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MATLAB/Simulinkによるアナログ・ミクスドシグナルシステム設計 (4) MATLAB/SimulinkによるΔΣ変調モデルの設計、シミュレーション
3-2. MATLAB/Simulinkによる設計、シミュレーションSimulinkモデルによる異なるシステム構成案の検討
前回のような要件を実現するA/Dコンバータの設計フローにMATLAB/Simulinkを適用してみましょう。ΔΣ変調器の基本構成は、前項で示した概念図とほぼ同じイメージでSimulinkにてモデル化することができます。積分器や比較器は、基本ブロックとして提供されており、GUI上で配置、結線するだけでシミュレーションを実行することが可能なモデルを作成できます。変調器の周波数特性も容易に可視化、確認することができます(図2左上)。
また、伝達関数表現を用いてモデルを作成することも可能です。(図2左下)シミュレーションを実行してみると、いずれのモデル表現でも同じ出力結果となります。(図2右)
図2:ΔΣ変調のモデル例(1次)
よりSNRを向上させるため、積分次数を高くする、すなわち積分器を多段接続したモデルを作成し、特性の変化を確認してみましょう。基本となる1次から、2次、3次まで高次化したΔΣ変調器モデル、およびそれぞれの変調器の周波数特性を図3に示します。結果から、次数を高くするにつれSNRが向上していることが確認できます。
図3:異なる設計案の比較
ここまでは、理想的なアルゴリズムレベルのモデルを利用して、シミュレーションでΔΣ変調器の構成案を検討する作業です。再利用可能な回路設計などが存在しない場合には、このように、アルゴリズムレベルからシステム全体の構成、およびそれぞれの設計案の特徴を把握しながら検討を進める必要があります。
実現回路の特性を考慮したSimulinkモデルによる性能検証
一度ΔΣ変調器の構成案が決定されれば、一般的に次のステップは実現回路の検討となるでしょう。ΔΣ変調器では、フィードバック(負帰還)の最後尾で発生する量子化雑音は抑制されますが、初段の積分器に混入する各種の雑音は低減することができません。また、積分器が飽和すると正常なフィードバックがかからず、SNRが低下するなどの問題が発生します。つまり、回路として実現する場合には、雑音の影響や回路特性によって理想状態よりも性能が劣化することを考慮した仕様検討が必要となります。
ここでは、例として、スイッチドキャパシタ(SC)回路を用いて積分器を実現したケースを想定し、この実現回路の特性を考慮した2次のΔΣ変調器モデルによる性能検証について順を追って紹介します。
通常、このような実現回路の特性を考慮した設計には、アナログ回路設計、シミュレーションのツールが必要になります。一般的にはこのような回路設計ツールのシミュレーションには非常に時間がかかるため、設計パラメータを最適化するために、条件を変えてシミュレーションを繰り返すというような作業にはあまり向いていません。より効率的な設計環境を構築するためには、実現回路の特性をより抽象度の高いモデルに反映させる必要があります。ここでは、その一例として、MATLABおよびSimulinkの環境を利用して、ΔΣ型ADCの設計作業を支援する、SD Toolboxによるシミュレーション例をご紹介いたします(なお、SD ToolboxはMathWorksのユーザーコミュニティサイト”MATLAB Central”内の”File Exchange”からダウンロード可能です)。
3rdパーティによって作成されたこのSD Toolboxには、ΔΣADCの設計パラメータ探索に有用なMATLAB関数群、およびSimulink用ブロックライブラリが含まれています。積分器のDCゲインの上限やスルーレートの計算など実現回路の特性はMATLAB関数として用意されており、これをΔΣADCのモデル内に組み込むことでより現実的なシステムの挙動をSimulinkのようなより抽象度の高いシミュレーション環境で実行することが可能となります。
シミュレーションでΔΣ変調器の出力のパワースペクトラム密度(PSD)を計算し、結果を比較したものが図4です。理想状態に対し、熱雑音が帯域内のSNRに及ぼす影響や、スルーレートが高調波歪みを引き起こす状況が確認できます。このように、より現実的なシステムの挙動をシミュレーションで確認しながら、設計の最適化を進めることが可能となります。
図4:実回路特性を考慮したΔΣ変調モデル
3-3. まとめ
本稿では、MATLAB/Simulinkを用いた設計フロー改善へのアプローチについて、ΔΣA/Dコンバータを題材として取り上げ、より具体的なMATLABおよびSimulinkの適用例をご紹介いたしました。
このアプローチにより、理想的な回路特性からのずれがSNRにどの程度影響を及ぼすかを解析するなど、システムレベルの性能指標でコンポーネントを評価することも可能となります。さらに、ΔΣ変調器のシミュレーションのように、異なる設計案を比較するといった作業にも利用できます。
MathWorksのWebサイトでは、アナログ・ミクスドシグナルシステムの設計、開発にMATLAB/Simulinkを実際に適用したユーザー事例をユーザーストーリーとして紹介しております。
ミクスドシグナル集積回路を2カ月で設計・検証
またSimulinkの環境で試用可能な各種の参照モデルをまとめ、ライブラリとして無償で公開しております。このライブラリは下記リンクからダウンロード可能です。
Free Mixed-Signal Library in Simulink
こちらも是非ご参照ください。
著者:柴田克久
MathWorks Japan
インダストリーマーケティング部
シニアマーケティング スペシャリスト
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