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IMS、1種類の有機半導体材料を自由自在にn/p型化して太陽電池の作製

IMS、1種類の有機半導体材料を自由自在にn/p型化して太陽電池の作製 

 分子科学研究所(IMS)は、有機半導体材料のフタロシアニンを不純物を極微量加えるドーピングによって、自由自在にn型化およびp型化することに成功したと発表した。また、同材料によって、フタロシアニン単独薄膜におけるpnホモ接合有機太陽電池の試作も行ったという。 同成果は、同所の平本教授の研究グループによるもの。詳細は、アメリカ物理学協会が発行する応用物理学の専門誌「AIP advances」のオンライン版に8月17日付けで掲載された。

 有機太陽電池は、低コスト、軽量、フレキシブルといった特長を持っており、今後2年程度で多彩なカラーデザインの有機太陽電池シートが商品化され、屋根、壁、窓、自動車などさまざまな場所に簡単に印刷、貼り付け、ラッピング、塗布する形で普及することが期待されている。しかし、すでに実用化されているシリコン系の太陽電池では、確立された半導体技術に基づいて、望みの性能のセル(太陽電池)を作製することができているが、有機太陽電池は、有機半導体の基礎科学のレベルがまったく不十分とされており、それが性能向上などの足かせとなっていた。

 研究グループは、すでにフラーレン(C60)のpn制御とpnホモ接合太陽電池作製に成功している、フタロシアニンは、これまでp型しか示さないとされてきたほか、C60はn型しか示さないとされてきた。今回の成果は、その両方について、p型、n型を自由にコントロールできることを意味するもので、これによりすべての有機半導体について、シリコンを用いた半導体のような、ドーピングによるpn制御、pnホモ接合太陽電池が作製できることが示されたものとなる。

 具体的には、メタルフリーフタロシアニン(H2Pc)にドーピングをすることでpn制御およびpnホモ接合の形成に成功した。従来、フタロシアニンのp型性は、空気からの酸素分子がアクセプタになることで発現するとされており、今回、フェルミレベル、セル特性の測定は、酸素、水ともに0.5ppm以下という酸素に触れさせない条件下にて行われた。

 ドーピングは、2つの化合物を同時に蒸着する共蒸着法により行い、ドナー性のドーピング剤として炭酸セシウム(Cs2CO3)、アクセプタ性のドーピング剤として酸化モリブデン(MoO3)が用いられた。ドーピングした際のフェルミレベルはケルビン振動容量法により測定された。

 ドーピングしていないフタロシアニン(H2Pc)のフェルミレベルは4.4eVで、価電子帯と伝導帯のほぼ中央に位置し、絶縁性である。ドナー性ドーピング剤である炭酸セシウム(Cs2CO3)は、そのエネルギーが3.0eVと浅い位置にあるため、より深い位置にあるフタロシアニンの伝導体(3.5eV)に電子を与える(還元する)ことができるため、フタロシアニン(H2Pc)に炭酸セシウム(Cs2CO3)を0.5%(5000ppm)ドーピングしたところ、フェルミレベルは3.8eVまでマイナスシフトし、伝導帯に近づいたことが確認された。これはつまり、n型化していることが確認されたこととなる。

 また、アクセプタ性ドーピング剤である酸化モリブデン(MoO3)は、6.7eVと深い位置のエネルギーを持つため、より浅い位置にあるフタロシアニン(H2Pc)の価電子帯(5.1eV)から電子を引き抜く(酸化する)ことができる。そこで、フタロシアニン(H2Pc)に酸化モリブデン(MoO3)を0.5%(5000ppm)ドーピングしたところ、フェルミレベルは4.9eVまでプラスシフトし、価電子帯に近づいたことが確認された。これはつまり、p型化していることが確認されたこととなる。

 図1 炭酸セシウム(Cs2CO3)と酸化モリブデン(MoO3)をドーピングしたフタロシアニン(H2Pc)のフェルミレベルの変化。ドープなしの場合は、バンドギャップ中央(4.4eV)にあり、絶縁性であることを示している。Cs2CO3ドーピングすると、3.8eVまでマイナスシフトして伝導帯に近づき、n型化する。MoO3ドーピングすると、4.9eVまでプラスシフトして価電子帯に近づき、p型化する。これは、フタロシアニンの完全なpn制御ができたことを意味するものである

 さらに研究グループでは、3種のセルを作製し、太陽電池の特性からも検証を行った。その結果、図2(a)の炭酸セシウム(Cs2CO3)をドーピングした単独膜セルは、酸化モリブデン(MoO3)電極との界面で光電流が発生していることが分かった。また図2(b)の酸化モリブデン(MoO3)ドーピングした単独膜セルは、Ag電極との界面で光電流を発生していることが分かったほか、図2(c)のホモ接合セルでは、セルの中央で光電流が発生していることが分かった。

 図2 作製したセルの構造。(a)炭酸セシウム(Cs2CO3)をドーピングしたフタロシアニンの単独膜セル。(b)酸化モリブデン(MoO3)をドーピングしたフタロシアニンの単独膜セル。(c)炭酸セシウム(Cs2CO3)ドーピング層と酸化モリブデン(MoO3)ドーピング層を積層したホモ接合セル。光電流が発生する赤線で囲んだ界面がセルによって異なることが分かる

 今回の結果は、今後、有機半導体エレクトロニクスが無機半導体エレクトロニクスなみに発展するための、基礎的で必要不可欠な技術であると研究グループではコメントしているほか、有機太陽電池においては、今回のドーピング技術によりpn制御を行うことで、より自由でフレキシブルなセル設計が可能となっていくとしている。また、有機太陽電池は、今回のフラーレンとフタロシアニンに代表される2種の有機半導体を共蒸着によって混合したバルクヘテロ層を用いないと、実用的な光電流が発生しないため、今回のpn接合技術を共蒸着膜に直接適用することで、実用化レベルである10~15%の光電変換効率の実現を目指していく予定ともコメントしている。

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