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<渡辺大知>黒猫チェルシーのボーカル「くちびるに歌を」に難役で出演

<渡辺大知>黒猫チェルシーのボーカル「くちびるに歌を」に難役で出演

 

 中田栄一さんのベストセラー小説を新垣結衣さんの主演で映画化した「くちびるに歌を」が28日に全国で公開された。合唱部の子どもたちと、新垣さん演じるピアニストの心の成長を描いた作品で、物語の重要なキーを握る自閉症の青年、桑原アキオをロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカルで、俳優としても注目を集める渡辺大知さんが演じている。渡辺さんに、同作の出演について、またアキオ役について聞いた。

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 --渡辺さんが演じたアキオは自閉症という設定です。役作りは難しかったのでは?

 渡辺大知さん:お話をいただいて、最初に脚本を読ませていただいたときは、自分の役柄は抜きにして、とてもすてきな作品だと思って、ぜひにと受けさせていただきました。役作りについては、自閉症について詳しく知っているわけではなかったので、最初は不安もありました。でも、自閉症の役をやるのではなく、アキオという人を演じれば良いんだと気持ちが変わりました。自閉症はあくまでも設定上のものであって、僕はアキオという一人の青年を演じ、それが映画の中で生き生きと輝けばいいんだと。

 --どんなきっかけがあったのでしょうか?

 渡辺さん:自分と同じ年くらいの自閉症の方が暮らしている施設に行ったんです。一緒に時間を過ごすうちに、自閉症には共通した仕草があるわけではなくて、度合や症状もさまざまだし、ひとくくりにはできないものだと分かりました。最初は、自閉症ってこういうものだろうと先入観を持っていたので、そこはとても勉強になりました。例えば自閉症の人が、目の前にあることに対して、好きだとか嫌だとか何かを感じて行動する。それは、僕も同じだなって。

 --自閉症の人という役作りをするのではなく、アキオという人物の個性の一つとして自閉症を捉えたと。

 渡辺さん:アキオの、心の部分を表現したいと思いました。アキオが「くちびるに歌を」という作品の中で、いつまでも生きていってくれるような人になったらいいなって。本当に、そのことだけ考えて演じました。なので、こう映ってやろうとか、いい顔で映ってやろうとか、変な欲はまったくなかったという自負はあります。

 ただ、仕草や動きに関しては、役作りということではなく、あくまでもイメージの共有ということで、監督と何度も話を重ねて、アキオ像を作り上げていきました。だから、原作ともまた違ったキャラクターになっていると思います。

 --例えば「レインマン」など、自閉症の登場人物が出てくる映画をご覧になったりしたことは?

 渡辺さん:もともとダスティン・ホフマンが大好きなので、「レインマン」は、改めて見直しました。中国の映画「海洋天堂」も見ましたね。「ギルバート・グレイプ」も昔見たことがあったんですけど、影響されそうだったので、これはあえて見直しませんでした。でも「レインマン」も「海洋天堂」も結局、参考にはしませんでしたね。もちろん、勉強になったことはたくさんありましたけど。やっぱりアキオは、アキオなので。

 --映画を拝見させていただいて、アキオは変なわざとらしさがなく、自然だなと思いました。

 渡辺さん:ありがとうございます。結局、できないことはできないんですよ。それはどんな役を演じるときでも思うことですけど、そこは結局、自分でしかないというか。自分以外の人間には誰もなれないわけですから。それが根底にあった上で、僕ができることを精いっぱいやるということを、常に心がけています。あと、僕が一人の映画ファンとして、見てみたいと思う映画にしたいと、いつも思っています。その映画の中で、その役を好きになれる映画にしたいんです。僕が映画館に行って映画を見て、僕が演じていることを抜きにして、面白いなって思えるものになったらいいなって。

 --物語の最後の方で、歌がいろんな人に力を与えるようなシーンがあります。渡辺さん自身、音楽活動をされていて、音楽の力を実感することが多々あると思います。その観点から、この映画を見て感じてほしいことは?

 渡辺さん:小さな島で起こる話だけど、合唱部の少年少女たちだけじゃなく、そこに暮らす大人たちを含めて、出てくるすべての人が生き生きとして、そこで生活している感じがあります。そもそも歌というものは、悲しかったりうれしかったり、生活の中で育まれる感情から生まれるものです。どんなに小さな世界でも、僕らの知らない国や街だろうが、歌というものは、生活に一番近いものなんです。

 この映画では、合唱部の子供たちだけじゃなく、歌ってない人もみんな歌っていて。合唱部の歌が、どんどんそれぞれの人の生活の一部になっていくんです。人と人が気持ちを通じ合わせることは、決して簡単なことではないけれど、気持ちと気持ちがつながったような気になれるだけでも素晴らしいことだと思います。そういうものが、みんなで歌うシーンにはあると思います。なので、映画を見てもらって、映画とお客さんがつながれるきっかけみたいなものが、生まれたらいいなと思いますね。それで、一人一人の生活の中に、歌があるんだと感じてもらえたらうれしいです。

 --では最後に、物語の中心となる合唱部の子供たちは15歳ということで、15歳のときの自分に声をかけるなら?

 渡辺さん:好きなことを思い切り、好きなようにやれよ、と(笑い)。あの頃にこういうことをやっておけば、もっとこうなっていたかもとか、思うことはありますけど。もっといろんなものを見たり聴いたりしておけばよかったなとか。でもそれは結果論だし、何を始めるにしても、それを好きになってしまえばスタートの時期は、あまり関係ないですよね。それよりも、自分がこうしたいとか、こうしたくないということを、しっかり持っていることが大事かな。どっちでもいいやっていうのが一番ダメで。これがやりたい、これがやりたくないと、自分を思って信じたことをはっきり持っていれば、きっと自分らしいやつになれるんじゃないかなって思います。

 <プロフィル>

 1990年8月8日生まれ。兵庫県出身。2009年に映画「色即ぜねれいしょん」(田口トモロヲ監督)で主演を飾り、俳優としてデビューし、日本アカデミー賞新人賞を受賞。以降数々の映画、CM、ドラマに出演。14年に初の長編自主映画「モーターズ」を監督。また、ロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカリストとしても活動し、インディーズ活動を経て10年にミニ・アルバム「猫Pack」でデビュー。アルバム「Cans Of Freak Hits」などリリース。池松壮亮主演、橋本愛らが出演した映画「大人ドロップ」(14年)の主題歌「サニー」を手がけ、自ら同曲のミュージックビデオの監督も務めている。

 (インタビュー・文・撮影:榑林史章)

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