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東大大気海洋研とJAMSTEC、南海トラフで津波地震型の巨大分岐断層を発見

東大大気海洋研とJAMSTEC、南海トラフで津波地震型の巨大分岐断層を発見 

 東京大学大気海洋研究所(AORI)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、南海トラフで取得した反射法探査および海底地形調査データの詳細な解析の結果、複数の震源域でほぼ同時に津波地震を発生させる「巨大分岐断層」(今回の研究では、海溝型巨大地震発生時にプレート境界より上方へ派生し上部プレートを破壊する活断層として定義されている)を発見したことを発表した。発表はAORI朴進午准教授ら研究グループによるもので、成果は国際誌「Earth、Planets and Space」3月号(3月5日発行)に掲載予定。

 2011年に発生した東北地方太平洋沖地震は、複数の震源域で連鎖的にほぼ同時に断層破壊が発生した連動型巨大地震として知られている。一方、100~150年間隔で巨大地震と津波が発生する西南日本の南海トラフにおいても、東海・東南海・南海連動型巨大地震の発生が懸念されている状況だ。

 南海トラフは、過去の巨大地震発生の履歴から5つの地震破壊領域に区分され(画像1)、多くの地震の場合、紀伊半島の潮岬沖が破壊領域の境界とされている。連動型巨大地震の場合、断層破壊が紀伊半島の潮岬沖を通して東西へ伝播すると推測されるが、その証拠は未だ得られていない。

 画像1。紀伊半島沖南海トラフ付近の海底地形図と反射法探査測線。測線1、2、4の反射法探査断面図は、画像3、画像4、画像2を参照。黒点線と青点線は、それぞれ1944年東南海地震と1946年南海地震の断層破壊領域を示す。赤点線は、全長200km以上の海底隆起構造帯。左上の南海トラフは、過去の巨大地震発生の履歴から5つの地震破壊領域(A、B、C、D、E)に区分される

 今回の研究では、連動型巨大地震の痕跡を見つけるため、南海トラフで取得した反射法人工地震波探査データと海底地形調査データを解析し、紀伊半島沖の海底地下構造と海底地形を総合的に調べたものである。

 反射法探査データなどを用いた過去の研究で、潮岬沖の東側(熊野海盆)にはプレート境界断層から上方へ枝分かれする巨大分岐断層が発達し、1944年に発生した「東南海地震」の際に、大きな津波を発生させたと知られている。なお、東南海地震とは紀伊半島沖から遠州灘にかけての海域で周期的に発生している巨大地震で、約100年から150年の周期で発生してきた。最新のものは、1944年(昭和19年)12月7日に、紀伊半島南東沖を震源として発生。

 熊野海盆には、巨大分岐断層の繰り返しすべりによる「海底隆起構造帯」が顕著に発達している。今回の研究で、海底地形調査データの詳細な解析の結果、熊野海盆の海底隆起構造帯は潮岬沖の西側、すなわち1946年の「南海地震」の破壊領域へほぼ連続的に分布し、その長さは東西200km以上に達することが判明した(画像2)。南海地震も100年から150年の周期を持ち、紀伊半島の紀伊水道沖から四国南方沖を震源としている。最新のものは、1946年(昭和21年)12月21日に、紀伊半島南東沖を震源として発生した。

 画像2。紀伊半島沖南海トラフ付近の海底面傾斜角度。黒い矢印で示す海底隆起構造帯は、海底面の急角度(15度以上)を示し、潮岬沖の東西でほぼ連続的に分布する。右下は、画像1の測線4、熊野海盆の反射法探査断面図を示す。1944年東南海地震破壊領域(C)で、プレート境界断層(海洋性地殻最上部)から上方へ巨大分岐断層が発達し、その繰り返し活動で海底面が顕著に隆起したと考えられる

 続いて反射法探査データを用い、潮岬沖の西側に発達する海底隆起構造帯付近の海底地下構造を調べた結果、同じくプレート境界断層から上方へ枝分かれする巨大分岐断層を発見し(画像3・4)、顕著な海底隆起構造帯の形成を確認した。

 画像3。上は画像1の測線1、1946年南海地震破壊領域(B)の反射法探査断面図で、下は、反射法探査断面図の解釈図。プレート境界断層(海洋性地殻最上部)から上方へ巨大分岐断層が発達し、その繰り返し活動で海底面が顕著に隆起したと考えられる

 画像4。上は画像1の測線2、1946年南海地震破壊領域(B)の反射法探査断面図で、下は反射法探査断面図の解釈図。こちらもプレート境界断層(海洋性地殻最上部)から上方へ巨大分岐断層が発達し、その繰り返し活動で海底面が顕著に隆起したものと推測される

 これは、巨大地震時に潮岬沖東西の巨大分岐断層がほぼ同時に繰り返し活動し、海底隆起構造帯を形成した可能性を示唆する。すなわち、東南海地震および南海地震が連鎖的にほぼ同時に発生する1707年の「宝永地震」のような海溝型巨大地震が巨大分岐断層すべりを伴う場合、連動型巨大分岐断層のすべりによって大きな津波の発生が考えられるという状況だ(画像5)。

 ちなみに宝栄地震は、1707年10月28日に遠州灘沖から紀伊半島沖を震源として発生し、海トラフのほぼ全域にわたってプレート間の断層破壊が発生したと推定されている。南海トラフ沿いで東海地震(現代でいう東南海地震も含む)および南海地震が連鎖的にほぼ同時に起きた東海・東南海・南海連動型地震と考えられている。

 画像5。連動型津波地震断層すべりの概念図。1944年東南海地震破壊領域(C)と1946年南海地震破壊領域(B)で連鎖的にほぼ同時に発生する連動型巨大地震(例:1707年宝永地震)時に、巨大分岐断層のすべりで大きな津波が発生する。巨大分岐断層の繰り返し活動によって海底隆起構造帯が形成される

 紀伊半島の潮岬沖の東西で発見した巨大分岐断層と、その巨大分岐断層のすべりで形成された海底隆起構造帯は、断層破壊が紀伊半島の潮岬沖を通して東西へ伝播する連動型巨大地震の証拠だ。今回の研究は、1707年宝永地震のような巨大地震時に、潮岬沖の東側と西側の巨大分岐断層が連鎖的に活動することで大きな津波が発生する可能性を示唆したもので、南海トラフで連動型津波地震断層を発見したのは、今回が初めてだという。

 なお研究グループでは、今後、全長200km以上の巨大分岐断層を地震発生モデルに取り入れ、南海トラフ連動型巨大地震と津波発生モデルの再構築を行うことで、防災・減災対策への貢献が期待されるとしている。

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