医療大学 薬学部助教)ならびに同解剖発生学分野の今野幸太郎助教が中心となり、ラット背側縫線核における5-HT/GAD67ニューロンの機能的特性について、行動薬理学、電気生理学および神経解剖学的手法によって多角的な解析が行われた。
その解析によれば、ラット背側縫線核外側部の5-HT/GAD67ニューロンは、生後3~4週齢の離乳期に一過性に出現することが判明。5-HT/GAD67ニューロンは、セロトニンのみを含有する5-HTニューロンよりも活動電位を生じる頻度が低いこと、合成したGABAを一般的なシナプス伝達には利用せず、「GABAトランスポーター1(GAT1)」によってGABA遊離や取り込みを調節することで、ニューロンの過剰興奮やそれに伴う障害を抑制している可能性が示唆された(画像)。
さらに、5-HTニューロンは身体に危害が及ぶ危険や恐怖に対する重度のストレスに反応しやすいのに対し、5-HT/GAD67ニューロンは、新奇環境から受ける軽度の不安ストレスに反応しやすいことも明らかにされている。
画像は、5-HT/GAD67ニューロンと5-HTニューロンの活動の様子。(1)背側縫線核外側部の神経細胞群は5-HTニューロン(グレー)が大部分を占めるが、離乳期には5-HT/GAD67ニューロン(オレンジ)が一時的に現れる。(2)5-HT/GAD67ニューロンは新奇環境ストレスに反応しやすい。(3)5-HT/GAD67ニューロンの活動電位パターンは、5-HTニューロンよりも低頻度である。(4)5-HT/GAD67ニューロンで合成されるGABAは、GAT1を介して細胞内外への取り込みや遊離が制御される。
5-HT/GAD67ニューロンと5-HTニューロンの活動の様子
離乳期は、脳の神経回路の発達や再編成において極めて重要な時期だ。また、社会生活を営む第1歩として、個としての活動領域を広げ、ほかとのコミュニケーションを開始する重要な時期でもあるのもいうまでもない。
この5-HT/GAD67ニューロンは、離乳期に受けるストレスの調節に重要な働きをしている可能性があり、詳細を調べることで、幼児期と成人期の情動行動の違いや情動発達およびその障害発症メカニズムを理解する一助になると期待されると、研究グループは語っている。