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最新理論と先端技術で宇宙の謎に挑むALMA電波望遠鏡 (9) 筋金入りのFX派、国立天文台が中心となって開発したACA相関器

最新理論と先端技術で宇宙の謎に挑むALMA電波望遠鏡 (9) 筋金入りのFX派、国立天文台が中心となって開発したACA相関器 日本開発のACAの相関器

 米国の設計の64アンテナ相関器はシフトレジスタを内蔵し、時間方向に512点の進み遅れを持たせた相関を計算し、その後フーリエ変換して周波数成分に分けるという方法で、ある意味、理解しやすい方式であるが、日本の開発のACA相関器は、まず、フーリエ変換を行って周波数成分に分解し、周波数成分どうしの相関を計算するFXタイプとなっている。国立天文台は、1982年に完成した野辺山のミリ波電波望遠鏡で世界初のFXタイプの相関器を開発した実績を持つ、筋金入りのFX派である。

 AOSに設置されたACA相関器 3本のラックで1クオドラントを構成し、これが4組並んでいる。左のラック内に見えるケーブルはアンテナからの信号や相関器内の接続を行う光ファイバ。ラックの端の面には富士通の∞マークが見える (c)国立天文台

 ACA相関器の構造は次の図のようになっており、各アンテナからの信号を受信して距離の違いなどによる遅延時間のずれを補正し、フーリエ変換を行うDFPモジュールと、16基のアンテナの自己相関と、120組のペアの相互相関を計算するCIPモジュールから構成されている。

 DFPモジュールに含まれるFFTボードでは、2GHzのIF信号に対して1M点のフーリエ変換を行い、3.815KHzのチャネルに分解する。このフーリエ変換は16ビットの精度で計算される。しかし、 F部の出力は4ビットに減らしてX部に送っている。これはX部のハードウェア量を減らすためで、ビット数を減らすことにより感度が低下するが、その損失は4.8%で観測時間を10%延ばせばカバーでき、節約できるハードウェア量を考えるとペイするという。

 アンテナペアの位置、方向と受信する電波の波長から、受信信号の山や谷の重なりの周期は計算できるので、ACAのFX相関器では時間方向の遅延を入れた相関は計算せず、コンピュータでの後処理でこの情報を補っている。

 16基のACAアンテナから2GHzのIFバンド×2偏波の信号を受け取り、DFP部でフーリエ変換を行い、CIP部で相関を計算して累積を行う(出典:”Digital Spectro-Correlator System for the Atacama Compact Array of the Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array”)

 FFTカード 8個の小型のヒートシンクがついたFPGAでFFT演算を行う。中央の4個は制御用FPGA (c)国立天文台

 CIPカード 8枚のFFTカードから16アンテナ分の信号を受け取り、相関を計算する。1クオドラントに8枚を使用する (c)国立天文台

相関器を使って不要サイドバンドの信号をキャンセルする

 ALMAの相関器では、このFFTと相関計算の間に90度の位相スイッチを行う部分が入っており、これを使って不要サイドバンドの分離を行っている。

 前に述べたように、バンド9、10の受信機はDSB方式で、LOの上側の周波数の信号と下側の周波数の信号が重なって出てきてしまう。バンド3~8の2SB方式の受信機ではサイドバンド分離ミキサでUSBとLSBを分離して取り出すのであるが、90°の位相回転のずれなどにより、不要なサイドバンドのキャンセルは完全ではなく、かなりの漏れ込みが生じる場合がある。

 実は、ALMAの基準信号系が配るLO信号は、一定の周期で、その位相を90度スイッチすることができる。USB側のIF信号は入力信号からLOを引き算し、LSB側のIF信号はLOから入力信号を引き算するので、その位相は180度異なる。ここでLOの位相が+90度スイッチされると、USBの位相は-90度変化し、LSBの位相は+90度変化する。

 LOと相関器90°位相スイッチで不要サイドバンド信号をキャンセル

 LOの位相スイッチと同時に、相関器で+90度の位相変化に相当する遅延を加えると、結果としてUSBの位相は0度でスイッチ前と同じになり、LSBの位相は+180度変化することになる。180度位相が異なるということは+/-が反転することであり、スイッチ前は加算されていたLSBの信号の足し算が、LOと相関器で180度位相を廻すと、引き算に変わる。この位相スイッチの有無の時間を同じ長さにしてやれば、USBの信号は常に加算され、LSBの信号はスイッチごとに加算、減算が切り替わってキャンセルされてしまう。

 この他にも、LOの180°位相スイッチを使ってバイアスを除去したり、アンテナ間でLOの周波数を少し変えて不要サイドバンドの信号を除去したりすることが行われているが、ここでは説明は割愛する。

データ伝送の制約から相関器の出力を間引く

 ACAの相関計では3.815KHzごとに相関を計算し、512K点の周波数について相関が計算されるが、ALMAの系全体としては、AOSからOSFに8K点のデータを送るバンド幅しか用意されていない。このため、512K点のデータを8K点に減らすという処理を行う。次の図に示すように、最大32個のサブバンドを定義することができ、各サブバンドがどの範囲をカバーするかを指定することができる。また、サブバンドの1点は、元のデータの2、4、8、16、…、1024点のデータを合計してひとまとめにすることができる。これらの指定はサブバンドごとに決められるので、特定の分子に対応する鋭いピークのある周波数領域では3.815KHzの細かい単位で出力し、なだらかな周波数領域では多くの点を纏めて一点のデータにするという使い方ができるようになっている。

  注目するピークのある部分は細かく、なだらかな部分は粗くというようにして512K点のスペクトルから、サブバンドという考え方で8K点を取り出す(出典:”Digital Spectro-Correlator System for the Atacama Compact Array of the Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array”、Publ. Astron. Soc. Japan 64, 29, 2012 April 25)

 ACA相関器は、そのほとんどの演算をFPGAで行っている。AOSは5000mの高地にあり宇宙線起因の中性子が海面付近に比べると多く、中性子ヒットによるエラー発生が心配されたが、これまでの運用では特に目立ったエラーは発生していないという。

 (次回は10月17日に掲載予定です)

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