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旅人マリーシャの世界一周紀行:第46回「死者の街バラナシ。ガンジス河でバタフライ…なんてできるかっ!」
みなさん、ナマステ。死者の街へようこそ。バラナシなしではインドは語れない。ここはインドの中のインド、いや、もはや“バラナシ”というひとつの国。
【写真】死者の街、バラナシ
母なる大河ガンジス河が流れる、ヒンドゥー教の聖地。「沐浴すればすべての罪は浄められ、死後の遺灰を流せば輪廻から解脱できる」。そう信じられる聖なる河は街の主役であり、そこにいる人や動物や建物はまるで映画のセットやエキストラのよう。
外に出ると、お香の煙が充満した空気がネットリと身体にまとわりつく。宿や店の並ぶ路地には「通さんぞ」と言わんばかりにはばかる牛。お香とそこら中に落ちている大きな牛のフンの匂いが混ざり合い、鼻と口を手で覆わずにはいられない。
路地を抜けると、その先に広がるガンジス河は息をのむ美しさ。たくさんの人がその壮大な景色を眺めている。その中で、インドの男たちはパンツ一丁で風呂に入るように垢をこすり、顔を洗い口をすすぐ。隣では洗濯物を地面でこすり、泡を河に流す者。花を捧げる女性や飛び込んで泳ぐ子供たち。
クドカン脚本、長澤まさみ主演の映画『ガンジス河でバタフライ』を見て、「私も頭から飛び込んでやろう」と意気込んでいたけど、実際に目の前にすると意外に水はきれい(?)なものの、やはり眼に見えない病原菌も気になるし、神聖な場所に興味本位で入ってはいけないんではという気持ちも生まれ、躊躇(ちゅうちょ)する。
同じ宿の日本人男子学生たちがノリでバシャバシャと沐浴していたけど、陸で見ていた若いインド人にハイタッチしようとしたら、「汚い! ガンジス河に入った手とハイタッチできないよ!」と避けられていた(笑)。よく見ると沐浴してるのはオジサンが多い。最近のインドの若いコは、沐浴しなくなってきたのかな?
頑張った日本人学生たちは念入りにシャワーを浴びていた。でも「なんか身体がカユイ気がする」と笑ってたのがちょっと怖かったので、私は彼らから1mほどの距離を保ちつつ笑顔で勇気を称えることにした。
夜になると、街の主役は「マニカルニカーガート」に入れ替わる。バラナシ劇場第二幕の始まりだ。そこは、かの三島由紀夫にも衝撃を与えたという“火葬場”。
ガートとは、河岸から河の中に下りる階段状の堤のこと。84ものガートのひとつであるマニカルニカーガートには、インド中から遺体が運ばれてくる。24時間絶えることのない赤い炎は、3千年もの間、燃え続けているという。
インドに墓はなく、遺灰はガンジス河に流される。一度ガンジス河に浸した死体は、一体3時間かけて燃やされる。さぞかし不気味な匂いだろうと思っていたけど、様々な強烈な匂いが交じり合ったバラナシでは、すでに鼻は麻痺していて特別キツイとも感じなかった。
それよりも、夜空へ雄たけびを上げるように燃え上がる炎。今日は特別によく燃える死体だったのか、煙の多さに目が開かない。死体の姿までは確認できなかったけど、ドクロの顔をした煙がウヨウヨと漂っているのを私は見つめていた。
神聖なる火葬場は撮影禁止。カメラを持ってるだけでトラブルになるとも言われる。観光で入り込む後ろめたさで私は緊張していたけど、すぐさま自称ガイドがやってきたので、そそくさとその場を離れることになった。
旅友はここでガイドの説明を受け、最後には「死体を燃やすための薪代US30ドル(約3600円)寄付しろ」と高額な薪代を請求された。仕方なく「300ルピー(約600円)」渡すと、「おまえはカルマ(業)を果たさないのか!」と罵(ののし)られたそう。
ガンジス河沿いは毎日、朝から晩まで旅行客や地元の巡礼者であふれる観光地。いわゆる日本語ペラペラの怪しいインド人もいっぱいいる。
頭が良くてギャグセン高い。「バラナシ、スバラシ、ハブラシ!」。これはただのダジャレですが、私の短く切りすぎた前髪を見て、「おまえ、ちびまる子?」とツッコミを入れてくる。
トークのテンポが良すぎて、関西人と話してるような感覚。ウソかもしれないけど、「オレ、大阪に3年住んでた」とか言うインド人多数。ウソだとしても、日本についてよく勉強していることには頭が下がる。
早朝、そんな面白インド人をいぶかりつつも、ボートで対岸まで行ってもらう。対岸は建物のない砂地で、関東の汚い海岸と似ている。
建物が連なる街側とはまた違う、この世の果てのような砂漠地に降り立とうとすると、まさか船から下りるにはガンジス河に足を入れなければいけなかった!
これは儀式でもなんでもなく、ただ船が陸まで上がれないだけのこと。不意打ちだけど、私はこのタイミングで聖なるガンジス河に足だけ浸すこととなったのだ!
冷たい水が足首まで届いた。ガンジス河に流された死体に足首を捕まれるのではないかと思ったけど、美しい日の出を映し出す河はさらなる神聖さを増し、ヒンヤリと気持ちが良かった。
私は自分の足を見つめ、インドの地を裸足でしっかり踏んでいることを確認した。バタフライこそできなかったけど、ガンジスに触れた悦びとバラナシの朝の静けさに恍惚(こうこつ)としていた。
生と死と喧騒と静寂とが混沌とする美しきバラナシは、私が今まで見てきた世界の街で、最も独特で異国情緒の強い所だった。
この地を去る時、死者たちに後ろ髪を引っ張られながら、必死に人並みをかき分けたが…。最後の最後にお約束通り、これ見よがしに落とされているありがたき地雷を踏んだのだった。グニャリ。
【This week’s BLUE】
美しいブルーのサリーをまとった美女の姿も。若い女性はなかなか見当たらないので、ひと際目立つ!
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負う小さな世界旅行者。【http://ameblo.jp/marysha/】Twitter【marysha98】