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冬眠モードから復旧!
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月10日、2012年1月6日に搭載機器の電力をシャットダウンする「冬眠モード」に移行したことを発表した小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun:イカロス)」(画像1)からと思しき電波を9月6日にキャッチ、8日にそれがIKAROSのものであることを確認したことから、同機が冬眠モードから復旧したと発表した。
画像1。宇宙ヨット、宇宙帆船などと呼ばれる、太陽光圧で宇宙空間を移動するIKAROS。(c) JAXA
IKAROSは、超薄膜の帆であるソーラー電力セイル(太陽帆)を搭載し、太陽光圧を受けて宇宙空間を航行し、同時に薄膜太陽電池で発電するという日本オリジナルのコンセプトの実証を目指した宇宙船。セイルは差し渡し20mの正方形をしているが、厚さは0.0075mmのポリイミド樹脂でできている。
2010年代後半に打ち上げ、木星およびトロヤ群小惑星の探査を計画しているセイルと高性能イオンエンジンとのハイブリッド推進を用いるソーラー電力セイル探査機の開発のための実証機であり、IKAROSでの太陽電池による発電は、探査機のイオンエンジンで利用するための実証試験というわけだ(画像2)。
画像2。「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンとソーラーセイルを組み合わせたJAXAのソーラー電力セイル探査機は2010年代後半に打ち上げを計画しており、木星とトロヤ群小惑星の探査を予定。(c) JAXA
IKAROSは2010年5月21日6時58分22秒に、H-IIAロケット17号機によって、金星探査機「あかつき」や大学製の小型衛星と相乗りで種子島宇宙センターから打ち上げられ、同年6月8~9日にはセイルの展開(1次、2次と2回に分けて展開が行われた)に成功した(2012年9月11日現在、打ち上げから844日が経過)。同6月30日には、すべての機器の動作確認を完了し、定常運用へ移行。そして遂に7月9日には、太陽光圧による「光子加速」が確認されたことが発表されている。
その際の推力は、1.12mN。1Nは1kgの質量の物体に、1m/s2の加速度を生じさせることを表した推進力の単位で、1.12mNは、地球上では0.114gの物体にかかる重力とほぼ同等の力だ。
その後、7月13日には姿勢制御デバイス(液晶デバイス)による展開後のセイルの姿勢制御実験に成功するなど、順調に航行。なお、液晶デバイスによる姿勢制御は、通電することで表面の反射特性が変わる薄膜デバイスを利用し、燃料を用いずに太陽光圧のみを利用してセイルの姿勢制御を行うというものである。
またIKAROSは科学観測などでも成果を上げており、7月7日には搭載観測装置によるガンマ線バーストの観測に成功したほか、宇宙塵検出器「ALADDIN」が2010年6月から2011年10月までの17カ月で約2800個のダストの衝突を検出(地球~金星近傍までの領域で、太陽に近づくにつれて、ほぼ1桁連続的に上昇する宇宙塵の分布構造をかつてない時間分解能で明らかにしている)。
そして2010年12月に定常運用が終了したが、それまでに(1)大型幕面の展開・展張、(2)電力セイルによる発電、(3)セイルによる加速実証、(4)セイルによる航行技術の獲得を達成し、後期運用に移行していた。
後期運用では、研究テーマの1つとして「膜面挙動・膜面形状の変化を積極的に引き出して展張状態の力学モデルを構築する」が掲げられており、1rpmから0.17rpmへの回転速度を落とす「低スピン運用」に続き、2011年10月17日には「逆スピン運用」が実施された。
そして逆スピンのために新規開発された「気液平衡スラスタ」(液化ガスを液体状態で貯蔵し、気化したガスのみを噴射する方式)による噴射を20分行い、順スピン状態0.17rpmから逆スピン状態の-0.24rpmに移行。遠心力が一時的になくなることでたわむなどのトラブルがセイルに特に発生せず、逆スピン後も状態は順調だった。
しかし、その後の姿勢はセイルが太陽に向ける面が悪くなる(発電量が最大となるセイルの面に対して垂直な方向ではなく水平方向になる)ことに加え(画像3)、軌道が遠日点へ向かっているために発電量が減り、電力消費量が発電量を上回ったために自動的に冬眠モードに移行(搭載機器のシャットダウン)しており、それが正式発表されたのが、2012年1月6日のことだった。
画像3。セイルを常に太陽に向けていないと、発電量が減って冬眠モードに。そのため、地球との通信を犠牲にした時もあった(アンテナを地球に向ける姿勢を取ると、セイルの角度が悪くなるため)
ただし、2012年3月には遠日点を通過することから、電力復活(冬眠モード明け)の可能性が予想されており、冬眠モードへの移行後は月2回の運用ペースで探索が続けられてきた。そして、9月6日にIKAROSらしき電波を発見、同8日にIKAROSであることが確認されたというわけだ。
9月11日時点のIKAROSの状態については確認中であるという。また、現在のおおよその位置は、太陽からの距離が0.73天文単位(AU)、地球からの距離が1.64AU、赤経150.6°、赤緯13.4°となっている。
復旧できたことにより、セイルの膜面形状データおよび姿勢運動データを取得することが可能になった。事前に、膜面姿勢運動に関する想定外の現象として、原因不明の膜面変形(たわみ)が発生。それが原因でスピン軸が太陽光圧つり合い姿勢回りに渦巻き運動する(すりこぎ運動の首振り角度が徐々に小さくなる)ことが判明している。
設計段階では、「はやぶさ」と同様に太陽光圧トルクを受け、スピン軸が太陽光圧つり合い姿勢回りに円運動する(すりこぎ運動をする)と想定されていたが、想定外の現象が発生したというわけだ。復旧したことでさらなるデータを取得できるので、運営チームは発生メカニズムを詳しく調べ、すでに構築した膜面の力学モデルおよび光学パラメータモデルの精度を向上させるとしている。
なお、IKAROSのツイッター「イカロス君」では、「…ふにゃ?」と二度寝しそうな雰囲気なので(笑)、ぜひみんなで呼びかけて目を覚まさせてあげてはいかがだろうか。