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メガネの地場産業はウエアラブルの未来を拓けるか

 メガネの地場産業はウエアラブルの未来を拓けるか

 

  いまはITと無縁の地場産業と、ウエアラブルコンピューティングがいずれ良好なパートナーになるかもしれない。「グーグル・グラス」に代表されるメガネ型のデバイスに必要な部品がフレームだ。メガネフレームの地場産業はテクノロジーの進化に貢献していけるのだろうか?

メガネフレーム国内シェア95%の町

 [写真]SBMの実証実験(提供:SBM)

  福井県鯖江市。福井市に境を接する人口約6万7000人のこの町は、メガネの町としてその名が知れ渡っている。メガネフレームの国内シェアは95.9%、世界シェアで20%を占める。2008年のアメリカ大統領選挙で、共和党の副大統領候だったサラ・ペイリン氏が掛けていたメガネが鯖江産だったということで、テレビなどで大きな話題になったことは記憶に新しい。
 
  鯖江市のメガネ作りは、1905年(明治38年)に始まった。雪国の地で農閑期に農家の副業として広まったと言われる。2012年現在、事業所数は207か所あり、従業者は4212人。作られたフレームやレンズは主にアメリカや香港、中国に輸出される。世界に誇る福井県の代表的な地場産業であるものの、「海外製品との価格競争などで産地は厳しい状態にある」というのが行政の認識だ。
 
  こうした背景もあり、福井県庁は昨年、この地の産業とITのキーワードである「ウエアラブル」に注目。同デバイスの関連企業の誘致や産業育成支援に乗り出した。そのうちウエアラブル端末の実証実験などに50万円を助成するという事業では、観光支援アプリのデモを行っていたソフトバンクモバイルが、ウェアラブルを活用して博物館のガイドを実現するという企画案を提案した。

恐竜博物館でのウエアラブル実証実験

 [写真]SBMの実証実験(提供:SBM)

  この案は公募を通じて採択され、今年1月、同県勝山市にある県立恐竜博物館でウエアラブル機器を用いた実証実験が行われた。
 
  勝山市は、国内でも有数の恐竜化石の産地で、肉食竜のカギ爪や足あとの化石が発掘されており、調査研究や地域振興を目的として、2000年に恐竜博物館が開館した。世界三大恐竜博物館とも言われ、2014年8月には入館者600万人を達成している。

 [写真]グーグル・グラスに映し出される画面(提供:SBM)

  同博物館で、ソフトバンクモバイルが実験したのは、グーグルのメガネ型端末である「グーグル・グラス」とソニーのスマートウォッチを使った館内の展示案内だ。恐竜骨格7か所の前に来場者を検知するセンサーを設置した。来場者が展示物に近づくと、これを検知したセンサーが信号を発信する。信号を受信したグーグル・グラスにマスコットキャラクターの映像が映しだされ、恐竜を捕獲するよう指示が出る。来場者がグーグル・グラスのカメラで骨格を捉えると「捕獲」したことになり、その恐竜の説明が音声でされるといった具合だ。

 [写真]SBMの実証実験。スマートウォッチを使っても行われた(提供:SBM)

  センサーにはBluetooth技術を使ったiBeaconを、骨格の立体物認識技術にNECのGAZIRUを使用した。それぞれの機器が想定したように機能するかを実証するのがこの実験の目的だ。センサーを設置する場所が手すりなのかベンチなのか、センサーからの信号を受信するのがメガネなのか時計なのかで、それぞれの高さが違ってくる。高さが違うと電波の届き方が変わってくる。
 
  また、展示物の前を通過する人物のスピードは場所によって違う。適切な電波強度がどれくらいなのかを計測する意味があった。実験を担当した同社商品戦略推進部の小沢元氏は「今回の実験は小規模だったが、グーグル・グラスのようなハイパワーでない機器でも、高度な処理が実現できた意味は大きかった」と評価した。
 
  実験では100人近い一般の来場者がグーグル・グラスやスマートウォッチを身に付けて展示を体験。多くは、初めて使う人たちだったが、「アミューズメントパークのような経験ができて楽しかった」と感想を話していたという。
 
  小沢氏は「特にこうしたアミューズメント体験において、メガネ型の端末は、つけ心地、つまり装着感が大事だ。スマートフォンが持ちやすさを評価されるのと同じことで、技術とフレームが融合していくことは重要な要素だ」と力説する。

IT技術とメガネフレームは融合できるか?

 [写真] 西山公園から見える鯖江市(アフロ)

  IT技術とメガネフレームの融合──。鯖江市神明町のメガネ小売「GANKYO」の田中幹也社長は「技術とメガネフレームのノウハウがぶつかり合うところが『重さ』だ。デバイスをフレームに乗せると重量は20gを軽く超える。これを解決してくのが今後の課題」と指摘する。
 
  田中社長は、心地よくかけられるメガネのフレームの重さは20gが限度ではないかと考えている。バッテリーの重量が40gもあると、それだけで、かけ心地が大きく損なわれる。フレームに搭載する機能が増えれば増えるほど、全体の重量は増す。カメラを前に付ければ、当然重さは前方にくる。フレームはこの重さを逃してやるような構造にしないといけない。
 
  重量増は不可避なのだから、バッテリーの形状を変えたり、後方にバッテリーを配置するなどして、重量バランスが重要なカギを握る。そうした工夫を盛り込んだメガネフレームを新しく作ることになる。この町の人たちは、メガネを快適に装着するためのノウハウを一番よく知っている。

  ただ、フレーム作りにいろんなノウハウがあって、理想的なフレームが作れたとしても不安は残る。メーカーがデザインだけを鯖江に任せ、量産拠点を海外に置くかもしれないからだ。それでは地元は面白くない。グローバルなメーカーに対する交渉を地方の中小企業1社でやるには限界があるだろう。
 
  田中社長は「鯖江のメガネ作りは、デザイン、製造、販売などと分業が進んでいる。デザインから販売までを視野に入れ、これらの分業がうまくリンクさせていくことが大事だ。メーカーのニーズを受け入れる窓口として小売が機能していくことも考えていかなければならない」と話す。
 
  同県では、ウエアラブルをテーマにした講演やワークショップが開かれるようになってきた。県や市が主催するシンポジウムもある。地元メディアも「ウエアラブル先進県としての地位を築いてほしい」と期待を寄せる。その一方で、研究開発費を予算に組める事業所は多くないという現実もある。
 
  伝統的な地場産業が新しい未来を切り拓いていくためには、地元事業者の努力だけでなく、理解あるデバイスメーカーとの協働、そして行政などの支援、これらの結束が必要とされているということだろう。
 
  メガネが視力補正の道具以上のモノになる可能性があるには違いない。どうすれば今の地場産業から新しい産業を創出できるのか、その模索はまだ始まったばかりだ。

 本記事は「THE PAGE」から提供を受けております。
 著作権は提供各社に帰属します。

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