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〈川崎・中1殺害事件〉 それでも少年法が必要な理由とは? 弁護士・松原拓郎
殺人容疑で逮捕された少年(18)の実名と顔写真を「週刊新潮」(3月12日号)が掲載した。日本弁護士連合会は「少年法に反する事態」として抗議した。
川崎市で中学1年生の上村遼太さんが殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された少年(18)の実名と顔写真を「週刊新潮」が掲載した。日本弁護士連合会は「少年法に反する事態」として抗議した。自民党の稲田朋美政調会長は、「犯罪を予防する観点から今の少年法でよいのか」と少年法の改正の必要性に言及、対象年齢の20歳から18歳への引き下げ、実名報道を禁じる規制を見直す可能性を示した。少年事件に詳しい弁護士の松原拓郎氏は、「今でも、少年法には十分な意味がある」と語る。そもそも、少年法の狙いと意義とは何なのか。松原氏に寄稿してもらった。
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少年法は改正すべきか?
川崎市で起きた痛ましい少年事件を契機に、少年法を改正すべきとの意見を多く目にします。その論調は、少年犯罪が増加、凶悪化している、そこで抑止のために少年法の改正が必要だ、というものと思われます。具体的には、(1)厳罰化/少年法適用年齢の引き下げ、(2)実名報道、の問題が主に議論されているようです。そこで今回は、この問題について、多くの少年事件にかかわってきた弁護士としての立場から、意見を述べてみたいと思います。
少年犯罪は増加しているのか/凶悪化しているのか
平成25年版「犯罪白書」の統計をみると、一般刑法犯(刑法犯-自動車運転過失致死傷等)については、成人人口比はそれほど変わらないのですが、少年人口比ははっきりと減少しています。その他、「少年犯罪の数の増加」と矛盾する統計資料は枚挙に暇がありません。少年犯罪が増加しているわけではないことは明らかです。
また、凶悪化しているとの評価もできません。凶悪化は、この「犯罪白書」を含め、統計資料からは確認できないのです。悲しいことではありますが、殺人事件などの、少年によるいわゆる「凶悪事件」は以前から存在していました。またこれら「凶悪事件」は、昔のほうが数としても多く、最近増加したわけでもないのです。また、「凶悪化」は多分に「感覚」「印象」によるもので、その感覚は、マスコミ報道やインターネットの影響を大きく受けています(皮肉にも、この記事もインターネット配信です)。
ここに、いわゆる「体感治安」の悪化といわれる問題があります。大きな影響を与えているのが、マスコミ、そして、インターネットを通じて情報が一気に拡散するという現代社会の特性でしょう。池上彰氏がこう語っています。「東京の局であっても、北海道でも福岡でも殺人事件があれば取り上げて、全国ニュースになってしまう。それを見たら『こんなに治安が悪くなっているのか』と思いますよね。少年事件は大人の事件より衝撃的だから、さらに大きな扱いになります。(中略)だから、少年事件が頻繁に起こっているような印象を受ける」(日系ビジネスONLINE、2015年3月6日)。まさにそのとおりだと思います。
制度を議論する際は、せっかくうまく行っている制度を壊さないためにも、少なくとも、マスコミ報道の影響を受けたイメージに基づいたものではなく、正確な事実認識を元に議論をする必要があります。
「厳罰化」や適用年齢の引き下げ 犯罪抑止の効果は?
もちろん、少年犯罪の数が減っているとしても、犯罪はさらに少なくするべきです。それでは少年事件について厳罰化する、または、少年法の適用年齢を引き下げることには、少年犯罪を抑止する効果があるのでしょうか。
少年法はこれまで何度か改正されています(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150224-00000004-wordleaf-soci&p=3)。しかし、改正の効果は、これまで十分に検証されたことがありません。たとえば、平成12年の少年法改正では、(1)刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げ、(2)犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件については、原則、検察官送致決定をするものとする、といった改正が行われました。しかし先の平成25年版犯罪白書の統計を見ると、平成12年の少年法改正の時期から数年間は、逆に、少年の一般刑法犯が増えているのです。統計上の数字の上下を見ても、厳罰化し、適用年齢を下げれば犯罪は減るはずだ、というのは、感覚的には自然に思えるかもしれませんが、実は根拠はないのです。
また、実際に事件を起こしてしまった少年たちの特性や実例を観察しても、厳罰化が少年の犯罪の抑止、あるいは犯罪傾向の改善に一般的につながるとは言えません。このことは、たとえば発達障がいを有する少年への処遇などを見ても、明らかといえるでしょう。
厳罰化によっては少年犯罪が減らない理由や、少年犯罪が起きる原因について、正確な事実認識と少年の特性理解などを元にした、冷静な議論が必要です。
実名報道についてどう考えるか
今回、実名報道の問題についても、さまざまな議論があります。
実名報道は少年の更生を阻害するとの意見に対しては、加害少年の更生などを考える必要はないとの意見もあります。しかし、それを突き詰めていけば、過ちを犯した人間はすべて隔離し、社会復帰を許さない、ということにつながっていくように思います。そこには、少年に限らず犯罪者は自分たちとは違う人種だ、とでもいうような認識があるように感じます。
しかし、実際にはそうではありません。実際に弁護士として少年を含む多くの加害者に向き合っている立場から言えるのは、多くの人は、「まさかあの人がこんな事件を起こすなんて」と周囲の人から思われる人たちだということです。そして、加害者が事件を起こすまでにはさまざまな理由や背景があることも、ここでは指摘しなければなりません。断罪的な意味で実名報道を求める論調は、加害者がさまざまな理由や背景から犯罪を起こすに至ったということへの理解が十分ではないので、犯罪の抑止や再犯防止にはつながりづらいと思います。
少年法の歴史
少年法は戦後に生まれたものではありません。少年法は、日本で「刑事未成年」制度が生まれ、成年・少年処遇とを分けて扱うようになった明治13年の旧刑法からの流れを背景とし、大正11年に制定されています。世界的に見ると、都市化・工業化が進んできた産業革命期以降、少年「非行」という概念が生まれ、これに対する法システムが世界的に作られていきました。児童心理に関する専門的知見も深まり、少年裁判所の設立・少年法の制定等につながっていったのです。こうした動きの背景には、少年が事件を起こすには、それなりの理由や背景があるということに対する理解、少年犯罪の防止には、その背景に応じた対応が必要であるとの理解が、広くコンセンサスを得てきたことがあります。
少年法の意義
法にも、社会にも、歴史と経験の積み重ねがあります。私たちが自身で経験できる知識と経験には限りがあります。それを補い、より正しい判断を行っていくために歴史を学ぶ意味があり、自身の判断の正当性を客観的に評価するために、前の経験に学ぶ意味があります。
私も、少年法をいわば「不磨の大典」のようにとらえるべきではないと思います。しかし、少年法という法律が先に述べたように長い歴史を踏まえて作られてきたことには、歴史的、経験的に見てそれなりの理由があるのだろうと思います。犯罪を許してはならないという点ついては、異論はないでしょう。問題は、犯罪抑止という目的のために私たちは何を、どのように考えるか、です。少年が事件を起こすには、それなりの理由や背景があり、犯罪防止にはその背景に応じた対応が必要である、という少年法の背後にある考え方。これには、今でも、十分な意味、合理性があるのではないでしょうか。
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<プロフィール>
松原拓郎(まつばら・たくろう)
2002年弁護士登録(東京弁護士会多摩支部)。弁護士登録以来多摩地域を中心として活動し、民事・家事事件、高齢者・障がい者・児童福祉分野などのほか、これまで多くの刑事事件・少年事件を担当。
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