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プロービングで失敗しないためのオシロスコープ応用講座 (2) 受動プローブを使いこなそう
受動プローブ
オシロスコープで使用されるプローブの中で、もっとも汎用的なプローブは「受動プローブ」(または受動電圧プローブ)と呼ばれるものです(写真1)。
写真1:受動プローブ
受動プローブは、多くのオシロスコープに標準で添付されています。信号の正しい伝送ができるよう十分に考慮されたプローブなので、これさえ使えば何の苦労もなく正しいプロービングができるかと言えば、実はそうではありません。受動プローブという正しい信号伝送を可能とするツールが提供されているだけで、正しい測定のためには正しく使いこなすノウハウを知る必要があるのです。
プローブ補正による失敗例
まず、受動プローブはオシロスコープとの組み合せによる使用前調整(これを「プローブ補正」という)が必須です。これを怠ると、受動プローブを使う意味がありません。それどころか、受動プローブ自身が大きな測定誤差の発生原因になってしまうのです。図1に実例を示します。
図1:プローブ補正を怠った例
図1は発信器から発生させた周波数10kHz、振幅1Vの安定したサイン波(青色の波形)を、補正不良のプローブで観測した例です。補正不良である上下2つのサイン波(黒色の波形)は振幅が違っています。大きいものは1.112V(誤差+11%)、小さいものは0.848V(誤差-15%)と測定されています。
続いて、図2をご覧ください。
図2:誤ったプローブ補正を行った例
図2は、周波数1kHz、振幅5Vの安定したパルス波であるにもかかわらず、上下2つのパルス波(黒色の波形)の形そのものが異なります。先端部の振幅に注目してみると、本来5Vのはずの電圧が、上の波形は6.4V、下の波形は3.72Vとなっています。プローブ補正がずれた場合、測定結果はこんなに大きな誤差を生じてしまうのです(図3)。
図3:プローブ補正の影響 – 受動プローブの高域周波数特性をフラットに保つように調整する必要がある
振幅に差が出る理由
このように振幅に差が出る理由は、プローブとオシロスコープの組み合わされた周波数特性が平坦ではないからです。図4にプローブ補正が適切でない場合、周波数特性がどのくらい平坦でなくなるかを示します。
図4:プローブ補正の影響 – ここではTektronix製P5050型プローブを使用
1kHzを超えると影響が現れ、平坦ではなくなります。特に10kHz以上になると大きな誤差が見られます。プローブ補正という使用前調整がなされていない場合、本来1000mVであるはずの電圧が-15%にも+10%にも見えてしまうのです。
特性が平坦でなくなる理由
受動プローブがこのような性質をもつ原因は、その構造にあります。受動プローブは、オシロスコープの入力部をそのまま発展拡大したものなのです。受動プローブにより、オシロスコープはさらに大きな電圧を測定できるうえに、プローブを接続した際の負荷に与える影響をおおいに低減することができます。したがって受動プローブとオシロスコープの関係は密で、共に1つの電気回路を形成します。この回路を非常に簡素に表すと(これを等価回路という)、図5のように描けます。
図5:受動プローブとオシロスコープの等価回路
この電気回路において平坦な周波数特性を得る条件は、式1が成立することです。
式1:平坦な周波数特性を得る条件
構成要素のR1とR2は固定ですが、オシロスコープの入力容量C2はオシロスコープの型名ごとに異なる値で、チャネルによっても異なります。このため、式1が成立するためには、つねにプローブ側においてC1を調整する必要が生じます。これがプローブ補正です。調整することにより、初めて式1の関係が成立し、平坦な周波数特性が実現できます。
プローブ補正の方法
プローブ補正のための作業は簡単です。オシロスコープのフロントパネルにあるProbe Compen信号をプローブに入力し、調整用ドライバを回して図6の真ん中の波形のように、先端部を直角にするだけです(写真2)。
図6:プローブ補正の方法 – 調整用ドライバで真ん中の波形のように先端部を直角にする
写真2:プローブ補正の例
この調整は受動プローブとオシロスコープを組み合わせたときに毎回必要な調整です。例えば受動プローブを職場の同僚に貸して、戻ってきたときなどは要注意です。同僚はほかのオシロスコープに合わせてプローブ補正をしてしまったかもしれません。つまり、C1の値が変わっているかもしれないのです。受動プローブをオシロスコープに接続するたび、プローブ補正を行うよう習慣づけてください。
※ 本連載記事は、毎週火曜日と金曜日に掲載いたします。
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長